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第357号:オープンキャンパスで感じる校風と求められる人材

前回に続いてオープンキャンパスについて書きたいと思います。いくつかの大学を回って学生と話してみると各校の校風が見えて勉強になります。教職員の方の説明会や模擬授業にも参加してみましたが、やはり説明には大きな違いがあると感じました。それは大学が大事にしている「教養」の差なのかもしれません。

 

大学では学生の引率するキャンパスツアーにも参加してみました。どちらの大学も30~40分の行程でキャンパスの施設や歴史を解説してくれますが、この説明の仕方に違いがあって面白かったです。

 

ある高偏差値大学でのツアーでは、担当学生が理路整然に時間通りきっちり説明してくれましたが、この説明の仕方が教員の説明とよく似ていたのです。ちょっと残念だったのは、これも教員と似ていましたが、質疑応答などの参加者とコミュニケーションが殆どなかったことです。大学予備校の夏期講習ではありませんが、知識を一方的に詰め込まれた印象です。

 

それとは真逆だったのが中偏差値大学で、こちらの学生はツアーの最中にクイズを入れたり自分の体験を話したり、来客を楽しませるところを重視しているようでした。その大学で別の学生のツアーも横目で見たり、この大学教員の説明も聴いてみたりしましたが、同様に個性を前面に出しているように感じました。

 

面白いもので、その大学の教職員や学生は気づいていませんが、知らぬ間に校風が組織メンバーの言動に現れているのですね。これは企業の社風でも同じことが言えます。だから就職セミナーで学生が最近、よく質問する「御社の社風は?」はなかなか答えにくいものなのです。

 

さて、上記の二大学について、どちらが就職しやすいかというのは難しいです。専門性(知識)を重視するか、人間性(相性)を重視するか、最近の人事戦略用語でいえば、ジョブ型雇用かメンバーシップ型雇用か。両方あるにこしたことはありませんが、就職実績を比較してみると、それぞれを重視する分野に進んでいるように思えます。

 

こうしてみると、オープンキャンパスから見えてくるものは、大学の雰囲気だけではなく、社会に排出する人材タイプもあるのでしょう。それはきっと企業採用担当者にも有用な情報です。

 

実は今シーズン、知り合いの企業人事部長から「実は私の子供が来年、大学受験なのでオープンキャンパスに行ってみたいのですが・・・」という相談がありましたので、法政大学で案内しました。日頃、厳しく人を見る目から親御さんの優しい目になり、昔はなかったオープンキャンパスの場で子供のように目を輝かせておられましたが、学生の説明を聴き終わった途端、「君、良かったらうちに来ない?」と人事部長の目に戻ってダイレクトリクルーティングしていました。

 

こんな風にオープンキャンパスは、企業採用担当者への良い広報の場にもなれるかもしれませんね。

 

第356号:オープンキャンパスと1DAYインターンシップ

暑中お見舞い申し上げます。日本列島各地では台風災害に猛暑と大変ですね。

さて、企業ではインターンシップが、大学ではオープンキャンパスが花盛りです。これらは良く似ていて、どちらも来場者を如何に引きつけるかに工夫&苦労しています。私も毎年、保護者向けにキャリア教育のセミナーを行っているのですが、内容を考えていると採用担当者の気分がよみがえります。

 

オープンキャンパスと似ているのは、インターンシップでも1DAYのもので、本来のインターンシップとは異なりますが、オープンキャンパスの模擬授業のように短時間の仕事経験を設定したり、在校生が高校生と話すように社員との対談やディスカッションを行ったり、教員が講義をするように社員が講演をしたりします。その際に、私が心掛けていたことは以下の3点です。

 

1.良いこと(自慢話)だけを話さない

2.来場者とコミュニケーション(質疑応答)をする

3.他社の動向もみて自社のオリジナリティをしっかり考える

 

採用広報では、優秀な人材ほどうますぎる話にはのらず慎重です。なので、高偏差値の大学生にはあえて仕事の大変なところを話します。これは大学が高偏差値の高校生をターゲットにするのと同じです。

