第161号:「覚悟」を求める採用担当者

企業の採用活動は時代や景気の変化に敏感に影響されます。特に今年のような売り手市場から買い手市場への急速な転換が起きると選考ハードルが上がり、面接の方法・形式・質問内容が変わってきたようです。その傾向をいくつか見てみましょう。

 

まずは採用選考(面接)の形式です。今シーズンの大きな特長は、グループ面接(複数の学生と複数の面接者)の増加です。これまでグループ面接というと、一般事務職の一次選考で使われることが多く、総合職については1対1の個別面接の方が多数を占めていました。ところが今シーズンは、総合職でも最初からグループ面接を行い、中には最終面接までグループ面接を行う企業まで出てきました。

その背景には、以下のような理由があげられます。

・採用数が減少し応募者増加したので、選考の効率をあげるため

・KY学生を見抜く(回りのペースを見ながら話のできる学生を求める)

・学生が自然に自分の選考結果を感じ取れる(不合格の場合に納得できる)

 

次に質問内容ですが、前回も触れた通り、ここ数年で自己PR(大学時代に頑張ったこと)を行動実績とともに聴くいわゆる「コンピテンシー面接」が主流になりましたが、今年はこれに加えて改めて志望動機を深く聴く企業が増加してきました。それが人事部長面接・最終選考において不合格になる学生が急増している理由です。最終選考で採用決定権を持った役職者が最も聴くのは志望動機と入社後の夢(キャリアプラン)で、それが自社の方向性と合っているか、本気度・覚悟を感じられるかです。その質問の仕方も、かつては「当社は第一希望ですか?」という単純な質問から、「貴方の企業選択基準をお話し下さい。」と第一希望の根拠まで深く聴くようになってきました。

これまで面接を企業広報の有力メディアとして活用してきた企業も、覚悟をもって方針変更を行っているようです。

 

こうした採用担当者側の急変化に対して、学生側の対応は十分ではありませんでした。志望動機が弱い学生の主な原因は、企業取材を自分で行っていないからだと思われます。自己PRは自分の材料を自分のペースで書けるのに対し、志望動機はまずその企業の材料(データ)を仕入れる必要があり、手間暇がかかります。そのため、学生はインターネットやセミナーのような手っ取り早く情報を得られるものから志望動機を考えがちですので、結果的に志望動機が似てきてしまいます。企業がOB訪問を勧めるのは、自社をよく理解して説得力のある志望動機で熱意を示して欲しいという気持ちの現れでしょう。(実際、そういった行動的な学生は内定獲得率が高いです。)

 

採用担当者の面接の傾向の変化は、テクニック本にもよく現れています。今、店頭に並んでいる多くの書籍は売り手市場の頃に書かれた(学生への丁寧な対応を勧める)ものなので、厳選採用に対するものはまだ殆どありません。少し前は「採用氷河期」という本が販売になったばかりですから、今回の変化が如何に速かったかを物語っており、著者(出版社)も泣いていることでしょう。バブル崩壊後に書かれた本がまた売れるかもしれませんね。

 

第160号:就職活動リターンマッチ

メディア各社から就職内定状況の速報が出始め、今シーズンの厳しい実態が明らかになってきました。4月末でのダイヤモンド・ビッグ&リード社の調べでは、内定獲得者は32.4%であり、昨年同時期が45.5%だったのに比べると約2/3という落ち込み方です。例年であれば、「まだまだ先は長いですから心配ありません。多くの企業が募集活動を行っています。」と言いながら学生のお尻を叩くところですが、相当に気を引き締めて行う必要がありそうです。

 

今シーズンの異変を示すもう一つの数値は、セミナー(企業説明会)や筆記試験への参加率と通過率です。同じくダイヤモンド・ビッグ&リード社の調べによると、セミナー参加から一次選考まで進めた応募者の状況は下記の通りです。

◆現在の就活進行状況は?  ( )は09卒調査

セミナー・説明会参加まで・・・ 76.6% (45.7%)

筆記・適性テストまで  ・・・ 74.2% (47.8%)

一次面接まで      ・・・ 74.7% (59.2%)

このように、学生は昨年よりも相当に活発に動いているにもかかわらず、結果は非常に厳しいです。もう少し詳細のデータ分析をしてみないと確かなことは申し上げられませんが、私が就職相談や模擬面接で感じているのは、学生の思考(指向)がかなり単純化・画一化していることです。国際経済の低迷により、内需関連(インフラ系・食品系 etc.)を志望する学生が急増し、その志望動機も「環境」「規模」「安定性」等、酷似しており、個性が見えません。例えば太陽電池という国家プロジェクトとしても脚光を浴びる企業を例にすると、その企業が太陽電池を扱う企業の事業規模(人員数)を詳しく調べると、とても多くの新卒採用はあり得ないのに殆どの学生が志望し、また太陽電池にかかわる企業は中小多くあるのを知らず、大手2~3社に学生の志望が偏っているように感じます。

 

その結果、採用担当者の意見を聞いても今年の面接不合格の理由は「志望動機が甘い」というものが増えてきました。昨年までは、形ばかりで聴いていた「志望動機を重視」してきたということは、これまで代表的な質問だった「学生時代にもっとも頑張ったこと」だけでは合格ラインに達しなくなってきたということです。更に、それが当社にどのように活かせるのか、どこまで本気なのか?という「覚悟」まで求めるようになってきたということでしょう。

 

こういった状況になると、学生の就職指導のポイントも、面接テクニックだけでは片付かなくなってきました。今月は、久しぶりの企画ですが神戸大学で就職リターンマッチを行います。ここ数年、必要なかった企画なのですが、ここにきて面接に通らない学生が急増したために、継続採用活動をしている企業の採用担当者を招き、リアルな模擬面接をしながら志望動機を厳しく指導するというスパルタ式です。同時に、もし良い学生が居たら企業の方にそのまま連れて行って戴いたり、逆に学生から積極的に自分を売り込んで貰ったりする企画です。このような企業開拓まで含めた就職支援をしていかないと、2010年卒業の学生のキャリアが危ぶまれます。公的機関のハローワークと同様、待っていて企業が求人を送ってくれる時代ではなくなってきたのですから、リターンマッチはすぐに始めるべきだと思います。