第294号:大学生の課題、大学教員の課題

就活後ろ倒しになった今、大学の教員と学生が取り組むべきは、戻ってきた時間を学生の成長のために有効に使うことですね。不安を煽る情報の洪水を乗り越えるために、学生にジャーナリズムの課題を考えさせる授業を行っておりますが、参考文献にあげた本の中に現代の大学の課題を感じさせる文言がありましたのでご紹介します。

 

参考文献:『 ジャーナリズムの限場から』大鹿泰明編著 講談社現代新書 2014年

http://www.amazon.co.jp/dp/4062882760/

『いまのジャーナリズムを覆っているのは、わかりやすいニュース解説を求める「池上彰化」ですよ。池上さんの功績は大いにあると思いますが、あまりにそればっかりだと読者のリテラシーが一向にあがってこない。それどころか今の読み手は、書き手に対して「もっとわかりやすく解説してくれ」とか「どうすればいいのか答えを教えて欲しい」と求めてばかりいるようになってしまう。かつての読み手はもっと向上心、向学心をもって書物に触れていたと思います。』(同書66P 高橋篤志氏言)

『読者が求めているものだけを提供するのは娯楽・エンターテインメントだ。読者が必ずしも望んでいないものでも、社会的に必要性があれば、提示するのが僕らジャーナリズムの役割だ』(同書67P)

 

この「ジャーナリズム」を「キャリア教育」に、「読み手」を「大学生」に、「書き手」を「教員」に置き換えたらそのまま大学の現状になります。情報の溢れた現代で、食べやすいものを与えられ続けたら誰でもこうなるでしょう。かといって急に以前のやり方に戻しては消化不良になりそうですから、どうやって離乳食になる知的飢餓を起こさせるかが教員の課題です。向学心を刺激する良書をしっかり読ませ(更に自分でしっかり探し出させ)、しっかり講義を聴かせ、しっかり考えさせ、しっかり発言させる授業をしなければなりません。ハードな経験は、一時は恨まれても良い知見となり思い出になると信じ切る信念も教員には必要です。

 

私の授業では、聴く・読む・考える・分析する・書く・話す、の基本的学習力を厳しく求めているのですが、昨年ある指導者の言葉から「授業は教員と学生のチームワークだ!この大学で一番良い授業を目指そう!」というのをスローガンにしてみました。教員だけが頑張っても効果は出しづらいですし、学生の努力だけに求めるのも非効率だからです。教員と学生が一致団結して刻苦勉励することによって、良い授業が生まれるという信念です。

 

幸いにこの信念に賛同する学生は多く、授業見学に来られた大企業人事担当者から「こんな授業風景は見たことがない」「是非、このクラスから学生を採用したい」という言葉を戴くようになりました。そして2年たった今月、大学から表彰されることになりました。まさにチームワークの勝利ですが、来年は企業の採用担当者もチームワークに入れてやろうと企んでおります。笑

末文になりますが、皆様、良いお年をお迎え下さいませ。

 

▼学生が選ぶベストティーチャー賞(法政大学)

http://www.hoseikyoiku.jp/images/topics/1418898106/1418898106_3.pdf

第293号:採用担当者による新講義「働くための法律知識」

前回、女子アナウンサーの新卒採用内定取消問題を取り上げました。労働法を考えるうえでは参考になる事例なので、授業でグループ・ディスカッションのテーマにしてみたところ、過半数の学生が曖昧ながら内定者に問題がある、という回答でした。実際の訴訟の行方はさておき、学生の法律知識(意識)を向上させる必要性を感じました。

 

というわけで、以前からやってみたいと思っていた「働くための法律知識」という講義を、採用活動経験のある社会保険労務士と一緒に作ってみました。日本の雇用の実態は、法律よりも信頼によって運営されてきた(いわゆる日本型雇用)のですが、21世紀となって、企業に正社員を守る余裕がなくなり、非正規雇用が3割になった昨今、最低限の身を守る法律知識は就業者にとって必須でしょう。

 

しかし、一口に労働法といっても、現在は関連法規も多く、その全てをカバーすることは難しいです。しかも法学部ではない学生にとっては、法律という概念そのものがなかなか理解できません。そうした場合は、TV番組のように、分かりやすい事例研究(判例のケーススタディ)が一番です。今回、作った事例研究は以下のようなものですが、実践してみたところ、評判は上々でした。

 

・遅刻、残業拒否、配置転換拒否で解雇された従業員

・妊娠出産を理由に降格・減俸された女性従業員

・内定取消で勝訴(敗訴)した従業員

 

また、労働法ではありませんが、大学生がネット上で風評被害を起こして損害賠償を請求されたケース、なりすまし情報操作の事例などをとりあげました。今後、ブラック企業や就活学生を狙った悪質な就職塾勧誘ビジネス(つい先日も大学の近くで店を広げていました。)も扱って参ります。

 

この授業では、単なる法律知識だけではなく、社会人としての「権利と義務とキャリア形成」をしっかり伝えたいと思っています。権利を主張するばかりではなく、企業が守ってあげたくなる(大事にしたくなる)社員に成長すること、企業は学校ではありませんが、自ら成長する機会に溢れていることを理解させたいです。

 

そしてこの後、企業人事の採用担当者にこうした口座の講師になってくれないかと持ちかけてみようと思っています。採用活動後ろ倒しでやることが思いつかずに困っている採用担当者にとっては、学生と触れ合う機会にもなりますし、プレゼンテーションもうまくなり、更には採用担当者自身の法律に対する意識やコンプライアンスを向上させることができるのではないかと思います。