第31号:コミュニケーション能力だけでは足りない

採用選考基準において、どこの企業でもベスト3に入るのは「コミュニケーション能力」でしょう。学生の考えるコミュニケーション能力は、仲の良いメンバーを集めるコミュニティ形成的なものを指すことが多いようですが、企業の求めるそれは軋轢のある組織の中でタフにやっていけるコミュニケーション能力のこと、つまりやりにくい相手とでも私情は横に置き、仕事の(=大人の)つき合いができる能力のことや、相手の心情を察知・理解して対応できる能力のことを指します。ところが、日々の仕事ではこのコミュニケーション能力だけでは不足することもあり、それは新卒学生の就職活動にも通じるものがあるのです。

コミュニケーション能力はどんな仕事にも必須の能力ですが、それが最も活かされる仕事というと、やはり対人関係の多い営業の仕事でしょう。営業マンの専門性は?と問われたら、コミュニケーション能力と言っても過言ではありません。ところが、その営業マンに、コミュニケーション能力の研修を行った時に、効果の上がる場合と上がらない場合があります。理由はいくつかあるのですが、一番大きなものは担当しているお客様が固定している場合か、新規開拓が多いか、という点です。前者はいわゆるルート・セールスのことで、先輩営業マンからお客様を引き継いでいきますので、コミュニケーション能力を発揮して早く自分自身の信頼感を勝ち取ることが最も重要になります。一方、後者の営業はいわゆる飛び込みセールスが多く、初対面のお客様と早くコミュニケーションをとる必要があります。

どちらもコミュニケーション能力は必須なのですが、新規開拓型の場合はこれだけでは成績は上がりません。というのは、どんなにコミュニケーション能力があっても、飛び込むお客様が自分にとって良いお客様になる、自社の商品を買って貰える可能性が無ければ無駄な活動になってしまうからです。つまり新規開拓型の営業ではコミュニケーション能力に加えて、事前にお客様の目星をつけるマーケティング能力も求められるのです。

ここまで読まれれば、おわかりでしょう。就職活動をする新卒学生にとっては、新規開拓型の営業と同じく、コミュニケーション能力だけでは不足で事前に自分に合った企業を研究・探索することが必要です。企業セミナーの最初の段階では情報収集のために先入観無しに数多くの企業を回ることは良いことです。しかし、セミナーから選考に入る段階においては、このマーケティング能力を発揮して企業をある程度絞り込んで訪問して欲しいと思います。私たちが採用面接において学生と出会う時、その絞り込んだ理由はそのまま志望動機にもなり、つまりそこで応募者のマーケティング能力を垣間見ることもできるのです。

 

第30号:学生主催の就職活動支援サークル

先日、企業に内定した4年生が企画する、後輩のための就職支援イベントにゲスト・コメンテイターとして参加して参りました。集まった学生の内訳は、主催者スタッフの4年生が30名、これから就職活動を行う3年生が40名で、なかなかの盛況でありました。こういった先輩が後輩の就職活動を支援する風景は、数多く見られるようになり、企業が自社の広報活動の一助にするために、運営費用をスポンサーするということも珍しいことではありません。しかし、多くのサークルを見ていると、その活動コンセプトには差があるようです。

多くの主催者の方々からイベント趣旨を聴かせて頂き、あえて採用担当者の目で厳しく彼らのイベント趣旨(採用面接で言えば志望動機ですね)を評価してみると、私は下記の3レベルがあると感じております。
Aランク:就職マーケットや大学構造、社会体制を変えてやろうという意思がある。
Bランク:後輩のためを本当に思い、自分たちの体験談を話してあげる。
Cランク:後輩のためと言いながら、自分たちの自慢話になっている、またはイベント自体が目的。

Aランクの活動の学生達は、自分の置かれた現在の環境の問題を感じ取り、自ら働きかけて変えてやろうという志に溢れており、活動内容も大学や企業に正面から働きかけてきます。
Bランクの活動の学生達は、現在の環境に対して如何に上手に対応していくか、ということを考えながら後輩に対して自らの経験から手ほどきをしていきます。
Cランクの活動の学生達は、自分たちの活動自身に楽しみを感じているようですが、そのことについて彼らは無自覚で相手のためになっていると思いこんでいることがあります。

社会に対する問題意識を、肩書きに遠慮無く訴えることができるのは学生の特権であり、それを受け止めるのが社会人の役割なのでしょう。そういった元気な学生が増えて欲しいと思いますが、貴重な存在になりつつあるのかもしれません。学生時代には学生闘争に参加して現在は大学の構造改革に取り組んでいる血気盛んな大学教授からこんな言葉を伺いました。「我々は大学を必死に変えようと努力しているが、最近は肝心の学生が大学にコミットしてこない。」
就職イベントを主催する学生サークルからアドバイスを求められる時、私は必ず「それで社会をどう変えたいと思うのですか?」と問いかけます。例え小さなことでも、それこそが企業の採用担当者が求める学生の新鮮な視点であり、バイタリティなのですから。