ちなみに人事採用担当者は総務広報担当者とそりが合わないこともあります。採用担当者はRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)を伝えたいのでトラブルも貴重な経験と考えますが、広報担当者は企業の全般的なイメージ向上を考えますので、ネガティブな表現にはうるさいです。

 

来場者の入社意欲を高めるためには、イベントへの参画意識をそそることです。経営ゲームのようなグループワークを行ったり、セミナーでも必ず質疑応答(コミュニケーション)を取り入れたりします。質問が出ない場合でもそのままにせず、好奇心をひく問いかけをしながら質問や関心を引き出します。志望動機とは、来場者だけが作るものではありません。喚起して一緒に作り出すものです。

 

最後に、採用担当者は意外と他社のことを知りません。大学の合同説明会等でご一緒しないと、自社のアピールポイントだと思っていたことが、どの企業でも当たり前だということに気づけないのです。同様に、最近は大学生がオープンキャンパスに参加して大活躍していますが、彼らは意外と自大学の強みや弱みを知りません。企画担当の学生には改めて他大学のオープンキャンパス偵察を勧めたいです。

 

ところで企業では、オープンキャンパスのように組織全体をあげての大規模な広報活動はできません。しかし、これから人材の獲得は益々大変になりますし政府が一億総活躍社会を標榜するのなら、「オープンカンパニーの日」という祝日を作ったら良いかもしれません。社員の家族を会社に招待してパーティー等を行う企業もありますが、そうした中にオープンに大学生も入れてあげれば良いのです。大学生は社会人との交流に飢えていますし、社会人もまた若者との触れ合いを楽しめるはずです。こうした機会が多くあれば、学生の仕事へのミスマッチも減り、好奇心と行動力も高まるのではと思います。

大学と企業、似た課題を抱えているのですから、良い協力関係ができると良いですね。

 

第355号:「自主性」と「主体性」の違いを問われたら

エントリーシートや面接では、時々、これは何を知りたいんだろう?と思わされる質問を見かけることがあります。最近、学生から聞いたのは「自主性と主体性の違い」でした。これを聞いて応募者の何を知りたいんだろう?これを聞いたところで実証できるのだろうか?と思いました。

 

とある企業コンサルタントの論では、以下の様に述べられています。

 

「自主性」⇒予め明確にされている課題を(他者に言われなくても)進んでやること。

「主体性」⇒目標が明確でなくても自分で考え判断して取り組むこと。

 

上記では目標設定の有無を判断基準にしています。となると、自主性より主体性の方が上位のようですね。説によっては、自主性が基本で主体性が応用とも述べられています(自主性を身につけた人が主体性を発揮できる等)。

 

さて、この論に従うとして、それをそのまま面接で学生に問うことで何がわかるでしょうか?経営学のリーダーシップ論の期末試験ならともかく、そうしたピンポイントの質問は単なる知識の有無で、採用担当者の自己満足になるおそれがあります。面接の前にちょっと本屋で見知って受け売り回答できれば、採用担当者の覚えはめでたく「ういやつじゃ!」と(一次選考は)合格するかもしれません。

 

しかし、結局それは採用担当者が好きなフレーズを知っているかどうかの評価に過ぎません。本当に自主性や主体性を持っているかを見極めるのなら、そうした実績を聞き出すコンピテンシー面接を行う、発揮能力を見るグループワークを行う等で測定するべきでしょう。採用担当者が評価軸の定義(基準)に「自主性」と「主体性」をもつのはなんら問題ありません。しかし、その基準をどんな選考手法で測定するかをもってなければ意味がありません。

 

誰でも、知ったばかりの知識は使いたくなるものです。例えば、コーチングを習った面接者は「あなたの今の気分は何色ですか?」と聞いて、その色の説明をさせることがあります。これは自己理解のワークで定番の質問で、緊張しやすい応募者をほぐしてみるとか、発想力をみるとか、用意してない回答を見たい等の意図をもってなされるのなら良いですが、そうでなければ単なる面接者の自己満足になってしまいます。そして、一番、恐ろしいのは採用担当者ご自身がそこに気づいていないことです。

