第115号:法政大学キャリアデザイン学部のキャリア教育検証

今春、初めて卒業生を輩出した法政大学キャリアデザイン学部開催のシンポジウムに参加してきました。この4年間のキャリアデザイン学部の取り組みを通じて見えてきたキャリア教育の検証というテーマで、非常に参考になる内容でした。

 

シンポジウムの個別内容は多岐に渡りましたが、その中でも私個人の印象に残った言葉をご紹介したいと思います。

・『自分探しの学生はお断り』

キャリアデザイン学部は創設当初より高い人気で志願者を集め、大学経営としては成功を収めました。しかし志願者の内訳は期待通りではありませんでした。というのは、この学部に志願する方は「他者のキャリアデザインを支援できる人材」と「自分のキャリアデザインができる人材」であり、前者を社会人、後者を高卒学生と想定しておりました。その社会人と学生との交流から学習するのが狙いだったわけですが、社会人学生の入学は少なく殆どが「自分探し」の学生になってしまったそうです。

しかし「自分探し」は大学生(若者)にとっては当たり前の行為であり、しかも卒業までに答えの出るものでもありません。そのため、キャリアデザイン教育という独自性がわかりにくくなってしまい、最終的に卒業後にどんな分野でどんな活躍をする人材を輩出するのが曖昧になってしまいます。その点への問題提起でしたが、非常に潔い言葉だと思いました。

 

・「キャリア教育は道徳教育」

キャリアデザイン学部は設立する前からそのコンセプトを理解して貰うのに苦労したそうです。経験豊かな教授に説明をすると、「なんだそれは道徳教育ではないか!」と言われてしまったそうです。確かに多くの大学で導入されているキャリア教育プログラムを見ると、以下のようなものが多いです。

1.学外社会人講話によるオムニバス講義

2.自己理解・自己発見ワークショップ

3.コミュニケーション系トレーニング

4.インターンシップ

5.地域コミュニティ活動

これらを見ていると、やはり日本社会から失われつつある人間関係を感じます。本来はそこから自然に身に付いた道徳や常識や対人スキルが未成熟成っているのでしょう。それに大学進学率向上やデジタル社会等の現代の社会変化が拍車をかけています。

 

こうしてみると、キャリア教育には、これまで当たり前でやらなくても良かったものを、改めて行うところに現代的な意義があるようです。キャリア教育としての議論もいよいよ第二章に入ってきたようですが、法政大学にはこの分野の更なる研究を期待したいと思います。

第114号:続けるべきか止めるべきか

いま、採用担当者がもっとも悩んでいる問題です。先日の新聞紙上では大手企業の4割が新卒採用を終了したと報じておりましたが、これは全国の企業数の1%にも満たない有名大企業の中の4割ということで、殆どの企業が採用活動をまだまだ継続中です。しかしながら今の環境を考えると、採用担当者が採用活動を続けるべきか止めるべきかでハムレットばりに迷っています。

 

ピークを越えたと言われる現在、採用・就職活動を続ける企業と学生の心境はどんなものでしょう?

▼企業の気持ち:

・良い学生はもう就職活動を止めてしまったのではないか?

・まだまだ採用枠はあるけれど、どうやって応募者を集めたら良いのかわからない。

・人出も足りないし、そろそろ来年(2009年卒採用)の準備をしないといけない。

⇒その迷いの原因は、何処に就活継続中の学生が居るのかわからない「出会い不能」の悩みですね。就職情報企業のデータからマクロな傾向はわかっても、その学生が何処でどうしているのかわからない、ということです。大学就職課でも最近はなかなか状況を把握できないのですから。

 

▼学生の気持ち:

・今の内定企業では納得できないけれど、昨年秋からずっと就活なのでもう1日も早く止めたい。

・まだ一つも内定がないが、もう疲れた(もう選考で評価されて落ち込むのは嫌だ)。

・魅力的な企業が見つかったのだが、今の内定企業に誓約書を出してしまって動けない。

・まだ続けたくても、採用活動を続けている良い企業が見分けられない(怪しい所が多いのではないか?)。

⇒こちらの原因は、何処に良い会社があるのかわからない「出会い不能」の悩みだけではなく、新たにゼロからチャレンジするのは辛いという心理負担もあります。早期に就活に取り組みながら、春先は人気企業ばかり回ってしまい、納得いく結果が得られなかった学生が陥りがちな心境です。

 

こうしてみてみると、この2者には出会いのミスマッチだけではなく、精神力のミスマッチも起きているのがわかります。企業は採用意欲満々でも、相手の学生は応募意欲が切れかかっているということですね。この双方の悩みはまだしばらく続くでしょう。

 

ところで大企業で意外と多いのが、「トップダウンで決まったので継続採用をやるしかない(現場はもう無理だと感じていても、形の上でもやっておかないとトップが納得しない)。」というケース。そういえば、かつてはリクルーター経由で採用活動の大半が終わっていても、対外的な世間体のために就職協定解禁日に自由応募の会社説明会を開く企業がありました。どちらも採用担当者にとってはトホホの不毛の仕事で泣きの声をよく耳にします。売り手市場でも買い手市場でも採用担当者の苦悩は尽きません。