第27号:就職人気企業ランキング

多くの大学では前期試験が終わり、キャンパスも静けさを取り戻そうとしているかと思います。企業採用担当者の方も、今が一番のんびりできる時です。4年生の追加募集を計画している企業も7~8月は一休みのところが多いでしょう。新卒採用数が100名以上あるような大企業では、3年生の採用計画の検討を始めておりますが、その時に話題になるので、就職人気企業ランキングです。数社からいろいろな基準で発表されますが、これがなかなか採用担当者の頭痛のタネだったりします。

就職人気企業ランキングは、就職情報企業それぞれの基準で調査されて発表されますので、ランキングはそれぞれで異なります。採用広報に大きく予算をかけるほどランキングは上昇しますが、やはり一般消費者に対する商品やサービスを行っている企業は上位になります。TVの影響も大きく、昨年はあるTVドラマが大ヒットしたお陰で、元々人気にあった航空業界、旅行業界の企業が大きくランクを上げました。冷静に産業や経済状況をみてみると、イラク戦争、テロ事件、SARS等々、この業界はたいへん厳しい経営環境に直面しておりますので人気ランキングは下降しそうなものですが、この辺がマスコミの効果の凄いところです。

最近、就職人気企業ランキングの新しい傾向として言われてきたのは、単なる人気投票ではなく、就職という目的にもっと絞ったランキングです。例えば12月頃に一次集計を行ない、就職活動が一段落した5月頃に改めて二次集計を行って、各企業の人気ランクの推移を比較するものがあります。実際にその企業に就職活動を行ったイメージを計るものですが、これを見ていると学生に対して丁寧でハッキリとした対応を行った企業が上位にくることがわかります。やはり一般消費者に対する商品やサービスを行う企業は、不採用になった学生もお客様になる可能性がありますので対応は丁寧です。ところが一般に知名度が高くても、学生が直接のお客様にならないマスコミ関係の企業等は、対応が粗雑であったりしてランクが下がったりします。勿論、応募者の数も膨大ですので仕方ないことなのかもしれません。

実際のところ、採用担当者の多くは就職企業人気ランキングをあまり気にしていません。人気ランキングで投票している学生が、採用対象の学生であるかどうかは不明だからです。しかも応募者が膨大になるほど、採用活動も工数がかかり、採用活動というよりは不採用活動になってしまいます。

意外にも、就職企業人気ランキングを気にしているのは、企業経営者であったりします。週刊誌上でランキングが発表される度に、採用担当者が呼び出され「何故、うちはもっと上がらないんだ!」と叱咤激励(?)がかかります。採用担当者は慌てて対策を考えるのですが、ランキング対策の悩みのタネは実は企業の外ではなく、中にあったりするのです。

第26号:法政大学キャリアデザイン学部にて

先日、法政大学のキャリアデザイン学部に招かれて講演をして参りました。皆様もご存知の通り、同学部は今春設立された日本で初めてのカタカナ名の文科系学部で、各方面から注目を集めています。実質応募倍率も7倍近い人気だったそうです。この学部の名前を聞いた時、「キャリア・デザイナーという仕事がもしもあるのならば、それは今後の採用担当者のことを言うのかもしれないな・・・。」と考えていたことを思い出しながら講義内容を組み立てました。

キャリアデザイン学部の育成するのは、人のキャリアをデザインできる人材、自分自身のキャリアをデザインできる人材、とのことですが、学生の多くは職業経験のない方々ですので、いわゆる「自分探し」にやってきた高卒の若者たちが多いです。学部には就職部とは別に、企業就業経験のある人的資源管理コースの大学院修了の方が専属のキャリア・アドバイザーとしてついており、学生のキャリアについての相談全般に対応しています。

今回、講演依頼を受けたのは「キャリアモデル・ケーススタディ」という科目で、いろいろな分野で働く社会人を招き、その人のキャリア・ヒストリーから自分のキャリア形成に有効なポイントを学ぶというものでした。私の場合は、企業の人事担当者として国内と外資系それぞれでの採用担当者の仕事と専門性の相違点、そして私自身がどのような経緯で自分のキャリアを形成してきたのかを話しました。ついでにアカデミックな講義らしく、キャリアカウンセリングで使われる、モデリング(観察学習)のプロセス(注意過程→保持過程→運動再生過程→動機付け過程)を用いてキャリアのデザインするということにも触れておきました。

さて早いもので、大手企業では今春の採用活動を総括して、来年の新卒採用活動の準備を始めています。最近は会社説明会にキャリアデザインというコンセプトを持ってくる企業も増えました。自社の説明をするまえに「働くこと」のイメージを持たせる内容にする、または自社で形成されるキャリアの紹介や、個人のキャリア開発の支援体制を紹介するものまで多種多様です。採用担当者がこういったキャリアデザインに関するセミナーを行う動機を尋ねてみると、「最近は働くことの動機が不明確な学生が応募してくることが多いので・・・」「早くから自立した社員を募集したいので・・・」というような回答が返ってきます。

そもそも就職シーズンの早期化が招いた現象とも言えなくはありませんが、企業が学生のキャリア育成の支援をしてくれることは有り難いことですね。もしかすると、キャリアデザイン学部に行って学ぶべきなのは、従業員のキャリアデザインに関わる企業の人事担当者なのかもしれません。