 

まあ現実、こんな問題に直面したら、正解を当てるのではなく「曖昧ですが~」と持論を展開できれば良いと思います。説教が好きな採用担当者はきっと解説してくれるので、その反応を見ながら「なるほど~」と共感を見せればきっと結果もついてくることでしょう。そうした対人スキルは社会でも有用ですし、大学の期末試験でヤマが外れても諦めずに発揮して欲しい能力です。

 

第354号:最新と言われる中小企業の採用手法

大手企業の採用活動は峠を越えましたが、中小企業の方はまだまだです。私の授業では、企業人事の方を招いて学生のプレゼンテーションを評価して戴いておりますが、今週も2社ほどおこし戴きました。両者とも優良中堅企業にも関わらず採用充足率は50%ということで、内定は出しているものの辞退率が高いそうです。そこで、これまでの手法を見直して、新しい採用活動を検討しはじめています。

 

大企業と中小企業の採用格差現象は何時の時代にもあるものですが、構造的に売り手市場になったので学生の大企業指向は以前より強くなり、ますます格差が広がっています。こうした状況下で、以下のような戦略に基づいた中小企業のユニークなダイレクトリクルーティングが流行っています。

 

・応募者に多くを求めず、一つだけ求める。(求める基準の一点集中明確化)

・面白く応募しやすいキャッチコピーで引きつける。(応募ハードルを下げる)

・社員との交流を増やし、人的魅力で引きつける。(個人体験で応募意欲を上げる)

 

要は、ピンポイントで濃い小集団を形成するわけですが、ちょっとネット検索すると百花繚乱に出てきます(こういう時こそ、まとめサイトが便利です)。以下はここで紹介したものもありますが、ますます増殖しています。

 

・麻雀採用(スターティア)

・変態×真面目採用(ピーススタイル)

・終わケド選考(電通)

・顔採用(東急エージェンシー)

・面接ナシ選考(エニッシュ)

・29品のふぐ採用(東京一番フーズ)

・日本一短いES(三幸製菓)

・受験料制度(ドワンゴ)

・卒論/卒制採用(チームラボ)

 

これらを俯瞰してみると、他社のやらないこと、業界初のことを宣伝にして耳目を集める手法は昔と同じで、とりあえず来て貰う集団形成を重視しています。なので、こうした手法は単年度で終わるものが多いですが、逆に手法(選考基準)としても意味があるものは継続して実施されています。

もう一つの傾向は、大学生を対象としていますが、大学の勉強は(卒論採用等を除き)重視していない点です。こうなると大学生としての意義は、大学進学できる身分(家庭の財務状況)を見るくらいになってしまいますが、大衆化時代の大学という場が社会から新たな意義を求められてきたともいえます。今の採用責任者は「大学はレジャーランド」と呼ばれた世代になってきましたしね。

 

▼参考URL:「【ちょっと変わった】面白い選考方法取り入れている会社【就活】」(NAVER まとめ)

https://matome.naver.jp/odai/2132949328677520401

 

第353号:インターンシップで求められるスキル

時節柄、3年生の夏のインターンシップに向けた指導でお忙しいことでしょう。インターンシップを実質的な採用母集団形成に活用する企業も増えているので、4年生の就活相談を行いながら進めるのは大変ですね。私もこの時期は「インターンシップの心構え」というセミナー依頼が多いです。既に各校で定番のプログラムになっておりますが、私が採用担当者と大学教育者の両方の目線で話していることをご紹介したいと思います。

 

まず、インターンシップとは大学と社会を切り離して理解するのではなく、自らの意志で大学研究と社会の関係を意味づけできる能力の育成と機会の提供です。例えば、定番のビジネスマナーにおいても、挨拶や敬語や名刺の渡し方だけにとどめてはいけません。ビジネスマナーとは自分と相手の時間を大事にして「効率」を求めることと理解して、的確迅速に自分の考えを相手に伝えることも含めます。それは大学でのコメントペーパーの記入、レポート作成、課題発表での質疑応答、グループ・ディスカッションでも同様に求められることです。そして、社会で求められる力(インターンシップで実行している目標)として、以下の7つを教えています。

