第165号:経費削減に走る採用担当者

この不景気は採用担当者の活動にも大きく影響しています。経費削減3K(交通費・広告費・交際費)が仕事の中心ですから。いま採用担当者は文字通り身を削る思いで経費を削減しています。しかし、経費を削減するということは仕事も削減されることになるので、結果的に学生の就職状況悪化につながってしまいます。

 

3K費用のそれぞれについて、採用担当者は以下のような経費削減を行っています。

▼交通費

採用担当者自身が地方に出張する回数を減らします。そのため、大学訪問も効率の良い大都市圏に絞り、地方の大学は避けていきます。悩ましいのは、大都市圏でもちょっと都心から離れたキャンパスです。東京から関西へ出張する採用担当者が、京都大学・大阪大学を回った後に、神戸大学に行かずに市内の私立大学を回るというようなことがあります。

もう一つは、採用選考についての学生交通費の支給を止めることです。景気が良いときには企業セミナーや一次選考から交通費を出す企業もありますが、その支給開始時期を二次選考以降(人事部長面接あたりから)にする、または全額停止する、ということになります。学生にとって評判が悪くなるので、交通費のかかる大学からは募集しないということもあります。

▼広告費

採用関係で使う広告費は、会社案内冊子・ビデオの作成やDM発送等ですが、これも経費削減の対象になりやすいです。冊子やビデオの改訂をやめて昨年と同じものを使ったり、プレゼンテーション・ツールも自前で作ったり、ビデオ撮影もハンディビデオカメラを片手に採用担当者自身が取材に行って原稿を書いたりします。こういった作業はプロの業者に任せた方が楽で綺麗なものができるのですが、背に腹は代えられません。

今の広告の主軸メディアはインターネットですが、これはなかなか止めるわけにはいきません。というのは、インターネットは広告宣伝というよりは、セミナー受付機能・応募者連絡管理機能として使われる方が多くなりましたから。また、インターネットでの広告は効果が測定しやすいので、マスメディアの広告より費用対効果が見えやすいです。

▼交際費

採用担当者が使う交際費というのは、大学訪問をする際の教授への手土産や、学生と懇親会をしたときの飲食代等ですが、これはそれほど多くはありません。接待交際費には税金がかかるので、低額の会議費にするという工夫は、大学の皆さんと同じかもしれませんね。

 

こうした費用削減努力は大変ですが、採用活動にはイニシャルコスト(初期費用)がかかるので、10人採用するのも100人採用するのもあまり予算は変わらないことがあります。(インターネットの就職サイトの費用は採用人数に応じて決まるのではなく利用するかしないかで決まるものが殆どです。)そういった事情を知らない経営トップから「採用数を半分にするから費用も半分で済むな!」と言われると思わずため息が出ます。「いっそ、採用ゼロにしてくれ!」と言いたくなりますが、そうなると「採用担当者も不要だな!」と恐ろしい返事をもらいそうです。早く景気が回復して欲しいものですね。採用担当者の雇用政策として国の支援を望みたいところです。

第164号:「新卒就職戦線総括」から

今週発売された週刊ダイヤモンドの特集に「新卒就職戦線総括」が掲載されています。今年の就職戦線の問題点をなかなか公平に指摘しておりますのでご参考になると思います。その中でいくつか気の付いた点をあげてコメントしたいと思います。

 

▼企業の問題:

「年末には内定を出し始めるテレビ局や外資系金融の狼藉ぶりも相変わらずだ。」

年末の寒い中、テレビ局の前に長蛇の列を作る大学3年生の状況を何故、報道しないのでしょう。今回の不況は、学生・大学・企業、それぞれに不毛な消費をもたらす就職・採用活動の早期化・長期化を本気で問題にして対処をすべきです。一部の識者が的確に指摘しているにもかかわらず、そういった声を大きくとりあげて欲しいと思います。何度でも言いたいと思います。

 

▼大学の問題:

「この10年大学はキャリア教育に力を入れてきたと“自己評価”しているが、・・・。」

大学におけるキャリア教育自体が未発達な状態ですが、大学が力を入れるべきは大学本来の授業を通じて高度な見識と実行力をもった人材を育成することでしょう。企業が求めるダントツ1位の「対人コミュニケーション力」は、ゼミ活動を工夫することで十分に養うことができます。それを行わずに、親に向けての就職説明会や下手な自己分析など行うのは本末転倒です。30年前の大学ならば、そういったノウハウが無くとも学生自身が考えて自己責任で行動したものですが、大学大衆化の現代では新たな手法が必要です。企業との連携によるプロジェクト・ベースの授業も結構ですが、企業の求める人材像などに迎合せず、企業に対して誇れる人材像を提案する矜持が欲しいです。

 

▼学生の問題:

「就職の厳しさを目の当たりにした今年の学生の多くは、早々に見切りをつけてしまったのである。」

今年の就職活動が本当に厳しいのはもう書くまでもありませんし、1年以上も就職活動を行っても内定の得られない学生には本当に同情します。しかし、あえてここで言いたいのは、今年内定した学生の共通点です。毎年この時期は就職活動を終えた多くの学生に体験談をヒアリングしており、「この急激な経済不況で大変だったでしょう?」と聞いてみると、内定を獲得した学生は全く同じ言葉を口にします。『確かに大変でしたが、環境のせいにしたくはないですからね。』

聞いていて思わず、膝を打ちたくなります。こうした学生は就職活動だけではなく、おそらく勉強やサークル活動やアルバイトにも同じ意識で取り組んでいることでしょう。

 

前回も書いた通り2010年卒学生の就職活動は終わったわけではなく、「総括」という言葉で締めくくる時期ではありませんが、こうした環境をしっかり受け止めて次のステップを踏み出したいものです。企業も大学も学生も。

 

*引用雑誌:「週刊ダイヤモンド(7月11日)28号」118頁