第197号:4年の夏から始まる採用選考-2

日本貿易会から提案された新卒学生採用時期の後ろ倒しは、採用担当者にとって非常に関心の高い話題として捉えられています。2013年卒対応の案件ですし、まだ採用担当者の現場から見ると雲の上の話なので今シーズンは特に大きな影響はありませんが、この話題に対する企業・業界の対応を見ていると興味深いです。

 

去る11月17日付けの日経新聞の記事では、採用時期の見直しに肯定的な企業、様子見の企業、そして否定的な企業と分類されておりました。学生にイノベーションを求めたりCSRとか社会貢献とかをアピールしている企業が、見直しに肯定的でないのは面白いですね。こうした企業の対応の仕方を見ると、本当にその企業の社風や本音がわかります。

 

以前から書き続けているとおり、私は採用早期化見直しの大肯定派です。しかしながら、否定派にもそれなりの意見はあるでしょう。いえ、表現を変えると、採用が今のままの早期化・長期化の方がメリットのある企業が存在するでしょう。それには、採用担当者のメリットと企業経営のメリットがあります。前者は勿論、他社に先駆けて良い人材と接触することです。後者は学生が就職活動を行うことによって発生する経済効果のこと、古典的にはリクルート・スーツ等の消耗品ですが、現代的には交通費・通信費等の比重が高くなってきました。

しかし、意外と採用担当者自身が(無意識に?)行っているのは、採用活動という仕事を長期に継続すること、つまり自分の仕事を死守しているということではないでしょうか。学生の就職活動、つまり企業の採用活動が長期であるほど、採用担当者の雇用も守られているのです。たから、見直しに否定的な企業の採用担当者は、様々な理由を(無意識に?)つけているんだろうなあ、と感じることがあります。

 

というのは、見直しに否定的な企業の理由はあまり合理的でないものが多いようですから。例えば、理系の論文執筆など学業に影響が出ると言いますが、以前は誰でもそうして時間を管理して書き上げておりましたし、そもそも理系の推薦制度は学生の就職活動負担を無くすために機能していました。早期化で自由応募が推薦応募を追い越してしまって機能不全になってしまったのです。

外資系の青田買いに対抗できないと言いますが、外資系企業の新卒採用数はそもそも絶対数が多くない超優秀層です。そうした学生は、別の個別採用手法(奨学金・共同開発・個別雇用契約)等で無ければ確保できず、一般の早期化対応で抑えられるものではありません。外資系戦略コンサルに内定したら、流石の総合商社でさえ辞退されてしまいます。それに、今回の火付け役の総合商社の採用数だって、金融機関や製造業の採用数と比較したらそれほどインパクトのあるものではありません。他企業にとっては4月末に辞退されるか8月末に辞退されるかの違いに過ぎません。

 

先日、日本貿易会に属する企業の採用担当者から、我々は本気でやってみせるとの気合いを伺いました。彼らは今のままでも人員確保という意味では不都合はないのです。それをあえて社会問題の是正のために意見している態度は高く評価したいと思います。かつて、太平洋戦争が始まろうとしていた時に、世界情勢を知っていた総合商社マンが戦争反対の提言をしたように。政治も経済も国際戦略が重要な時代です。そろそろ新卒採用も正気を取り戻して本当に力を注ぐべきところに取り組むべきではないでしょうか。

第196号:就業力の評価について

前回、就業力育成支援事業について書きましたが、もう少し採用担当者の目線で私の考え方をお伝えしておきたいと思います。就業力が本当に評価されるということは、採用担当者がそれを評価するということでしょうし、それは企業経営の言葉でいえば、人材の採用コストが下げられるということです。

 

採用コストにはいろいろなものがありますが、大きくは広報費用と選考費用です。これらの金銭的・時間的コストを下げるために、広報費用についてはマスメディアを通じた大規模広報ではいたずらに応募者を増やしてしまいますので、大手企業は焦点を絞った学校・学生に対してヒトメディア(リクルーター)を投じるようになってきました。先般報道されたトヨタのリクルーター制度復活はまさにその象徴です。後者の選考費用のコストダウンも、リクルーターを送り込む大学を選別することによって、母集団形成の段階から既に達成されてきます。つまり実質的には指定校制度ですね。

 

更に選考費用を下げるためには、一次選考の代替指標を導入します。大学名(大学偏差値)は代表的なものですが、大学大衆化の現在はあまり参考にならなくなってきたので、入学後に得た指標が求められます。例えばTOEICや高度な公的資格です。これらの指標は、それだけで内定決定までには至りませんが、筆記試験やエントリーシートを免除する位の効能は認められますし、そうした指標を評価された学生は志望動機も高くなる傾向にあるので、内定辞退率が低下して採用コストを下げてくれます。

 

しかし、大学側として認めて欲しい代替指標はなんといっても成績表でしょう。わざわざ国際基準に会わせてGPAを導入したのですから留学や奨学金申請のためだけではなく、是非、企業の採用選考基準としても認めて欲しいものです。採用担当者としてもGPA3.5以上なら筆記試験は免除して採点コストを下げたいところですが、それができない理由は、成績の採点基準が科目や教員によってバラバラで成績表の信頼度がわからずに学生間比較が困難なこと、採用担当者が成績表だけでは把握できない資質を重視していることなどがあげられます。

 

理想的には2年前に中教審の方針通り、学士力認定の厳格化をするべきです。(あれは果たして進んでいるのでしょうか?)それは大学にとってかなり時間と労力がかかります。ならば、成績表を補完する情報があれば良いと思います。企業の人事評価でも、多くの企業は業績考課という結果を数値化しやすいものと、情意考課という努力面やプロセスを説明するものとがあります。つまり、成績表を補完して学生の資質を説明する資料が学校から発行されれば良いのです。早い話が推薦書ですね。それも就職課が企業に乞われて第一志望だけを保証するようなものではなく、ちゃんと学生の資質を現すものをです。

 

やや夢物語的かもしれませんが、こうした信頼できる指標を就業力と呼ぶならば、企業も採用コストダウンのために評価してくれるのではないかと思います。そのためには、この指標の開発を大学だけで行うのではなく、企業を巻き込んで一緒に行うべきでしょう。しかし、この発想はかつての指定校制度と推薦制度の復活というなんだか時代を遡るような気もします。それは大学の原点に戻るということなのかもしれませんが。