第75号:学生時代に一番、力を入れたこと

この夏休みに関西の大学数校の学生サークルを対象に、ビジネスプラン・コンテストを開催しました。以前から就職活動のためだけのプレゼンテーションやネゴシエーションの指導ではちょっと物足りないと思っていたので、実践的なビジネストレーニングをやってみたかったのです。最近は学生起業ブームなのでこの種のイベントは盛んですが、就職面接ではなかなか見られない生の学生の姿を知ることができました。

このようなビジネスプラン・コンテストは企業の広報手段として使われることが多いのですが、その多くはプランだけに終わってしまうことが多いので、実際のビジネスの流れ(実務)を知ることはできないことが多いです。大企業の経営企画とかマーケティングとかの部署だけでビジネスの全てを知った気になるのは危険なことです。実際、今回参加した9チームで入賞できたのは、商品企画だけではなく、その開発行程、販売ルートまで机上調査だけではなく実際に検証してきた2チームだけでした。ビジネスの実現性の有無が勝負を分かれ目になったわけですが、そこが、経営コンサルタントか実業家かの分かれ目でもあります。なお今回のコンテストでは入賞者は提案したプランを1年間、実際に行います。事業が成功したら、そのまま起業してしまう学生が出るかもしれません。

今回のコンテストでは企業経営者に加えて、Professional Recruiters Clubの採用担当者にも審査員をお願い致しました。面接やインターンシップでは見られない生の学生の姿に感心しており、「我々は採用選考で何を見ていたんだろう?」とつぶやいておりました。「これが学生本来の姿なのか、それとも我々がこのような学生と出会えていなかったのだろうか?」とても考えさせられたようです。

(例えが失礼ですが)動物園の動物のように檻の中では動物の本来の姿は見られないのでしょう。採用担当者は学生の本来の姿や、個人の能力をもっともっと知る努力をしなければなりません。企業の営利活動というコストの限界はありますが、例えばこういったビジネスプラン・コンテストの開催費用など、就職情報業者の広報費用に比べたら微々たるものです。大学においても経営学部や商学部なら、こんな企画を企業スポンサーで開催すれば、立派なキャリア教育になるでしょう。

新学期が始まり、これから3年生、修士1年生の就職活動が本格化してきますが、今シーズンは企業のオンキャンパス・セミナーが相当に流行りそうです。過熱気味の就職行事を考えながら、今回の審査員の彼とこんな話をしながら帰路につきました。

「学生が一番、元気で能力を発揮しているところを見て採用したいね。」

「『学生時代に一番、力を入れたことはなんですか?』という質問に、『就職活動です。』なんて答えさせることになっちゃいけないね。」

 

第74号:指定校制度と学校名不問

少し前の新聞で某有名企業の相談役の就職体験談の記事を見つけました。

「当時の大手企業の新卒採用には指定校応募と縁故応募の二つの枠があった。指定校といっても単に受験資格を得られるだけで、しかも大学から指定校としての推薦状を貰えるのは30人まで。縁故枠も含めて合否は筆記と面接で判定されるので、今振り返っても公正だったと思う。」

*抜粋編集しています。

これは昭和30年前半の就職事情で、当時の大学進学率は15%以下でいわゆるエリートの時代です。少し前の日本にもこんな時代があったのだなあ、と採用担当者としては羨ましくなります。というのは採用担当者の現在の最大の悩みは採用活動にかかるコストアップだからです。コストには広告宣伝にかかる費用の他に、採用担当者が費やす時間コストもありますが、指定校制度というのは募集費用と選抜費用が大学で一部肩代わりしてくれていたのですね。学生の「資質・能力」と「入社意思」を大学が保証してくれていたわけです。現存する理工系学生の推薦制度はその伝統を残しているものですが、さすがにほころびが目立ってきています。

外資系企業の日本法人で採用責任者を担当していたとき、「今の日本では学校名不問というのを標榜する企業が出てきているんだよ。」と米国本社の採用担当者に話したら、「Unbelievable!なんで日本はそんなコストのかかることをするんだ!?大学との関係を軽視しているのか?」と言われ、説明に苦慮しました。はたして指定校制度と学校名不問は、どちらが学校・学生を尊重しているのでしょう?

大学進学率が50%を越えエリートからユニバーサルの時代(全入時代)に入ったいま、採用担当者が企業経営の視点で求められているのは、「資質・能力」と「入社意思」の明らかな応募者といかに効率よくコンタクトするかです。大学と連携の指定校制度と自社独自の学校名不問採用、はたまた社員の個人的ルートのリクルーター制度と、どれを選ぶかは企業の資産と価値観で判断されますが、採用担当者は今の季節、心底、悩みながら来期の戦略をたてています。