第131号:正体不明の「KY系学生」

採用選考が本格的に始まり、駅で見かける学生の表情も真剣度が上がってきました。面接を体験した学生も出てきていますが、まだまだ緊張感の方が先立ち、まとまった話の出来る学生は少数のようです。

面接慣れの問題かもしれませんが、採用担当者が困るのは、ここ数年、正体をつかむのに手間のかかる学生が増えてきたことです。採用担当者から言わせると、「KY系学生」です。

 

流行語にもなってしまった「KY」というのは、もう説明するまでもなく「空気が読めない」という意味です。言葉にしないと理解ができない若者が増えつつある今、こういった言葉を使っているのを見ると、まだ日本人の心は失われていないのかなとも嬉しくなりますが。

しかし、採用担当者の感じる「KY」とは「空気が読めない」ではなく、「気持ちが読めない」です。「KY系学生」は、面接を行っていて時間がかかります。具体的な会話例をご紹介しましょう。

 

採用担当者「あなたが大学生活で最も力を入れたことはなんですか?」

KY系学生「いろいろやってきましたが、アルバイトです。」

採用担当者「どんなアルバイトですか?」

KY系学生「接客業です。居酒屋のチェーン店ですが店長を任されていました。」

採用担当者「そこではどんな体験をしましたか?」

KY系学生「多くの社会人の方々に触れることによってコミュニケーション力を身につけました。」

 

今の面接では非常に多いパターンですが、上記の会話から採用担当者が得られる応募者の個人情報は殆どありません。この程度の情報ならば履歴書に1行記載してあれば十分ですから、ここまでの採用担当者の3つの質問は無駄になっています。こういった会話をする学生が「KY系学生」、つまり『採用担当者の気持ちが読めない応募者』です。面接は世間話の場ではありません。採用担当者は非常に限られた時間の中で応募者一人一人を知ろうとしていますので、その採用担当者の気持ちが読めているならば、最初の質問から「居酒屋のアルバイトを通じて社会人の方とのコミュニケーション力を身につけたことです。」と答えて戴ければ非常に助かりますし、応募者の評価も上がります。

 

学生は無意識に自分自身の存在を「××系」「××的」という表現を使い、曖昧で没個性にしていることが多いです。それは心理学的に自分の居場所を確認すると同時に埋没させる効果があるそうで、危険に溢れた現代社会において目立つことを避けようとする若者の意識の表れらしいです。しかし、採用面接でこれをやられては困ります。面接の場では採用担当者を信頼して早く素顔を見せて欲しいものです。マニュアル本に個人情報は小出しにした方が良いと書かれているものもあるそうですが、それは採用担当者には、「無駄に時間を使う人(MH)」「手間のかかる人(TH)」という印象になるでしょう。

 

売り手市場になってしまった今では難しいお願いかもしれませんが、採用担当者の気持ちを読んだ面接をして戴けたら助かります。お互いのために・・・。

 

第130号:模擬面接における自分軸と社会軸

最近は、大学入試と就職活動(採用選考)の開始が同時期になりました。大学内は受験生で溢れ、大学外は就活生で溢れています。受験大国日本の盛りですね。今年は例年以上に企業の選考開始の足並みにバラツキが出ているようで、それに合わせられたかのように学生の面接準備にもバラツキが激しくなってきたようです。

 

先日大学での模擬面接を行ったところ、なかなか話ができない学生にひとつの傾向がありました。自己分析を行っているのに、説得力のある志望動機を話せない学生です。その学生の話をよく聴いていると、体験談の整理や強みはまとまっているのに、それを志望する企業で、または社会でどのように活かしていくかを関連付けられていないのです。学生が最近よく使う就職流行語に、「自分軸」というものがありますが、それが世の中でどう発揮するかという「社会軸」を持っていないのです。

 

「自分軸」と「社会軸」について整理すると下記の通りです。

▼自分軸(垂直軸・時間軸)

過去の自分(体験談)⇒勉強、サークル、アルバイト、ボランティア、趣味

現在の自分(自己PR)⇒長所・短所、性格、能力、指向性、行動特性、専門分野

未来の自分(志望動機)⇒その企業で行いたい短期・長期の夢、希望、人生

 

最近は体験談を聞くコンピテンシー面接が大流行しているせいか、最後の志望動機について語るところまで思いつかない学生が増えてきました。これは、社会を表面的なところでしか知らないので想像がつかないのか、多忙な時間の中で自分を囲んでいる社会について見渡す余裕が無くなってきているのかもしれません。それが、下記の社会軸の視点の欠如です。

 

▼社会軸(水平軸・空間軸)

社会意識(一般常識)⇒時事問題、関心のある出来事、社会人意識

就活状況(企業研究)⇒他社の志望状況、企業(業界・職種)選択の基準

 

企業が社会軸を質問するのは、一般常識(知識)を見るだけではなく、その応募者の性格や本気度、意思決定基準がわかるからです。実際、自分軸(体験談等)を聴かなくても、その学生の人物の大きさは、時事問題の視野の広さや理解度、捉え方などによっても判断できます。自己中心がドンドン進む中で、むしろこれからはこちらを重視した面接が必要かもしれません。

 

売り手市場になると学生はどうしても「自分軸」を中心に考えがちですが、「一つのことに集中して回りが見えなくなる」のはドラマの主人公に任せておいて、広い視野から自分の軸を見直して欲しいものですね。