 

◆傾聴力 ⇒相手の信頼を得る力

◆質問力 ⇒相手から情報を得る力

◆記録力 ⇒書き留める習慣の力

◆実践力 ⇒マルチタスク&リアルタイム

◆分析力 ⇒問題や構造を理解する力

◆説明力 ⇒論理的に話し、納得して貰う力

◆楽観力 ⇒悲観は気分、楽観は意志

 

どれも一般的なことで説明不要でしょうが、これらは以下の2点を踏まえて指導することが大事です。これを忘れると「わかったつもり」になりがちです。

1.一般的な言葉は意味の幅が広いので、認知差が発生しないように注意する

2.それぞれの能力の自己鍛錬方法(現場での実行方法)まで教え込む

 

例えば「傾聴力」は本来カウンセリング等での専門用語でしたが、「報連相」と同様に今では学生も自己PRによく使います。しかし、カウンセリングのトレーニングを受けた方にはおわかりの通り、「傾聴力」は単に黙って聞くのではなく、相手を話しやすくする技術です(なかなか大変ですよね)。「分析力」は一定の基準(時間・空間)で構造を明らかにすることです。これらは大学での論文作成や討議にも必須のスキルであり視点です。

 

このように「インターンシップの心構え」を精神論で終わらせず技術論に落とし込むと、学生の成果も上がりやすいでしょうし、後の達成評価もやりやすくなります。この夏休みに、多くの学生が社会の中で大学の学びを再認識してくれると良いですね。

 

第352号:AIは採用活動を変えるか?

「忖度」と「AI」は、今年の流行語の東西横綱になるかもしれませんね。AIが発展すると「なくなる職業」というのもマスコミを賑わしましたが、果たして採用担当者の仕事はAIによってどのような影響を受けるのでしょう?

 

採用活動は、大きく分けて大規模母集団形成型(不採用活動)とスカウト型(ダイレクトリクルーティング)がありますが、まずAIが活用しやすいのは前者です。マスメディアを活用して形成した集団を選考活動で絞り込んでいくのは膨大な金銭&時間コストを伴います。特に初期段階での絞り込みは労働集約的作業ですから絶大な効果を出せるでしょう。

 

先日、ソフトバンク社がAIをエントリーシートの評価に活用するというニュースが出てきました。このように単純な正解/不正解の判断ではなく、経験値と能力との複雑な相関関係を把握する作業はまさにAIの強みが発揮できる分野です。勿論、最初は精度が低いかもしれませんが、こうしたデータを積み重ねることによって確実に進化するのがAIです。大学入試改革でも小論文の採点にAIの導入が検討されているのと同じですね。

 

一方のダイレクトリクルーティングでAIがどのように活用できるかは少し難しいですが、何処の柳の下に行けば二匹目のドジョウが居るかの確率を高めることに使えます。自社の求める人材がどんな大学・学部・ゼミに所属してどんな授業を履修しているのか、どんな部活・サークル・コミュニティに属しているのか、どんなバイト・ボランティア・イベントを経験しているのかを探し出すことです。

 

この場合では先述のケースと異なり、母集団形成過程において入手できる応募者情報ではなく、社外に存在しているビッグデータが必要になります。AIはどんなに優秀でも処理すべきデータがなければ無力です。そのため、今後はビッグデータを持っている思わぬ産業が就職情報産業に絡んでくる可能性があります。例えば、JRやJTB等は膨大な旅行者情報をもっておりますが、そのデータを活用して市場調査サービスを提供しているように。

 

採用担当者にとって有り難いのは、大学側がそうしたデータや情報を提供してくれることです。どの授業やゼミや教員がハードで良い学生を育ててくれるのか、そうした学生はどんな企業に就職していくのか、もしこうした情報が提供されるなら、学生と社会の出会いにも可能性が広がるように思います。そしてそれは、大学の教育力向上にも資するFD活動にもなるのではないでしょうか。

