第345号:文科省天下りと縁故採用

法の運営者たる国家公務員が、それではダメでしょう。文科省の天下り問題です。教育を司る公務員が国会で堂々と(?)釈明している姿には、怒りを感じるより呆れて脱力しました。しかもそのためのマニュアルが用意され、採用したら非常勤講師から常勤に格上げせよなどと圧力をかけてきたと聞くと、非常勤講師の薄給で働く私などは、開いた口が塞がりません(羨ましくなります。)

 

国家公務員法で天下りが禁止される前のことですが、私が社会人になって初めて天下りを目の当たりにしたのは防衛庁関係の仕事をしていた某企業でのことです。仕事柄、個室をもつ役員クラスのお偉いさんは憶えていたのですが、その中で名前はあっても一度も姿を見たことのない方がおりました。社員の方に「あの個室はどなたですか?」と尋ねたところ、「それは聞いてはいけません。」とたしなめられて事情を理解しました。当時は違法ではありませんでしたし、まあ世の中そんなものかと思っていましたが、上級国家公務員の中ではいまだに昭和時代が続いているようですね。

 

さて天下りと似て非なるものですが、民間企業には縁故採用があります。多くの採用担当者は好きではありませんが、それでもビジネス上の大人の理由から気を遣った面接を設定し、慎重に結果を出して対処しなければなりません。私も採用活動の責任者だった時に、数多くの縁故者を面接しました。面接した応募者のおよそ半分くらいは普通に応募しても合格するようなレベルでしたが、残り半分は会社の仕事についてこられないレベルでした。能力不足と判断した場合は、紹介者に気を遣いながら結果通知をします。

 

それで一件落着すれば良いのですが、まれに「それでもなんとか採ってくれ」というゴリ押しがあって、無理に採用させられたこともありました。すると配属した現場から「なんでこんな奴を採ったんだ!」とクレームが飛んできます。「人事部に返すから引き取れ!」と言われ、こちらでその後の面倒をみたこともありました。縁故採用が全部悪いとはいいませんが、実力に見合わない企業に無理に背伸びして入っても、結局、本人のためにもならないと思います。

 

縁故採用に似たもので、最近は日本でも「リファラル(referral=紹介)採用」という言葉をチラホラ見かけます。社員紹介採用というもので、米国では20年以上前から普通に行われています。これは採用部署が社員をリクルーターにして、知人の中で有望な人を紹介して貰う仕組みです。米国の場合は規制する法律がないので、リファラル採用が成功した場合、紹介した社員に報奨金が支払われます。私が在籍していた外資系コンサルティングの世界ではこれが盛んで、新入社員(中途採用が殆ど)が入社すると、まず採用担当者がどんな人脈をもっているかインタビューして有望な応募者がいないかと尋ねます。

 

このように人をメディアにした採用活動は実態が見にくいですが、今後も流行っていくのではないかと思います。企業にとって手間暇はかかりますが、目に見える採用コストは下がりますから。

望ましくもない人間関係、望ましい人間関係、どちらにしても採用活動というのは極めて人間臭いお仕事ですね。

 

第344号:入り込めない就活映画&ドラマ

映画やドラマで時折、就職活動が題材になります。昔のものはすぐに「こんなことありえないよな」と笑いながら楽しめましたが、最近のものは良くできていて「これはリアルだなあ」と思わされることが多くなりました。それでも、よくよく観ていると「やっぱりこれはありえない」と感じてしまうことがあります。おそらくそれは採用担当者の目線で観ているからなのでしょう。

 

就活映画では1991年に公開された『就職戦線異状なし』が有名です。織田裕二が大学生を演じていたのをご覧になった方もおられることでしょう。この映画はバブル期の売り手市場の時に制作されましたが、公開時にはバブル崩壊が顕著になったこともあり、ますます現実離れになってしまいました。

 

そして昨年公開されたのが直木賞受賞小説を映画化した『何者』です。これを観た学生が「先生、あの映画は本当にリアルです」と興奮していたので、私も映画館に足を運んでみました。確かに登場人物のそれぞれが、実際によくあるパターンの学生を個性的に演じており、ネットを活用した就活やトラブルもリアルに描写されていました。

 

しかし、こうした映画やドラマは、最大多数の想定視聴者である学生の目線で描かれているので、学生には共感できても、採用担当者側の目線ではありえないと感じてしまい、ストーリーに入り込めないのです。例えば現在放映中の『就活家族』というTVドラマがあります。このドラマの中で、主人公の人事部長が生意気な応募学生に対して面接中に「君のような人間はどんな会社も必要としない」と発言するシーンがありますが、これは大手の企業ではまずありえません。

 

面接選考のその場で良い評価を伝えるならともかく、採用担当者が学生に面と向かって否定的な評価を伝えれば学生本人がそのショックでどのような言動に出るかわかりません。その場で泣き出すかもしれませんし、面接後にネット上でとんでもない発言をするかもしれません。大企業になればなるほど企業のコンプライアンスやブランディングの重みがわかっているので、人事部長は軽率な動きはとれません。不合格結果は何故落ちたかわからない、となる方が良いのです。だから多くの学生が「面接では良い感じだったのに何故か不合格になったんですよ!」と口にします。

 

ちなみに、多くの企業が面接の最初で、「この企業を知ったキッカケは何ですか?」と問うのは志望動機を問うだけではなく、業界の関係者(縁故筋、ビジネス筋等)ではないかを確かめるためでもあります。これもリスク管理です。

 

ところで、昨年の映画『何者』は、関係者の中での評価は高かったようですが、映画興行としては不作だったようです。察するに、現在の採用活動は画一的なマス型採用から個別のダイレクトリクルーティングへ徐々に移行しており、大学生もまた年々多様化しています。同世代の大学生間でも就活経験が異なってきているので大ヒットになる共通共感を生みにくいのではないかと思います。もしかすると、これからの就活映画&ドラマでは荒唐無稽で馬鹿明るいものの方が受けるかもしれませんね。