第141号:国立大学協会の採用活動改善依頼

周知の通り、国立大学協会は7月9日(水)に公立大学協会及び日本私立大学団体連合会と連名で、日本経済団体連合会に対し採用選考活動の早期化の是正を強く求めるため関係団体に対して下記の要請書を送付しました。さて今回はどこまで本気なのでしょうか?これが本当に実効されるには何が必要なのでしょうか?

 

今回の依頼書には文書だけではなくグラフ資料も添付され、”昨今の採用選考活動の早期化は国際的に見ても異常”とかなり強い調子で書かれています。私自身、大学の授業を行っていて、4年生を対象とした前期の授業は殆ど壊滅状態であることはわかります。日本の若者の学力や人間力の低下が言われるなか、社会に出る直前の最も重要な時期に、学業や課外活動・学外活動にもリーダーシップを発揮できなくなるのは国家的な損失だとさえ思えてきます。

 

早期化の原因は何か一つに特定できるものではないので、法的に規制でもしない限り解決は難しいですが、少しでも効果を出そうと思うなら、まずはリーディング・カンパニーたる有名大企業が徹底して手本を見せるべきでしょう。良識を持った企業採用担当者なら今の異常な早期化を良しとしている方は少ないでしょうし、ホンネのところでは採用活動の工数増大からむしろ遅らせたいと思っている方が多いです。倫理憲章を無視して早期に活動している有名大企業は特定の業界に限られておりますし、真面目に遵守している企業にとっても不公平です。景気もやや翳ってきた感もありますので、早期化を見直すには良いタイミングかと思います。

 

さて、一方で大学にも協力をお願いしたいと思います。学生の学習環境を守るのは大学の重要な役割でしょう。米国のトップ大学では企業が学生にコンタクトすることを卒業の六ヶ月前まで禁じているところもあるそうです。(それに反してコッソリ学生にコンタクトした企業はしばらく大学に出入り禁止になりました。)卒業後から就職活動を始めるのが一般的な国とは一緒にできませんが、日本のリーディング・ユニバーシティーたる有名大学から就職セミナーは3年試験後の春休み以前は行わないという程の英断と気構えを見せて欲しいものです。

 

一方で、就職セミナーとは別にキャリア教育の充実を図って欲しいと思います。ビジネスマナーとか面接テクニックなどではなく、本来の専門教育を活かしていける手法について大学の研究機能の底力を発揮して欲しいと思います。必要であれば外部の機関(民間企業)を活用すれば良いでしょう。

 

最後に、要請の中には「可能な限り休日や祝日等、例えば長期休暇期間に行う等、大学の教育活動を尊重した採用選考活動を行うこと。」という要請もあるのですが、採用担当者も労働者です。これは是非、早期化の改善と一緒にして欲しいです。現場では今でも過労死しそうな位、通年採用で頑張っているのですから。

 

第140号:二極化する学生の理由は?

西の方から梅雨が明けてきましたが、採用シーズンも切り替え時期になりました。いよいよ2010年卒の3年生を対象とした採用活動が始まります。とはいうものの、やや景気の見通しには暗い材料が増えてきていますので、企業の採用戦略も慎重になりがちです。自社を取り巻く経済状況と今年の採用活動の成果を睨みつつ、来期はどうするか?と思案している企業が多いことでしょう。

 

企業採用担当者に学生の傾向を聴いてみると今シーズンも「二極化している」という声をよく聴きます。すっかり耳にタコができてしまったので当たり前のように感じてしまいますが、改めて何故そのような現象になったのかをと理由を考えてみるとなかなか難しいです。というのは、学生の学力が低下と言われていてもそれは二極化するものではなく、全体の平均値が下がりつつ正規分布するのが自然だからです。今の時代の経営戦略のように、トップレベルのシェアが取れなければその市場から撤退するというような何らかの意図を持った選択行動があれば別ですが。

 

いくつかその不自然な理由を以下の通り想像してみました。

 

・就職活動が厳しいからと早期に諦めた学生が就職戦線から撤退している。

⇒多少その可能性はあったとしても応募者数自体はそう変わっていません。

・大学生の就職指導やキャリア教育の成果に差がある。

⇒それならば大学間格差が出てきそうですが、同じ大学内でも二極化していると聴きます。

・AO入試&推薦入試で入学した低学力の大学生が増えた。

⇒いまや4割の学生がAO&推薦入学だそうですが、最近始まったわけでもありません。

・利用している就職メディア情報に差がある。

⇒学生は単一の就職メディアを見ているわけではありません。

・採用担当者の選考基準が変わって中間層が消えた。

⇒売り手市場とはいえ「迷ったら落とす」企業が増えているかもしれません。

・家庭の経済事情が二極化して学力も二極化した。

⇒東大生の家庭は必ずしも高収入ではないと言われています。

 

以上、二極化の原因を、学生側、大学側、企業側、家庭側といろいろ考えてみましたが、どうもこれが一番怪しいと思えそうなものはありません。となると、全部が組み合わさった複合的な理由なのか、または二極化自体が幻想なのか、ということでしょう。(意外と採用担当者の気のせいなのかもしれませんが。)

いずれにしても、二極化の上位学生が奪い合いになる中、「中間の学生」は一体何処に居ったのか?というのが採用担当者にとっての大問題です。みなさんの大学では如何でしょう?本当に学生は二極化していますか?だとしたら、その原因は何でしょう?

これは大学と企業が一緒に考えなければならない問題かもしれません。