第324号:大学入試改革は、企業の採用選考化

去る3月17・18日に、京都大学で第22回大学教育研究フォーラムが開催されました。このメールマガジンをご覧になっている方々でFD等に関わっている方はご存じでしょう。全国の大学教員が集い、教育についての実践的な活動研究報告やシンポジウムが展開されており、私もビデオ教材を用いた授業について発表を行って参りました。

毎年トレンディなテーマが扱われていますが、今年度は「高大接続・入試改革」が目立ちました。特に入試改革における各大学の取り組みや課題を聴いていると、大学入試が企業の採用選考と似てくると感じました。

 

昨年12月に出された中教審答申の「高大接続・入試改革」では、2021年の大学入試からこれまでのセンター試験が新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に代わることとなり、試験の形式がマークシート方式以外に記述方式が導入されます。これは企業の採用選考で言えば、SPIに加えてエントリーシートが導入されるようなものですね。主に「知識・技能」をみるもので一次選考にあたります。

 

更に企業の二次選考にあたる、各大学の個別の方針(アドミッションポリシー)によって行われる入試には、「思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性」を評価するために以下のような多様な選考手法が導入される予定です。既に大学入試が外注される時代ですから、選考内容によってはアウトソーシングされるものも出てくるでしょう。

 

『小論文、プレゼンテーション、集団討論、面接、推薦書、調査書、資格試験等』

 

如何でしょう?全く企業の採用選考と同じ形式ですね。これらの導入には、企業と同じく、以下のような大きな課題があります。

1.選考基準の設定が非常に難しくなる(非数値的判断)。

2.選考過程に手間がかかり費用(時間・金銭)が増える。

 

しかし、こうした入試改革、そしてそれに続く大学教育の改革が順調になされたならば、(淡い期待ですが)企業の採用選考は大学の成績を重視するようになるかもしれません。こうした入試改革が始まれば、きっと高校や予備校でもこうした講座が増え、学生の資質が底上げになるでしょう。

結果、学力格差は経済格差と益々近づくかもしれません。とても悩ましいことですが、より良い大学入試も企業の採用選考には手間はかかるものだということです。そこをどれだけ上手に行うべきか。企業の採用担当者にとっても、これから「高大連携・入試改革」は目が離せなくなりそうです。

 

▼参考URL:第22回大学教育研究フォーラム(2016.3.17.18 京都大学高等教育研究開発推進センター)

http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/forum/2015/

▼参考URL:新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)(中教審第177号)(2015.12.22 中教審)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1354191.htm

第323号:ビジネス感覚は君子豹変の成長機会

企業と学生のコンタクトが一気に始まりました。大学受験が終わり、しばし閑静だったキャンパスがリクルートスーツで溢れています。日本の新卒一括採用には批判も多いですが、四季がはっきりしている(最近はどうも異常気象で続きすが)我が国らしさかもしれません。この時期に学生がグッと成長できるかどうか、豹変できる君子であるかどうか、期待を持ってみていますが、そのキッカケは意外と小さな意識の変化だと思います。

 

採用担当者としてどのような視点で学生を見るかは、本当に企業毎、個人毎に異なりますが、学生から社会人への意識の切り替えができているかは誰しも期待を持ってみているところでしょう。しかし、この「学生から社会人へ」という言葉の解釈が、私のように営業現場を経験した採用担当者と、人事部だけしか経験していない採用担当者では、だいぶ異なるように感じます。前者であれば採用選考の場を「取引」の場と見なすことができますが、後者の場合はこのビジネス感覚が欠けていると感じることがあります。

そして、学生(応募者)も複雑な交渉を伴う取引(ビジネス)の経験がまずありませんが、ここに気づけていたら、話し方は大きく変わってきます。それには以下の小さな意識の変化があるかどうかです。

 

『就職活動とは、企業に対して自分という商品を売込む人生で初めてのビジネス』

 

なんだ、こんな簡単なことかと思われましたか?確かに言われれば当たり前のことです。しかし、この小さな意識の変化をちゃんと理解できていたなら行動が変わります。採用面接の場が商談の場だと理解できているなら、そこですべきは「要求」ではなく「提案」です。

「要求」とは、相手の思惑はともかく自分の想いを一方的に伝えることです。国同士の取引(外交)では某大国のように、過大な要求をつきつける交渉術もありますが、通常のビジネスではそうした態度は疎まれます。翻ってみると、相手のことを考えたり調べたりしないで自分の想いだけを熱く語る学生はおりませんでしょうか?具体的に言うと、自己分析はやっているけど企業研究をやっていない学生のことです。相手は当然わかってくれると思い込んでいるのでしょう。

一方で「提案」とは、自分と相手の合理的な、いわゆるWin-Winの関係を考えながら話すことです。具体的に言うと、相手の求めているものを理解した上で(企業研究をしたうえで)、そのニーズに合うように話すことです。

ここでいう「相手の求めているもの」というのは、採用担当者が語る「求める人材像」のような抽象的なものではなく、その組織が求める具体的な業務内容や仕事能力の理解です。上述の通り、営業経験のない採用担当者は前者をみる傾向にあり、現場経験のある採用担当者は後者を見る感覚があります。

 

採用活動を冷静にビジネスの場と考えると、性能も可能性も未知数な製品をたかが10~20分の面接数回で購入する非常にリスクのある判断です。しかも購入金額(生涯賃金)は2~3億円です。こんな商談は世の中にそうそうありません。というわけで、「わけのわからないもの(自分という商品)を、わかりやすく説明して売り込むのだ」そうしたビジネス感覚で提案できる学生ならリスクをおかしても購入してみようかと思えます。願わくは、この春に多くの学生が豹変することを!