 

AIは人間の仕事を奪うものとして恐れる方もおりますが、そうした新技術を使いこなす視点を持ち続ければ、個人も社会も相互に発展可能でしょう。そうしないと、AIの方がドンドン進化して、いつか本当に人間の方が消えてしまうかもしれません。相互に進化していけば、AIは人間のことを忖度してくれるようになってくれると思います。

 

▼参考URL:「ソフトバンク、新卒採用にAIを活用 ESの評価を補助」(日経新聞)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL29HL0_Z20C17A5000000/

第351号:学生と採用担当者の認識差

ダイヤモンド・ヒューマンリソース社からは就職活動に関するビデオ(ダイヤモンド就職DVDシリーズ)がリリースされていますが、お使いになったことはありますか?私は授業でプレゼンテーション演習の教材として利用することがあります。先日、企業採用担当者の方をゲスト講師に招いて視聴したのですが、学生と採用担当者の受け止め方が真逆になりました。

 

今回使ったのは2種類の模擬面接の映像ですが、まず学生に何も説明せずに視聴後、グループディスカッションをさせ「皆さんが採用担当者ならこの応募者をどう評価するか」を発表させます。その後、企業採用担当者と私がそれぞれの評価をコメントし、解説します。

 

その結果、大変面白いことに、ほぼ学生全員(約100名)が不合格判定をした応募者を、採用担当者と私は(条件付き)合格にしました。同様に、2本目の映像では80%の学生が合格判定した応募者を私達は不合格にしました。あまりの認識差に、採用担当者の方もビックリしておりました。学生と採用担当者の認識は以下のような点で、対照的です。

 

▼学生

・面接は完璧でなくてはならない。

・話し方(印象)で合否を判断する。

・悪い点を中心に見る(あら探し)。

・即戦力を求めている(短期の視点)。

▼採用担当者

・面接で緊張するのは当然なので細かな失敗は気にしない。

・話す内容(論理の組み立て)で判断する。

・長所短所を見て、採用の可能性を探る。

・即戦力より成長能力を見ている(長期の視点)。

 

総じて、学生は「できあがった人」を求めているのに対し、採用担当者は「可能性のある人」を求めています。それも、学生の言う「できあがった」は人間性ではなく面接テクニックです。

 

どうしてこんなに学生と採用担当者の認識差があるのでしょう?学生からはいくつか意見が出ましたが、「先輩達の話しからは恐怖感しか与えられなかった。」というのは考えさせられました。大学でもよく内定者の就職体験談が開催されますが、「こう言って内定した!」「こう言ったらオチル」と熱く語るのを聴く度に、上記のような採用担当者との認識差を感じます。

 

いろいろなことが推測されますが、それは学生への宿題として後日プレゼンテーションさせることにしました。さて、この認識差の問題、原因、対策は明らかになるでしょうか?しっかり分析して論理的に説明できるかでどうかで、私の授業の単位が取れるかどうかが決まります。

 

第350号:レポート提出とエントリーシートの共通点

6月の採用選考開始を前に、学生からのエントリーシート(ES)を見て欲しいという相談が相変わらず多いです。たまたま授業でレポート課題を出したのですが、私の場合、採点基準はES選考の視点と同じです。今回のレポートをみて、このままでは苦労する学生が多いだろうなあと思わされました。

 

採用担当者はよく「自分の頭で考える人が欲しい」と言います。社会では正解のない(または正解が無数にある)問題に取り組むわけですから、そうした状況に一人で判断して対応できる能力が求められます。

一方、用意された環境(正解が決まっている)でしか考えたことのない学生は、そうした問題にぶつかると戸惑ったり自分本位の考え方をしたりします。例えば以下の様なものです。

 

