第34号:人材育成の産学連携

先日、ある学生コミュニティの依頼により国立大学の理工系学生向けに「産学連携で変わる就職活動」というテーマでパネルディスカッションの司会を行いました。この企画はOB会の協力を得て実行されたものですが、大学で学んだことを如何に社会で活かすかということを学生に伝えるものです。それは大学での研究と企業での応用の差異を教えることで、いわば産学連携の“ひとづくり”です。

理工系学生の多くは自分の専門である研究内容を活かした仕事をしたいと思っておりますが、その研究テーマが社会のどこでどのように活きているか、使われているか、ということを知らないことが多いものです。採用面接では必ず「あなたの研究を当社でどのように活かしていきたいですか?」という質問を致しますが、即答できる学生は少ないです。どちらかというと、大学の勉強は社会で役に立たないと考えている学生が多いような気がしますし、企業の採用担当者も即戦力を求めていると言いながら、大学の勉強を重視していないと公言する方もおります。

いま産学連携の試みは、日本のいたるところで始まっています。その背景には、厳しい経済環境があり、製造業の多くはものづくりを全て自社で行うことは諦めて、研究を大学に依頼してそこから産まれたシーズを商品化しようとしています。大学内部でも知的財産を権利化していこうという動きが盛んであり、大学周辺には大学で産まれた技術を民間企業に移転する組織(TLO)が積極的に活動を始めてきました。産学連携が進行すると、研究者の職場は企業だけではなく大学内に留まることであったり、大学発のベンチャー企業であったりするでしょう。これまでの民間企業への就職以外の選択肢が増えてくるわけです。

しかし、人材育成の面での産学連携はあまり進んでいないと感じます。企業は人材育成機能を削減して即戦力の人材を求め、その基準に合わない学生は厳しく選考を行うようになりました。その結果、日本の社会から新社会人を育成する機能が大きく緊縮しているのではないかと危惧しております。

できることならば、今回のような企画を単なる就職ガイダンスとしてではなく、大学で学ぶ専門性の社会的意義を知る産学連携の教育活動として位置づけて継続して頂けたらと思います。そうすることによって学生にとっても大学での勉強がより面白くなり、自分のキャリアも自然と見えてくる。就職活動に対する特別な対策を行うのではなく、大学の講義の中にキャリアの開発プログラムが織り込まれている。そんな産学連携の“ひとづくり”が実現することを期待しています。