第57号:大学内セミナーでの個人情報の取り扱い

ピークを越えつつある学園祭とは反対に、キャンパスでは就職ガイダンスがますます盛んになって参りました。この時期は自己分析や業界説明等、企業の具体的な説明はまだなされませんが、採用担当者にとっては重要な知名度アップの機会です。私もたまに大学内での合同企業説明会のコーディネートを依頼されるのですが、最近は学生の個人情報の取り扱いに気をつかうようになりました。

採用担当者が大学での種々の就職ガイダンスに参加して、関心をもった学生から積極的にアプローチして戴くのはとても嬉しいことです。採用担当者の仕事のやり甲斐を感じる一時で、「お時間のある時に改めて訪ねてきて下さい。」と思わず名刺などを渡してしまいます。しかも、こういった縁で採用内定に結びつく件は、意外と多いのが実感です。(勿論、「これは!」と思った学生でないと名刺など渡しませんが。)

企業にとって早期に応募者の母集団形成をすることが重要なミッションになっている昨今、大学内セミナー等の機会で1人でも多くの学生の個人情報を集めたいというのは採用担当者の本音です。しかし、ここで改めて採用担当者に倫理が求められると思います。私も大学内で複数の企業のセミナーをコーディネートする際には、以下のような視点から参加企業に対して学生の個人情報の収集をご遠慮戴くようにお願いしております。

1.自身の個人情報の取り扱いになれていない学生の保護のため。

2.早期の就職ガイダンスは学生の職業理解が目的であり、企業理解ではない。

3.間接的に採用(就職)活動の早期化を煽ってしまうことを防ぐため。

4.学生が気軽に企業にコンタクトできるようにするため。

最近の多くの大学内セミナーでは、まだこの点が完全に管理されていないように思えます。アンケートと称して企業が学生の個人情報を集めることも珍しくないようですが、しかるべき時(まあ後期の試験が終わる頃でしょうか)が来るまで、そこは就職情報企業に任せてグッとこらえたいところです。

単一民族の日本ではプライバシーに対する問題意識がまだまだ低いようですが、個人情報の取り扱いがますます社会的にも大きな問題になってきております。社会の入り口である就職ガイダンスのところからお互い気をつけていきたいところです。学生にも自分の情報を自分で守る意識を持たせたいものですね。

 

第56号:奇跡の陰にある理工学技術(と就職面接)

中越地震での被災地にご関係の方々の心労、お察し致します。つい先日、長岡科学技術大学へ就職ガイダンスにお伺いしたところでしたので、ニュースで状況を見るたびに心が痛みます。今回、二つの「奇跡」がマスコミ報道されています。その中で理工系学生の就職面接を思い起こさせるシーンがありました。

ご存知のとおり、「奇跡」のひとつは上越新幹線での大きな怪我人が無かったこと、もうひとつは土砂崩れから救出された幼児の件です。新聞報道では、この二つは「奇跡」と言われておりますが、この奇跡の陰には理工学技術が大きく寄与していると思います。

とあるTVニュースでは、この新幹線事故を「安全神話の崩壊」という視点でキャスターがとりあげ、海外での新幹線ビジネスに影響が心配される、と声高に報道しておりました。しかし、そのインタビューを受けた新幹線の技術者がいろいろな具体的材料をあげながら、「私は技術者として今回の出来事が奇跡だったということは言えませんが、これまでの研究開発や技術の結果だと信じています。」と全く動じることなく発言されていました。奢った態度ではなく、事故を冷静にみている態度に、流石のキャスターもその後のトーンが変わりました。まさに理工系と文系の視点の違いを感じさせられたところです。

一方の土砂崩れの事故も、幼児の発見には最新のエレクトロニクス機器(人命探査装置、ファイバースコープ、音響探査機、夜間暗視装置等)が導入され、難しい分析を現場の技術者(レスキュー隊)が困難な条件の下で使いこなして生まれた奇跡だと思います。

自然の活動には人間はちっぽけな存在に過ぎませんし、今回は確かに幸運だった要素もあったことでしょう。しかし、人間の生活を守るために理工学の技術が発揮されたのは素晴らしいことだと思います。そういった普段の努力があって、初めて奇跡は起きるのだと思います。

さて上記の技術者の態度は、理工系学生が企業での就職面接で是非、見習って欲しい態度だと思います。採用担当者が圧迫面接(実際、マスコミで騒ぐほどのものなど無いと思いますが)などやってきても、自分の哲学を持っていれば恐れることはありません。そんな強い「哲学」をもったエンジニアの卵は是非、採用したいものですね。