1.回答文字数を決める

レポートの文字数の指定が「1000字以内」とされた場合、皆さんなら何文字書きますか?私の授業で多かったのは850~950字位ですが、700字位のものも意外とありました。勿論、指定内なのでどちらも要件を満たしていますが、ここで学生に自分の頭で考えて欲しいと思います。レポートでもESでも出題者には「この位は書いて欲しいな」という気持ちがあります。それが指定されている文字数です。つまり、700字しか書かない学生は、100点満点の問題を自ら70点満点にしているのです。

 

これは、企業のセミナーで学生にアンケートを書いて貰う場合も同じです。アンケートには文字数の指定は殆どありませんが、指定された記入スペースがあります。採用担当者は同じく「この位は必要だろうな」と考えながらアンケート用紙を作っています。しかし、文字数指定がないとスペースの半分も書かないという学生が結構おり、勿体ないなあと思います。

 

2.提出日時を決める

先日のレポートはネット経由の受け取りで、提出日だけを指定し、あえて時間の指定はしませんでした。結果、約60%の学生が締切当日提出で、90%が18時までに提出してきました。幸いなことに、相手は18時過ぎには帰ってしまうだろうと考えてくれたようです。

 

但し、ここでもう一歩考えて欲しいのは、締切当日には一気に提出が集中するので「先生も大変だろうな」「締切ギリギリではじっくり見て貰えないかな」という点です。教員にとって、締切数日前に届いたものはゆっくりじっくり見て何か不備があれば再提出のアドバイスも可能です。しかし、当日に届くものは到着の確認だけで精一杯で、後でまとめて処理をします。

企業のESの場合は、レポートと違って再提出を促すようなサービスはありませんが、扱い方の余裕度については同じです。なので、ホンの1日でも早く出すことをオススメします。

 

というわけで「自分の頭で考える」というのは、自分の都合で文字通りに受け止めることではなく、相手の状況を察して行動するということです。こういう点で学生の差は付くのです。なかなか日本文化的な視点ですが、学生にはしっかり理解して欲しいと思います。

第349号:大学教員間の評価基準の違い

最近、教え子から「良い成績をくれたのは先生だけです!」と言われることがチラホラあります。面白いことに、こういう学生の方が就活でうまく内定を取っていたりしますし、就職課にもちゃんと内定報告をくれませんか?どうも純粋なアカデミック教員と社会から大学に入った教員とには、授業方法だけではなく、評価基準にも大きな違いがあるようです。

 

私の授業は社会人のビジネスマナーの視点でみていて、遅刻・居眠り・私語・無用なスマホ厳禁等、うるさいですが、そんなことが企業訪問で役立っているのかもしれません。成績を甘く付けているつもりはありません。また授業によって採点基準は変えています。低学年では基本のビジネスマナーを、高学年では発信力を。この評価基準は、私が企業での人材育成時代の育成手法(カリキュラム)と同じで、実は採用選考基準(一次では基本を、二次では個性を、三次では・・・)とも同じです。

 

一方で、純粋アカデミック教員のモチベーションは、自分の研究テーマの方が中心で、その次は自分の研究室の学生、その次に一般講義での受講生となっているようで、一般の学生の教育や評価についてはそれほど労力をかけていない(かけられない)ようです。それに、純粋アカデミック教員は、自分のゼミ生ほど成績が甘くなる人情も働いているような気がします。私の授業でのレポートの書き方を見ていて、どう考えても単位は出せないような高学年の学生が、何故か卒論を立派に仕上げて卒業していきます(どんな卒論を書いたのか見てみたいです)。

 

大学の同僚からも「座学の成績が良かった人より、演習の成績が良かった人や部活など別の活動にエネルギーを使っていた人の方が就活の戦績は良かったです。」ということを聴きました。

 

そもそも大学と企業の求める能力には、同じ部分も異なる部分もあります。大学病院でも研究型の専門医と実戦型のERではスキルが全く違います。基礎研究を事業の中心とする医療製薬業界なら前者の評価が高いでしょうし、販売やマーケティング系の事業なら後者の方が求められるでしょう。

 

