第113号:採用担当者のモラル

前回、「就職活動の法律知識とモラル」というタイトルで書きましたが、残念ながら採用担当者のモラルが問われる事件が起きてしまいました。全く言語道断のことですが、これを機会にリクルーター制を導入する企業側の責任についても触れておきたいと思います。

 

周知の通り、今シーズンからリクルーターの大量導入が盛んです。メディア過剰の現在、ネットではなく人的交流から学生を惹きつけようとする傾向は今後もしばらく続くことでしょう。リクルーター制の是非はともかく、こういった事件がおきてしまった以上、リクルーター制をとる企業は、その行動について指示委管理監督をより強化することを求められるでしょう。これはもう、リクルーターを使う企業にとって、コーポレート・ガバナンスの問題でもあります。「人が唯一無二の資本である。」と謳う企業なら尚更です。

 

一般社員をリクルーターとして大量に導入している企業は、社内で学生対応のための説明会を開催したり、マニュアルを配付したりしています。その中身は、リクルーター活動の重要性・具体的な活動内容・持参資料・人事への報告方法・出張経費精算等ですが、必ず学生に接する際の心得についても触れています。しかしながら、まだまだがパワー・ハラスメント、セクシャル・ハラスメントについて、しっかりルール化しているところは少なく、「社会人として、××企業の社員として、恥ずかしくない態度をとること」という程度に説明されているのが殆どです。

 

一昔前の日本ならば、それで十分に通じたのですが、残念なことに今は個人の判断に任せるだけでは十分ではなく、例えば『学生との個別コンタクトは密室で行わず、必ず他者の目に触れる場所(大学食堂、喫茶店等)で行うこと。』といった具体的な指示が必要でしょう。大学内の就職指導時に、学生に対しても指導すべきですし、大学就職課の方から企業人事に対してリクルーター制の有無と運用ルールについては確認されても良いと思います。

 

採用面接の場においても面接者のモラルは大事です。私は企業人事の時代、採用担当者全員に面接開始時には自分の名前を名乗って貰っていました。社員を信用しないわけではありませんが、そういった行動をとることによって面接者が自戒できるのです。企業説明会でも「もし、私たちの面接を受けられて不快な想いをされたら、遠慮無くそのインターネットでその面接者の実名を書いて下さい。」と伝えていました。幸いながら一度も不名誉な事態は起きませんでしたし、多くの企業採用担当者は問題ないでしょう。

 

上述の通り、今回の事件は企業人事部の管理下以外で発生したものではありますが、リクルーター制をとる企業は今後、一層厳しい管理監督を行うべきだと考えています。今回のテーマは触れるのも嫌で、日本人として情けないことですが、現実と想像の区別がつかなくなってきている事件が多発している現在、改めて注意を喚起しておきたいと思います。そろそろ新卒学生向けの法律相談所も必要な時代かもしれません。

第112号:就職活動の法律知識とモラル

GWも明け春先の選考で納得のいく企業から結果を出して貰った学生たちの内定辞退活動が盛んです。私が書いているネット上の掲示板でも、内定辞退についての記事へのアクセスが急増しています。これも売り手市場の影響だと思いますが、就職活動をしめくくるためにも学生さんには最低限の法律知識とモラルを身につけて戴きたいと思います。

 

学生側の売り手市場になり、企業の採用熱が急上昇すると同時に採用担当者の意識も相当に焦りが見えてきました。学生の誘因や囲い込み、そして入社の意思確認等、今季はだいぶ荒っぽい採用活動が増えてきます。特に急増するリクルーターについては、人事側の指導が十分でなかったり、また採用担当者の中にも法律知識(とモラル)を心得ていない輩が居るのも事実です。

 

採用した従業員に対して企業がキャリア自立・自律を求めているのは、社員が自分で自分の労働者の権利を守らなければならなくなった、ということです。故に就職する学生にも、冒頭に述べた内定辞退についても最低限の法律知識を身につけて欲しいと思います。私は数多くの大学で就職セミナーを行って参りますが、ご依頼内容の殆どは「自己分析」「模擬面接」「ビジネスマナー」等のハウツーに関するもので、残念ながら「就職活動に必要な法律知識とモラル」というテーマでご依頼を戴いたことはありません。また、そういったテーマのセミナーも寡聞にして存じません。(本来なら就職セミナーの一番初めに伝えるべきことだと思います。)

 

例えば内定辞退の法的な根拠だけではなく、アルバイトでもたまに目にする「残業代全額支給」や、人材紹介業でも目にする「応募者からは紹介料は戴きません」という文言があります。残業代は払うのが当たり前で払わないのは違法行為ですし、ふつうの有料職業紹介では応募者から紹介料を搾取するのも違法なのは、法律を知っていれば当たり前のことですし、知っておきたいことです。

 

これまでの日本は法律が出しゃばらなくても、モラルで解決できた社会なのですが、それがあらゆる所で崩壊し、巷間では信じられない事件・現象が起きています。世の中で働く殆どの労働者が労働法について知り得ないのは当然ですが、「知らない者が損をする」のが法律の世界でもあります。

 

私は学生に権利を主張するためだけの法律の知恵をつけるつもりは毛頭ありません。それは却って学生のためにもなりませんが、一人の社会人(労働者)として働くことの意味と責任を理解して欲しいと思うのです。大学全入時代を迎え学生の質も意識も変わり、以前であれば当然に身につけていた知識とモラルを改めて教育しなければならない時代です。卒業前の就職活動を通じて、本当の「教養」をもった社会人になってほしいと思います。

 

▼ご参考:私が気紛れに書いている掲示板です。

http://www.careerangel.jp/community/html/index.php