第135号:ファースト・トラックの応募者

いよいよ大手企業からの内々定が出始めましたね。やはり今年は昨年より1~2週間早いようです。早々と内々定を手にする学生は、早々と走り始めた学生かというと、必ずしもそうではありません。不合理かもしれませんが、やはりそこが大学受験とは異なるところであります。

 

外資系企業における採用担当者の業界用語ですが、有望な応募者のことを「ファースト・トラック(fast track)」と言います。本来は企業内での有望な出世コースを進んでいる社員を指すもので、社内での競争に打ち勝ち、人事部が選抜してエリート・コースを歩ませることを「ファースト・トラックに乗せる」と言ったりします。能力での選抜なので年齢や学歴は(あまり)関係ありません。

同様に、採用活動においても応募集団の中から有望な者を選抜して早期に採用面接に進ませることをファースト・トラックに乗せると言い他の応募者よりも早く選考に呼び出して早く結果を出そうとするわけです。

 

この形態は外資系企業だけではありません。日本企業においても、同じ日に応募して同じ日にエントリーシートを出して、同じ日に初回の面接を受けたとしても、その選考結果によって次の選考に呼び出される日が変わってきます。当然ながら、早く呼び出させるのは有望な「ファースト・トラック」です。ネットでの情報交換が盛んな今、学生同士でも呼び出される日が異なると、「ああ、俺は2番手か・・・。」と感づくようですね。たまに採用担当者に「なんで僕は呼び出されたのは遅いのですか?」と訪ねる応募者もおりますが、「ええ、君はセカンド(サード)・トラックですから。」などと答えるわけにもいかず「連絡して都合のついた方の順番ですよ。」とでも答えます。

 

そんなわけで、この4月中に内定を手にするのは有望な方々で、企業にとっては是非入って欲しい方々です。勿論、ファースト・トラックは何処でも人気ですから、早く内定を出したからと言って早く入社してくれるというわけではないんですけどね。

 

そうそう採用担当者の業界用語には、もう一つの「ファースト・トラック」があります。これはfirst track(優先道路・優先審査制度)の方で、他の応募者とは異なるルートで優先的に応募してくる若者です。一般に、こちらの方はあまり有望でないことが多いので、早く結果を出してお断りしないといけないんです。他の企業が採用活動を行っているうちに・・・。

 

 

第134号:他社選考に行かせない囲い込み

採用選考もまさに今がピークですね。4月から真面目に始めた企業でも早いところはそろそろ内々定を出し始めました。街を行く学生の顔にも笑顔が見え始めています。それとは全く対照的に、採用担当者の顔はどんどん険しくなってきました。やはり、採用担当者の最終的な敵は採用担当者なのでしょう。この時期は学生選考だけではなく、他社を意識した囲い込み活動も盛んです。

 

採用選考の方針や戦略は企業毎に異なりますが、業界でくくって比較してみると似たような傾向はあります。4月になって協定通りにセミナーを始め、選考を始め、結果を出す、という生真面目な業界もあれば、3月中に選考はほぼ済ませても結果は学生に伝えずに、4月から正式選考という名目で学生を拘束する業界もあります。その囲い込みのやり方を見ていると、懐かしいバブル期の囲い込み採用を彷彿とさせるものがあります。現在活動中の学生に聞いていると、こんな囲い込みにあっています。

 

・1日に連続して数回も面接を行い、結果的に訪問企業で丸一日過ごした。

・都心から遠く離れた郊外の選考会場に呼び出されて選考があり、他社を回る時間が無くなった。

・泊まり込みで合宿形式の選考にあった。

・1日から毎日連続で呼び出されて、他社に回れない。

 

やはり有名大学の学生ほど囲い込みが厳しいようです。企業に頼んで選考日程を変えてくれるように頼めば良いようなものですが、学生の都合を聞いてくれる企業とそうでない企業はやはり業界毎に差があります。今は売り手市場なのですから、学生が強気になって選考日程の変更依頼をすると、「ではご縁の無かったということで。」と切られてしまうとのこと。この舞台裏で採用担当者は採用数に厳しいノルマを課せられているので、必死なはずなのですが・・・。

 

前述の通り業界によって異なりますが、組織的な統制のきつい業界の大企業ほどノルマも厳しいように見えます。同じ採用担当者として、そこまで上から言われたら反論するだろうな、と感じることも多々あるのですが、現場で文句を言いながらもセミナーでは笑顔になり、言われたとおり忠実に動くモチベーションとは何だろうと不思議に思います。(私が比較的自由なベンチャー系企業に慣れてしまっているせいかもしれませんが。)

 

学生の意識調査を見ていると、大企業指向がどんどん高くなっているようです。大企業指向そのものがわるいことではありませんが、その組織的採用活動を知ったら学生の大企業指向は減るかもしれません。もっとも、大企業に入社して自分の人生も囲い込まれると、もしかするとそれはそれで安心なのかもしれませんね。だから大企業は学生を囲い込めるのかもしれません。