第288号:大学キャリア教育は採用担当者の能力開発

先日、採用選考についての経団連の「採用選考に関する指針」が改訂・公開されました。今回の改訂では「広報活動開始前に行われる学内セミナーについて」の項目が追加され、「大学が責任をもって主催すること」「参加学生に対し、キャリア教育の一環であり、採用選考活動とは関係ないことを明示していること」などの条件を満たす場合、企業が学内セミナーへ参加することを認めるが加えられています。これは企業採用担当者にとって良い能力開発(または試練)になります。

 

「後ろ倒し」により、いま多くの採用担当者がどうしたものかと右往左往しております。採用担当者の発想力や行動力が求められるので、私は良いことだと思っています。日頃、「個性のある人材を求む」という採用担当者自身が身をもって体験するわけですから。その中で、リクルーター再編成と今回の「大学キャリア教育」へのアプローチが盛んになってきました。

 

大学キャリア教育自身が、まだまだ発展途上段階、またはカオス状態であると言っても良いですが、企業との連携が大きなポイントになることは間違いないでしょう。これまでも、企業採用担当者やOBを並べたオムニバス講座のキャリア教育はありました。これは大学も企業も最も楽で効果の上がるものですが、中には企業の採用セミナーをそのまま話すものもあり、それでは芸がありません。

 

そこで大事なのは、採用担当者が能力開発のスキル・視点をもつことです。企業人事部では、社員の採用活動と能力開発活動は連続していることが多いですが、その順序が「採用⇒開発」から、「開発⇒採用」になるわけです。それは、採用担当者が「求める人材の能力判定」から「求める人材の能力設定と育成」を行うということです。人事で能力開発の経験のある方には腕に見せ所ですが、そうでない採用担当者にとっては試練です。人を批判することは楽ですが、育てることは本当に難しいことですから。

 

大学が伸ばしている能力と企業が求める能力、曖昧模糊といわれる「求める人材像」も、こうしたキャリア教育が進めば自然と解消されてくることでしょう。日本の新卒一括採用は、批判されることが多いですが、大学と企業が連携して採用・育成してきたことは日本独特の良い点だと思っています。世界のやり方をそのまま持ってきても絶対に成功しませんし、逆に強みや個性を失うことになります。

 

今回の指針に合わせて大学側(就職問題懇談会)からも方針が出され、外形的なルールが定められましたが、これからは更に内容の進化まで踏み込んで貰いたいものです。ピンチはチャンスと良く言われますが、是非、良い方向に活かしていきたいものです。

 

▼参考URL:採用選考に関する指針(2014.9.13 経団連)

http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/081.html

 

▼参考URL:大学内キャリア教育の申し合わせ(2014.9.16 就職問題懇談会)

http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/078_moushiawase.pdf

第287号:アルバイト今昔

大学の夏休みも終盤となりました。早い大学では来週から授業が始まることでしょう。大学生にとって夏休みといえばアルバイトですが、今はアルバイトの内容も目的も昔とはだいぶ変わりました。その過渡期は、バブル崩壊からIT時代の始まりである90年代です。アナログ時代からデジタル時代への変化と言っても良いと思います。その変遷を考えてみましょう。

 

バブル崩壊までのアナログ時代(80年代まで)は、学生のアルバイトは社会の中で中心的な労働力ではなく、正社員中心の中での補助的な存在でした。企業での仕事もネットはなく、パソコンも限定的な使い方をされていました。こうしたアナログ時代では、職場の社員のコミュニケーションも会話や電話が中心で、事務のアルバイトに就いた学生は知らぬ間に門前の小僧となり、社会人(正社員)の仕事ぶりを感じ取ることができました。

私は学生時代、お中元やお歳暮の宅配便のアルバイトを行っていたのですが、オフィス街を担当すると大企業の中まで入って配達することもありました、社会人のデスクやオフィスの掲示物などを見て、ビジネスの世界を垣間見ることができました。

 

しかしデジタル時代になると、こうした大人の世界は学生から隔離されてきます。情報漏洩防止のセキュリティ強化によってオフィスの中には入れなくなり、非正規社員の増大により仕事の内容も正社員とは切り離されてきました。その結果、正社員とアルバイトとの職場もデジタルに切り離され、アルバイトはアルバイトとしての仕事になり、どんなに頑張っても正社員の仕事を理解することは難しくなりました。

 

学生のアルバイトの目的も変わってきました。アナログ時代は何かの目的(スキーに行く、ギターを買う、旅行に行く、等々)のために行ったアルバイトが、アルバイトを通じてのコミュニケーション力向上、自己理解、友達作り等の自己啓発やコミュニティになってきています。手段が目的になってきたようです。

 

そしていま、インターンシップがそれに代わろうとしています。夏休みに頑張ったことは何ですか?という質問に「企業のインターンシップに取り組みました!」という学生が急増しそうです。日本で言うインターシップは期間も内容もご本家米国とは相当に違ってきてしまいましたが、アルバイトの敷居を越えて正社員の仕事の中にちょっとでも踏み入ることができるなら、それはそれで良いのかと思います。少子化で企業が求人不足になれば自然と競争が進み、インターンシップの内容は改善されてくるでしょう。現に採用時期の後ろ倒しで何をして良いかわからない企業採用担当者は、いまインターンシップのあり方を考え直しています。

 

上述の通りデジタル時代には門前の小僧は自然には生まれませんので、成長機会を意図的に作ってあげなければなりません。かつてアルバイトが社会の窓として機能していたように、インターンシップがそれに代わってくれれば良いと思います。職場と隔離された研修ではなく、職場から学び取れるインターンシップであって欲しいと思います。