前回、前々回と政府の緊急若年雇用対策について論じてきました。多くの企業の採用担当者が2009年採用の扉を閉じて2010年採用に舵を切りはじめたいま、緊急避難的に頼りになるのはやはり大学しかないと思います。
就職相談を受けている4年生に、もし内定がとれないままだったらどうするか?と尋ねてみると、意外と多いのが「とりあえず卒業して考える」であり、その理由の多くは授業料の負担です。数年前なら「とりあえず就職留年する」の方が多かったのですが、不況の中で親に迷惑をかけたくないという心理が強く働いているのかもしれません。
しかしながら、採用担当者の視点で考えると、新卒無業の状態になるのは非常に危ういように思われます。長らく「大学卒業=企業就職」というタイムラグのない就職慣行が続いてきたので、採用担当者は卒業時に就職できなかったという事実を聴くと「何かあるんじゃないか?」という疑心暗鬼にかられるのです。「第二新卒」という労働市場が形成され、やりなおしのできる社会になりつつあるとはいえ、それは不況期に不本意な就職をした若者が転職をする方であればこそで、社会における経験(新社会人研修)で鍛えられていない新卒無業の若者には相当に高いハードルのままです。
そこで緊急避難的な対策として大学に提言したいことは、(就職)留年をしやすくする制度をつくることです。具体的には留年時の授業料負担を大幅に減らすことです。例えば、
・卒業必要単位の90%を習得した学生に奨学金を支給する
⇒1年間の留年を低コストで認める(内定取り消し対応と同じ⇒10万円での学生身分保障)
・留年中のキャリア形成活動(留学・インターンシップ等)を義務づけ、企業推薦する制度を創設する
⇒企業の採用選考コストの削減にもつながり、キャリア教育の充実にもなる
これらには、大学のキャパシティの問題や、大学評価と採用選考基準の摺り合わせ等、大きな課題がありますが、現在の厳しい経済状況を考えて是非チャレンジして欲しいと思います。
私は先日この提言を大学院の講義でも「キャリア・ヒステリシスの回避」という名で報告いたしました。「新卒大学生が、卒業年次の社会経済の好不況によってその後のキャリアの成否が決定される状況を如何に回避するか?」という課題に対し、「外部労働市場が発展するまで、卒業年次を本人の意志で柔軟に選択できる環境を用意すると同時に、就業のためのキャリア教育と就職支援を充実させる。」というのが私の結論で、上記の提言がその具体策です。
新卒時に就職ができないと将来にわたってのキャリア形成に影響を及ぼすという、いわゆる「学卒未就業問題」がありますが、これまで大学生よりも高校生において大きな問題として指摘されてきました。しかし、今後は大学生にとっても非常に大きな問題になってくるでしょう。今年はこの問題を考えて対策をとるべき元年にするべきだと思うのです。
*「キャリア・ヒステリシス」というのは私の造語です。ヒステリシスというのは物理学用語で、一度力を加えて変化させてしまうと、加える力を最初の状態のときと同じに戻しても、状態が完全には戻らないことを言います。一度折れ曲がった金属が完全には元に戻らないように。勿論、人間は金属とは異なり、折れ曲がったことは強みにもなりますね。