第202号:学歴フィルターを乗り越える

2月12日販売の週刊ダイヤモンドは「就活の虚実」というタイトルでした。年に何度か見かける就職活動の特集号ですね。このような企画は何処かの就職コンサルタントが寄稿していたり総花的なものが多いのですが、今回はなかなか気合いの入ったものがあるなと見ておりました。例えば「学歴フィルター」の記事です。なかなか扱いにくいテーマですが、面白い取り上げ方をしてくれました。

 

今回の特集では、人気企業100社の採用担当者に「就活生が本当に聞きたいことをぶつけた!」と称するアンケートを行っています。これも毎度のあたりさわりの無い集計になっています。私もかつて回答したことがありますが、企業として公開で答えられるはずが無い設問が多いのですから、仕方ありません。「学歴フィルター」に関する質問などはその代表です。盗人に「あなたは泥棒ですか?」と聞いているようなものですから。

しかし、こちらも嘘をつくのは嫌ですから、こうした設問にはできるだけ都合良い解釈をして「嘘ではない」と自分を納得させて回答します。例えばこの学歴フィルターに関する質問は、『大学によっては採用目標人数(学校推薦含む)を決めている』となっております。こうした質問については、「我々は早慶上智をターゲットとしており、良い人材ならば何人でも(無限大に)取ることにしているので目標人数は決めてない。だからNOだな。」という具合です。(実際、採用仲間に聞いてみると、ターゲット校を決めている企業は多いですが、大学毎に明確に人数を決めているというよりは、東一早慶群で何人位、MARCH群で何人位という大括りの目標であることが多いような気がします。)

 

それで、今回の特集も「ああ、またいつものパターンか」と見ていたのですが、その次の項目の「覆面座談会」のページでは、人事採用担当者に「この質問にはウソをつかざるをえないでしょう。」と堂々と真逆のコメントを言わせています。おお、なかなかやるな、と思ってしまいました。

 

本当に学歴フィルターについて調べたいなら、アンケートよりも大学内セミナーの参加状況を集計してみればすぐにわかると思います。採用担当者の時間の都合上、ターゲットとしている大学にしか訪問できませんから。皆さんの大学を訪問される企業群もある程度、固定化していますよね?

 

さて学生にとっての問題は学歴フィルターの有無を確かめるよりも、どう対処するかです。「学歴フィルターのせいでセミナーの予約が取れません。」との不満を漏らす学生とは私もよく出会います。しかし、そうした学生はそこで諦めていることが殆どです。彼らにとっては「学歴フィルター」という理由があった方が自尊心を潰されなくて良いのかなと思わされます。

 

こんな時、内定する学生はダメ元でその企業に直接電話して、「貴社のセミナーに行きたいのですが、Web予約がとれません。どうすれば良いですか?」と直談判していますよね。このアプローチも既にマニュアル化されているので門前払いにする企業も多いです。しかし、このダメ元をする学生は行動力があるので内定率が高いです。私の教え子にもそうした学生がおりましたが、笑いながらこんなことを言っていました。「だって、有名大学に入る苦労を考えたら、電話の方が楽じゃないですか。」

ああ、やはりフィルターを乗り越えていくのはこんな子なんですね。

 

第201号:就職活動をさせるから就職ができない

学部3年生を中心とした就職活動が本格的に始まりました。学生は企業の訪問のために自己PRやエントリーシート(ES)の準備に余念がありませんが、無駄なことをやっているなあ、と感じさせられる学生が最近は増えています。大学で学んだことを、ちゃんと理解していれば、就職活動への対処もしっかりできるはずなのに、それができないのは、教員が教えていないのか、学生が学んでいないのか。

 

大学で学ぶことは無数にありますが、もっとも基本的なことは「事実」と「意見」を分けるということでしょう。アカデミックな視点とは、自分の思い込みや想像から語るのではなく、可能な限り調査・実験を行ってデータを集め、それを加工して情報にし、その分析から自分の「意見」を述べることです。

 

このことをちゃんと理解しているならば、就職活動において「行動実績」のない「自己PR」は全く意味がないことがわかるでしょう。仮に「行動実績」があったとしても、誰もが行っているようなものであれば競争力はありません。そして、それを冷静に評価するのが、今のコンピテンシー面接です。

 

私が冒頭で述べた無駄なことをしている学生とは、たいした行動実績が無いのに必死に自己PRやESを書こうと悩む学生たちです。志望企業にもよりますが、それは順序が違うというか、手遅れです。まずやるべきことは、何でも良いから他者と比較して可能な限り競争力のある行動実績をつくることです。

 

そうした学生達の簡単なアルバイト経験を、むりやりにカッコ良い自己PRに加工させるような就職指導は時代遅れで、ファーストフード店でハンバーガーを販売した経験を「マーケティング活動」などと言わせるようなものです。当たり前のことですが、「行動実績」は一朝一夕にはできません。しかし、それがあれば自己PRやESは比較的短時間にできあがります。

 

私が言いたいのは、3年生の春休みに就職活動をさせるのは、その実績作りの貴重な時間を奪うことである、ということです。小学生からの長い学生生活の頂点で、もっとも余裕があるこの時期に、仕上げの「行動実績」つくりをさせずに就職活動をさせるということは、就職できない学生を生産することになっていませんか?

 

12月から始めないと学生が企業理解不足でミスマッチが発生する?仮にどんなに時間をかけても、学生が企業や社会を完全に理解して就職できるはずがありません。ミスマッチを無くすなどとは幻想で、ミスマッチがあるからこそ若者は社会で育つのです。夏休みからでは卒論に間に合わない?理系の研究活動などは、一番立派な学生の「行動実績」です。その実績をうまくPRできないなら、それを引き出すことこそが採用担当者の仕事ですし、推薦制度とはその補完のために始まったものでしょう。

 

学生に1年以上の長期の就職活動を求める企業群には言いたいです。それならば、学生の勉強ではなく、就職活動を評価すべきです。一番、力を入れたことは何ですか?という質問に「就職活動です。」と答える学生をちゃんと評価して下さい。

大学生の正しい就職活動とは「行動実績」つくりのことです。今の就職活動と呼ばれるものは本当に就職活動なのか?それとも就職活動の勉強をしているのか?私には「就職騒動」に見えるこの頃です。