第298号:大山鳴動して鼠一匹

企業の採用広報活動の解禁日が近づいてきました。何処の大学でも学内セミナーの準備で多忙なことでしょう。さぞや学生が待ちに待っているかと思いましたが、どうも私の周りの学生は落ち着いている感じです。といいますか、学生達が先の見えない状況に慣れてきたのかもしれません。

 

年末には「昨年の方が良かった」とか「後ろ倒しは困る」と言う学生が多かったのですが、最近は「まあどちらでも良いです」「遅くなって良かったです」という声がだんだん増えてきました。人間の環境適応能力に感心させられますが、やはり締め切りが遠いと安心するというのは人間の性なのかもしれません。誰でもいつかは死ぬと分かっていても、その時期がわからないので普通に過ごせますし、夏休みの宿題を7月中に終わらせる子供もあまりいませんね。

 

いま改めてわかるのは、学生が恐れているのは時期の変更ではなく、変化することだったということです。昨年の情報が役に立たなくなることに不安があったのでしょう。

 

年末のTVのニュースやアンケート取材の「採用活動が後ろ倒しになることをどう思いますか?」という質問自体があまり意味のないことでした。というのは、学生は毎年就職活動をしているわけではないので、昨年と比較してどうなのか?という判断ができるはずもありません。しかし、そうした質問を投げかけられると、上述の通り先の見えない不安から「困ります」「今までの方が良かったです」と回答してしまうものです。

 

今年の企業の採用担当者の動きは、想像通り年末からインターンシップが花盛りです。しかし、インターンシップは受け入れ人数に限りがあることと、大手企業ほど有名校をターゲッティングしているので、就職市場全体への影響はそれほど大きいようには見えません。しかも学生はいわゆる二極化しているので、目ざとい学生はいくつもインターンシップを受けて内々定まで得ていますが、動かない学生は泰然としています。

 

こうしてみると、採用活動の後ろ倒しの効果というは採用時期のターゲット別分散化という現象を引き起こしているのかもしれません。これを長期化という人も居りますが、企業も学生も動いている層と動いていない層があります。つまり、企業も学生も最初から最後まで動き続けるところは少ないようです。

 

今年の動きを判断するのはまだ難しいですが、3月になれば、流石に多くの学生が動き始めることでしょう。そして4月になれば新年度の行事等で、また動く学生と企業、動かない学生と企業に分かれてくるでしょう。焦ることなく動向を見ていて良いと思います。

 

年末に大学就職課の方々が口を揃えておっしゃっていたのは「学生が動かなくて困る」「セミナーを開いても学生が集まらない」でしたが、そもそも企業の倫理憲章は、学生の就職支援でもなく、企業の採用活動支援でもなく、大学に平穏な日々を取り戻すことだったはずですから。

 

第297号:期末試験解答と伸びしろのある学生

大学受験シーズンで多忙な職員の方々の裏側で、教員は期末試験やレポートの採点シーズンです。私の授業の筆記試験は記述式解答の設問なので、エントリーシートの採点や面接での選考と評価基準が同じになることがあります。それは採用担当者が好きな「求める人材」と似ています。

 

皆さんもよく耳にすると思いますが、採用担当者に「求める人材」を問うと、以下の3つを応える人が多いです。

 

1.素直な人

2.伸びしろのある人

3.一緒に働きたくなる人

 

これらはどんな組織でも一緒でしょう。要は、若者の最大の魅力である成長・変化していける力をもった人です。自分の中に他者の意見や考えを素直に取り込む余裕があり、そうした伸びしろをもつ若者とは誰でも一緒に働きたくなるのではないでしょうか?

 

さて、私の期末試験の設問では「授業で取り上げたケースを元に、論理的に持論を展開しなさい」というものを出すことがありますが、その時にこの「求める人材」か否かを感じさせられます。ケースというのは、社会問題であったりゲスト講師の話であったりしますが、このケースの受け止め方に個性が出てきます。現象や思想に共感的・前向きに受け止めて持論を展開する者もいれば、批判的・客観的に受け止める者、否定的・排他的に切り捨てる者等々。

 

これらの回答からは性格の違いだけではなく、文章力(表現力・ボキャブラリー)の技術の違いもわかり、個性と能力が評価できます。つまり、上記の3つのパターン+文章スキルの優劣(2パターン)で評価してみると、6つに分類できます。

 

この中でもっとも採用してみたいと思うのは、共感的・客観的に受け止めて前向きな文章を書く者で、つまり上述の「求める人材」に近い人物です。批判的・排他的な者でも、文章の礼儀をわきまえて書く者はすぐに減点にはなりませんが、相当にレベルが高くなければ、他者を受け入れて自分の成長につなげる魅力に欠けます。自分の世界で小さくまとまっていると感じますから。

 

というわけで、日頃の授業のリアクションペーパーでも期末試験からでも、就職活動のうまくいきそうな学生とそうでない学生は判断できますし、育てることもできます。

 

ちなみに、採用担当者の方々は「伸びしろ」とか「一緒に働きたくなる」ということは良くおっしゃいますが、それをどういう質問や試験で見分けるかの方法論まで気づいていない方もおります(フィーリングで語っている)。だからこそ、応募者である学生が意識的に魅力を感じさせて欲しいですね。