第153号:「便乗」内定取り消しにご注意を

メディア報道は一段落してきた気配ですが、その後の大学生の内定取り消し数は文部科学省によると732人(264校)になったそうです(1月24日現在)。昨年(302人)との比較では倍増とのことですが、経済状況の違いも比較しないと、どちらが深刻かは言い難いと思います。それよりも気をつけたいと感じるのは、どさくさに紛れて出てくる「便乗」内定取り消しです。

 

「赤信号みんなで渡れば恐くない」ではありませんが、日本人の行動特性に「バスに乗り遅れるな」があります。内定取り消し騒ぎが大きくなると、これに感化されて以下の3者の悪意に基づいた「便乗」型の内定取り消し騒動が現れる可能性があります。

 

1.企業の悪意によるもの

企業が第三者を使って内定者に内定取り消しの連絡をするケースです。直接内定者本人に電話があり、内定企業の社名を名乗り、一方的に内定取り消しを行うケースです。内定者が説明を求めても「理由を説明する必要は無い。」と早々に電話を切られます。法律知識に乏しく泣き寝入りをする精神的に弱い内定者を狙います。内定者が当該企業に改めて電話をしてみると、知らないふりをして「そんな事実は知りません。」と何も無かったようにしらばくれます。

 

2.内定者の友人の悪意によるもの

内定者本人になりすまし、内定企業に電話をかけて辞退を申し出るケースです。昨年あたりからチラホラ現れてきました。しっかりした企業であれば本人確認や内定辞退の理由まで求めますが、今年のように経済状況が急転して内定者数が過剰になってしまうと、企業も詳細を聞かずに喜んで受け入れてしまう場合があります。内定者本人は自分が内定辞退扱いになったことに気づかないでいることもあり、非常に危険な状態におかれます。ちなみに私が在籍していた企業では、内定辞退の連絡があった場合は、その場で受け付けずに必ず面接を担当した採用担当者に電話を代わり本人確認をしていました。相当大規模な企業でない限り、採用担当者は自分が内定を出した応募者はハッキリ覚えているものです。

 

3.内定者本人の悪意によるもの

まれなケースですが、内定者自身が「企業に内定を取り消された」と就職課等に訴えるケースで、内定者の狂言によるものです。何らかの理由で内定者が内定取り消しの身分を得たい場合です。精神的に問題があって(ノイローゼ)発作的に行動する、留年が決まって卒業ができなくなったとき等です。今年のように内定取り消し者向けに大学が授業料減免等の救済措置を行うようになった場合、後先考えずに飛びつく学生が現れる可能性があります。

 

いずれにしても犯罪になる可能性があり、関連3者(企業・大学・内定者)が冷静かつ早急に状況を確認して対応すれば、これらの悪意から逃れることはできるでしょう。振り込め詐欺のような悪質な犯罪が信じられないほど頻発する時代ですので、こういった可能性を考えた対応策を用意しておく必要がありそうです。いやはや寒い世の中になったものです。

 

第152号:消費者教育と労働者教育

自由民主党が小中学生向けに「消費者教育推進法案(仮称)」を議員立法で制定する準備を進めているとのことです。マルチ商法対策やクーリングオフ制度等を教えるそうです。なかなか良いことではないかと思いますが、ついでに高校生向けには「労働者教育」も始めて欲しいものです。

 

日本でも第三次産業が産業規模でトップになり、サービス業の発展は著しいですが、詐欺まがいの強引な商法もますます増えてきているようです。振り込め詐欺の国内被害総額(2006年)が250億円にも上るのは驚きました。そんなご時世ですので子供達にも早いうちに経済感覚を身に付けさせるのは大事なことでしょう。もっとも、金融教育と称せられるような資産運用などは必要なく、自分の資力以上の消費はしないこと、騙されないようにすることをシンプルに教えることで十分です。海の向こうの先進国で金融破綻になっているのも根本はこれが原因でしょうから。

 

さて、金融問題から発生したもう一つの大問題が雇用問題です。「派遣切り」「内定切り」という言葉がすっかり一般的になってしまいましたが、こういった事態にならないためにも若者への「労働者教育」が今こそ必要でしょう。かつてのように正社員が労働者の中心で企業の長期安定雇用が当然だった時代では、それは企業の人事部や労働組合が代わって考えてくれており、一般社員は仕事に身も心も捧げて集中できました。

しかしながら、今回の派遣切り問題で明らかになったとおり、派遣社員は「社員」という名はついておりますが、雇用関係ではなく企業側の都合で合法的に中止にされてしまう身分です。はたして若い派遣労働者の方々のうち、どの位の方がこういった事実をちゃんと知っていたのでしょう。バブル崩壊後、企業側の方は「個人の自立」「企業と個人の新しい関係」というスローガンで雇用ポートフォリオ型経営(非正規社員の導入)を導入し、人件費の変動費化を進めてきたことを。

 

勿論、派遣労働制度全部が悪いわけではありません。エンジニアのように非常に高い専門性を持ってこのような働き方をするならば、「ライフスタイル重視」「組織に縛られない働き方」という労働形態を謳歌することもできるでしょう。しかしながら、自分の専門性や職業経験が未熟なうちはリスクの高い働き方です。日本企業の大きなメリットである「新人研修」が受けられません。こういったことを、社会に出る前にしっかりと学校で教える必要があるでしょう。それが若者の自立にもつながると思います。

 

ところで、大変な経済環境で世間は騒然としておりますが、高校時代の恩師からの年賀状にこんな一言がありました。

「平成20年は激動の年でしたが、空襲に逃げ惑い、飢餓に苦しんだ昭和20年に比べれば何程のこともないと思います。」

私の地元の江東区は東京大空襲で一夜にして10万人が亡くなった下町です。そんな時代に比べたら、まだまだ我々は元気に生きていけると思います。 新年、頑張って行きましょう!