私は修士論文のテーマで「大学と企業の求める力のミスマッチ」を扱い、大学の教育メソッド改善の提言にまとめました。提言はシンプルで「アクティブラーニング」と「越境学習(留学・インターンシップ等)」の効果をうたい、授業手法の改善と学生の自主性の発揮環境をつくることです。

あちこちで実施されているアクティブラーニングは、社会の視点で見てちゃんとやれば、効果はありますよということです。逆に、指導者のファシリテーションスキルや学習者の事前知識が不十分では雑談で終わることもあります。授業評価アンケートでは、楽しい授業として人気は出るかもしれませんが、教員も学生もやった気になるだけ、ということもままあります。

 

大学を取り巻く時代も環境も変わったのに、現実を見ないでそもそも論ばかり論じ(まあ、そもそもこれが教員の性ですが)、実行プランの作成も行動もない・・・。

どっかの魚市場の引っ越しのような議論をしていてはいけません。どちらでも良いから早く動かないと現場の中小企業(中小大学)が破綻してしまいます。

第348号:似て非なる入試改革と採用改革の陰で

4月になり、新入生&新学期の授業で大学は活気づいています。今年も多くの若者が大学の門をくぐりましたが、皆様の大学では如何でしょうか?少し前の報道の大学受験者数ランキングで皆様もご覧になったでしょうが、なんと法政が全国2位になって教員である私も驚きました。その理由はやはり、最近増えている入試改革(入試方法の多様化)が大きいように思います。それは企業の採用改革と似ていて、入り口を工夫して母集団を増やすことですね。

 

企業がマスメディア採用からダイレクトリクルーティングという多様な採用活動を展開し始めたのは、大きくて(志望動機の)薄い集団より、小さくても濃い集団を狙ってのことです。応募者の指向性に合わせて受験スタイルを変えて志望動機を高めるという手法は似ていますが、企業では応募者からの受験料収入がありませんから、いたずらに規模を大きくできないのは異なるところです。

 

こうした入試改革と採用改革が同時期に行われている背景にあるのは少子化で、構造的に売り手市場が続きますから、ますます志願者に合わせた入試・採用改革は行われるでしょう。しかし、それは結局限られたパイの奪い合いに過ぎません。法政のような都市圏のメガ大学が受験者を集めて派手に取り上げられる陰で、逆に地方・郊外の小規模大学では逆に受験者・入学者の減少が起きています。そしてこのままでは、この問題(大学間学生数格差)はますます激しくなり、経営がたちいかなくなる大学も増えてくるでしょう。

 

結局、大学も企業も、次の課題は、奪い合いから育成に向かうことです。大学であれば、若者人口は減りますが、社会人・留学生を迎える施策は多くの大学で成されてきました。これをもっと本格的に進めなければなりません。しかし、社会(企業)から大学に移った教員から見ると、大学の授業は良いものが多いのですが、良さを伝える工夫はまだまだです。そもそも教員がその良さに気付いていない方が多いですし、そういったことに無関心の教員も多いです。

企業にとっても、厳選採用ではもたなくなってくるでしょう。次はそこそこの人材をできるだけ早くデキル人材に変えていく能力開発が重要になってきています。しかし、企業の多くはバブル崩壊後、採用担当者や能力開発担当者の人員削減を行ってきたので、自社で育成する技術を忘れかけている企業が増えてきています。

 

手前味噌ながら法政の田中総長もそこに気付いており、受験者増をよろこびながらも「今は拡大路線ではなく、教育の質を高める時だ」と述べています。

人類の歴史が、縄文(狩猟)文化から弥生(農耕)文化に変わっていったように、持続可能な社会にしたいなら、資源は奪うものから育てるものに変えていかなければなりません。青森県の三内丸山遺跡の発掘が進んでいますが、この遺跡の脅威の発見は縄文時代でありながら農耕もしていたことです。日本人はこうしたハイブリッドが得意なのかもしれません。そうした想いを新たに大学も企業も新年度を頑張っていきたいものです。

 

▼参考URL:「法政、なぜ関東の志願者トップ 和服総長の勝利宣言」(日経スタイル)

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO14950530V00C17A4000000