第256号:就活に役立つバイト御三家はホント?

私が法政大学で担当している授業に、1年生対象の「キャリアデザイン入門」があります。文科省の『産業界のニーズに対応した教育改革・充実体制整備事業』の一環として実施されている正課授業ですが、大学生活に慣れてきた学生からよく出てくる質問は、「どんなアルバイトが就活に役立ちますか?」です。雇用が正規・非正規社員に分かれてきた現在では、なかなか難しい質問です。

 

学生の間では、就活に役立つバイトの御三家は、スタバ(スターバックス)、マック(マクド)、ユニクロだそうです。どれも店頭販売系で多くの学生がアルバイト要員として採用されますので、数の上でも御三家というポジションにないやすいのでしょう。しかし、それぞれにかなりスタイルが違います。大雑把ですが、以下のような感じだと思います。

 

・スタバ ⇒対人個別サービス系(マニュアル無しで顧客対応をそれぞれ考える)

・マック ⇒均一販売サービス系(マニュアルに従い、正確迅速に対応する)

・ユニクロ ⇒販売サービス&マネジメント系(販売だけでなく店舗管理も行う)

 

では、これらのバイトが就活(正社員の仕事)に役立つかというと、冒頭に述べた通り、以前と違ってアルバイトからそのまま正社員に採用されるケースは少なくなりました。私が学生の頃からもあったマックのバイトでは、店長レベルまで任されるようになると「このまま就職しないか?」と誘われたものですが、今はそう簡単に正社員にはなれません。

 

こんなことを考えていた先日、法政大学の池永教授(労働市場の二極化等を研究)がネット上に書かれた記事(以下参考URL参照)を見て、ああ、こういう方向に進むのかな、と感じました。この記事によると、日本の労働市場はITの影響によって高賃金労働者と低賃金労働者の二極化が進んでいることと、高賃金労働者の増加は少な目で低賃金労働者は増加していることを指摘しています。ちょっと乱暴な類推ですが、その増加している具体的な仕事が、御三家バイトの形態と似ています。

 

・スタバ ⇒対人個別サービス系 ⇒介護士、ホームヘルパー、保育士

・マック ⇒均一販売サービス系 ⇒販売店員(携帯電話、金融商品等)

・ユニクロ ⇒販売サービス&マネジメント系 ⇒ケア・マネージャー、SE

*ユニクロの店長候補は、ハードワークですが高賃金労働者側に入りそうです。

 

ということで、御三家バイトは、就活に役立つとはいえそうですが、そのままでは就職先はあまり高賃金になりそうもありません。では、将来高賃金に就くことが期待できるバイトはあるのでしょうか?例えば、多くの有名大学生を雇っているカテキョー(家庭教師・塾講師等)系があります。なので、この業界はバイト中の成果を見て優秀な学生を正社員に登用してますね。

勿論、どんなバイトでもやり方によって就活には役立ちますが、同じやるならば、こうしたマクロ経済や賃金構造を見て大学生らしく選択・判断して欲しいものです。

 

▼参考URL:ITの「主人」になるかITの「被害者」になるか(日経ビジネスオンライン)

~日本でも失われる中程度のスキルの仕事~ 法政大学 池永肇恵教授

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130510/247875/?P=1

 

第255号:「グッドラック」と「空飛ぶ広報室」

最近、テレビ番組で就職活動を扱うものが増えてきた気が致します。バラエティ番組のネタに採用担当者が出演するようにもなりましたし、たまに企業の採用広告(CM)も目にすることさえあります。これまでTVというメディアの費用は高額すぎて、採用広報の予算では高値の花でしたので、TV業界は本当に不況でスポンサーがとれないんだなあとも思わされます。そんな背景の中、最近のTVドラマは、だんだんとリアルなものになり、学生の就職活動の参考になるものが増えてきた気がします。

 

学生の就職活動にTVドラマは大きな影響を与えます。2003年にヒットしたANAを舞台にした『Good Luck!!』は視聴率が平均的に30%を越え、航空業界の就職希望者が急増してニュースにまでなりました。このドラマをご覧になった方も居られると思いますが、主人公の設定について著名な人事コンサルタントがキャリアカウンセラー向けの講演で次のような注文をつけていました。

 

「このドラマは面白いが、やはりドラマに過ぎません。大怪我をして再起不能を宣言された主人公のパイロットが奇跡的な回復を見せてカムバックするわけですが、これはキャリアとしては非現実的です。本来ならば、大怪我をした主人公はパイロットを諦め、パーサーとしてのセカンドキャリアに生き甲斐を見出していく・・・、という方が現実のキャリアモデルになるのです。」

 

当時、ちょうどキャリアカウンセラーの資格を取ったばかりの私も、やはりドラマはドラマでキャリア教育や就職指導には使えないなあ、と観客席で思っておりました。しかし、この4月から始まった防衛省とTV局を舞台にした『空とぶ広報室』(奇しくも同放送局の放映)では、このコンサルタントの話を聞いていたかのようなストーリーになっていて驚きました。

このドラマの主人公は、航空自衛隊の戦闘機パイロットとして嘱望されていましたが、不慮の交通事故でパイロットを罷免され、広報室に配置転換になりました。最初は落ちこんでおりましたが、やがて新しい広報の仕事にやり甲斐を見出して前向きに取り組み始めまていくのです。

 

歌やドラマは社会背景を映す鏡ですので、2003年のITバブルの余韻の頃は、誰しも大きな夢を描いていたのかもしれません。『世界に一つだけの花』がヒットしたのもこの頃で、小さくても自分だけの価値観を大事にしていて良かったのでしょう。しかし、それから10年が経ち、書籍『置かれた場所で咲きなさい』がベストセラーになり、こうした現実的なドラマが出てきました。夢のような失われた20年が終わろうとしているのかもしれません。

やっと倫理憲章も見直され、ロート製薬のように、非現実的なネット母集団形成の「とりあえず」採用を止めて、現実的に学生と向きあおう、という企業も出てきました。

 

ということで、この4月からの夢のような就職活動で結果が出なかった学生達にも、これからが現実の就職活動だと思って頑張って欲しいと思います。採用担当者も同じです。有望な学生達に辞退され、現実的な採用活動を継続する企業もあるわけです。現実を見つめるとは、夢を捨てることではありません。現実の中に新たな夢を咲かせるのです。