第109号:裏金と栄養費と奨学金

2年ほど前にもここで書きましたが、またプロ野球の就職に関する事件がニュースになりました。球団に入団することを前提に、「栄養費」と称する金銭の授受を行ったものです。事の真相はマスコミに任せるとして、就職・採用の視点でこのテーマを考えてみます。

 

今回も出てきた就職を前提とする「栄養費」ですが、この行為自体については法的な問題はありません。関係者のご家族が当初「奨学金と思っていた」とコメントされていたように、多くの企業でも奨学金を設定しており、大学の掲示板でも募集広告をごくふつうに見かけます。その中にたまに入社を前提としたものもあります。金額は月に数万円位で、諸般の事情で入社ができなくなった場合は、変換する契約になっています。さすがに今回の事件のような高額なものは一般募集では出ませんが。

 

奨学金の意義は高い資質と能力と意思をもちながら、進学する経済力が無い有望な若者を支援するために始まったものと思われますが、苦学生という言葉が死語になりつつあるいま、その意義は優秀な社員候補の確保に変わってきているでしょう。内定した学生に奨学金を支給して、アルバイトなどに手を出さずに学業に専念して欲しい、と経済的援助を行う企業もあります。(ホンネは内定者の意思確認にあるのかもしれませんが。)

 

正社員の場合でも、幹部候補生育成のために海外留学制度(MBA等)を利用する際には、帰国直後に転職したら手当を変換させる規定を設けているところが殆どです。企業にとって、優秀な社員を選抜して重点的に育成投資することは極めて当然の活動です。

 

つまり今回の事件を見てみると、問題は「栄養費」を出した行為そのものではなく、そういった行為は協定で禁じたにも拘わらず、秘密裡に行ったことにあります。そこが「栄養費」が「奨学金」ではなく「裏金」になってしまった原因ですね。

 

翻って就職倫理憲章はどうでしょうか?プロ野球と違って、全企業が承諾したものではありませんので問題が発生することにはなりませんから「奨学金」が「裏金」に化けることはないと思います。しかし、

この憲章を遵守する企業から4月1日に内定が出てくるような場合、ちょっと突っ込んでみたくなりますね。大手メーカーの中には他社はどうあれ、律儀に4月から選考を始める企業も多いです。正直者が報われないような日本では困ります。

 

第108号:履歴書とエントリーシートと面接

企業のエントリーシート(ES)の締め切りが迫り、面接も始まってきました。学生達は履歴書を手に企業訪問を行っておりますが、この履歴書とESと面接との使い分けがちゃんとできていなくて、勿体ないと感じることが多いです。幸いなことに、今シーズンはかなり門戸が広いのでESだけで門前払いされることは少ないように見えますが、ESの内容は面接の原稿作りの様なものですから、しっかり書いて欲しいものです。意外にも、会話に自信のある学生ほど、事前の準備がおろそかで本番で支離滅裂になることが多いです。

 

冒頭で書いた「履歴書」と」エントリーシート」と「面接」の使い分けですが、大雑把に言えば下記の通りです。

 

・履歴書・・・骨格

・ES・・・肉体

・面接・・・服装(&化粧)

 

つまり、同じテーマでも3通りの表現方法ができるわけです。履歴書は自分のエッセンスというか、自分の経験を客観的事実中心に記載した面接のメモのようなもの。その上に自己PRが加わって具体的エピソードを述べたものがES。しかし、裸のままでは失礼ですので、ちゃんとリクルート・スーツを着ていくのが面接の会話です。(女性は化粧も忘れずに。)

 

履歴書・ESと面接の違いは、紙メディアと人メディアの違いです。前者は文字に制限がありますので、専門用語・数値を使って無駄なく効率よく書いて欲しいです。後者は生きた言葉ですので文字制限はあまり気にならなく、具体的描写に自分の感情を載せて活き活きアピールして欲しいです。ESにすると相当文字数を食うものでも、臨場感を伴った会話ではそれほど気になりませんし、気持ちは文字よりリアルに伝わります。

 

ごく基本的なメディアの使い分けについて書きましたが、この3つのメディアを全く同じにしている学生をよくみかけます。勿体なあと思うと同時に、採用担当者として面接で履歴書やESと同じ話をされるほど退屈で眠たくなるものはありません。是非、目が覚めるような自己PRを聞かせて欲しいものです。