第244号:百貨店主催の就活セミナー

つい先日、百貨店(高島屋等)が就職セミナーを開催する報道を目にしました。化粧品会社が就活メーキャップを各大学で展開しているように、リクルートスーツの選び方や着こなし方を指導するのかと思いきや、それだけではなく、内定塾の講師が面接指導まで行い、はては親にまで心得をアドバイスしてくれるとか。いやはやこれは大人の七五三だと思わされました。しかし、冷静に考えてみると、そこには企業の逞しい販売戦略があり、そうした貪欲さから学生が学ぶものもあるかもしれません。

 

世の中はどんどん複雑になってきました。この時期、多くの大学で「業界研究」が開催されていると思いますが、最近の企業活動はますます複雑になってきて、これまでの「業界」という枠組みではなかなか捉えきれなくなってきました。例えば、以下のような例です。

・富士通:コンピュータの開発からシステムの開発(ハードからソフト)へ移行

⇒新卒採用もSEが主流に。(学生の多くはPC&携帯電話が主流と思っている)

・明治ホールディングス:食品・製菓から医薬品が増加

⇒新卒MR採用は、Meiji Seika ファルマへ分社化。

 

まだ新卒採用までは移行しておりませんが、冒頭の百貨店の例のような変わった例もあります。

・クボタ:品質の良い状態で日本の米を香港に輸出販売を開始。

⇒顧客である農機具ユーザーの支援と、海外の米市場の開拓。

・ビックカメラ:三菱電機の電気自動車を販売開始。

⇒来客数が減少している自動車ディーラーよりも増加している家電店へ

・アマゾン:家電製品を格安販売(儲けは書籍で十分だせる)

⇒ビックカメラ同様に来訪者の囲い込み戦略。ネット上はワンストップが有利。

 

これらは百貨店が就職セミナーを始めたように、狙いは顧客の獲得(囲い込み)であり、本業を伸ばすために需要を創造していくマーケティング戦略です。こうした状況がうまく続けば、いずれは採用対象も変わってくることになります。

 

やや複雑な話になりましたが、就職活動をする学生に理解して欲しいのは、業界毎の知識ではなく、各業界・企業がどのような戦略をとって生き残ろうとしているかです。そして、そこで求められるのは、その業界だけの知識では無く、ビジネスを創造していく発想力や行動力です。

 

最近の広告代理店のビジネスは、不特定多数に向けた大規模で大量な広告では成果に結びつかなくなりました。そのため、特定のニーズに絞ったイベント等を開催し、そこに集まった人々に向けた商品を販売する手法が増えてきています。つまり、大企業の採用担当者が就職ナビや大規模合同説明会よりも、大学内セミナーにシフトしてきているのと同じです。

 

大学生諸君が百貨店で就活セミナーを受けながら、そんなことに気づいてくれたら、きっと「今の」企業が求める資質や能力にも気づけることでしょう。こうした中で学生には物事の本質を見る目を養って欲しいと思います。百貨店の志望者が「私は御社で就職情報サービスを立ち上げたいと思います!」と言えば高評価になるかもしれません。

第243号:大学祭ライブのイマドキ

大学祭のシーズンもそろそろ終盤ですね。私もいくつかの大学を回ってきましたが、禁酒が増えたせいか例年よりやや落ち着いている感じがいたします。自分が大学生だった頃と比べると、高校生が非常に多くなってきて、オープンキャンパスの役割も果たしているのでしょうね。授業だけではなく、課外活動もキャンパスライフの大きな魅力ですから。そして、そのサークル活動の様子を見ていると、学生の資質も垣間見ることができます。

 

私は体育会に所属しており、大学祭の頃は試合のトップシーズンだったので、残念ながら自校の大学祭も殆ど見る機会がありませんでした。4年生になって引退後、初めて楽しむことができたのですが、各大学の軽音楽部のライブを回って上手なバンドを見つけるのが好きでした。サザンなどのプロ級の学生バンドも当時は今より多かった気が致します。

 

そんな多くの学生バンドを聴いているうちに、上手なバンドとそうでないバンドの違いに気づくことがありました。それは演奏ではなく、演奏の前のコメントでわかります。あまり上手くないバンドの口上は、こんなものが多かったです。

「今日はちょっとアンプの調子も良くなくて、体調もイマイチなんですが、まあ、とりあえず聞いて下さい・・・。」

照れ臭さもあるのでしょうが、もう演奏はきかずに帰りたくなりますね。反対に、上手なバンドに多いのは、こんな口上です。

「今日はようこそおいで下さいました。全力で演奏しますので、是非、楽しんでいって下さい!」

 

要はその演奏が、自己満足なのか、相手に聴いて貰うものなのか、という意識の違いですね。これは採用面接での、採りたくない学生と採りたくなる学生との違いと同じです。ESでも自己PRでも体験談でも、それは自分の想いを一方的に伝えるのではなく、相手が聴きたいものなのか、相手に聴かせる技術があるのか、という意識の有無です。

 

最近はケイオンが大ブームですので、何処の大学でもバンド活動が盛んなのは個人的には嬉しいことです。楽器もエレクトロニクスの進歩で、楽器が演奏できなくても作曲ができるようになりましたし、歌だって音声合成でコンピュータに歌わせることのできる時代です。誰でも音楽を楽しむことができるようになった反面、内輪の小グループだけでこぢんまりと楽しむサークルが増えた気がします。見知らぬ一般の聴衆に聴いて貰うという意識では無く、サークルメンバー同士だけで演奏と聴衆を入れ替わって盛り上がっているのは、カラオケと同じですね。

 

それと、もう一つ昔の大学バンドと違ってきたのは、ライブ会場に父兄らしき親御さんがチラホラと見かけることです。昔もライブチケットを友人に頼んで買って貰うのはありましたが、流石に親まで巻き込むことはなかったように思います。これも企業の採用選考で親の影がチラホラ浮かぶのと同じことかもしれません。演奏を聴いて「是非、君を採用したい!」とスカウトしたくなるような学生バンドに出会いたいものですが。