第86号:「恥の壁」

この時期は大学や学生からの就職相談も模擬面接の実施やエントリーシート(ES)の添削等のより実践的なものが多くなってきていますが、なかなかそこまでできない方も居られます。就活のペースは人ぞれぞれですが、そんな出足が遅い方を見ていて気づいたのは、実践でやってみる試みが少ない点です。その原因は「バカの壁」ならぬ「恥の壁」のようです。

メディア報道によると今年の就職シーズンは売り手市場だそうです。バブル期ほどではないにしても採用担当者の意欲が高まっているのは確かで、そのせいかどうかわかりませんが、学生の動きは昨シーズンよりも危機感が低いように見えます。実際は、動きの早い学生、マイペースの学生、のんびりした学生等、就職活動の進め方が多様化しているせいかもしれません。いずれの学生にしても就職の準備を進めておりますが、その進め方にもじれったいものを感じることがあります。

模擬面接や自己PRは実体験学習に勝るものはないのですが、模擬面接でも「まだ準備ができていないので・・・」と遠慮されたり、ESについても書き方についての個別の質問は多いのですが、いざ自分で書いたものを持ってくることがなかなかできない方が居られます。おそらく、「こんなレベルではまだまた恥ずかしくて・・・」という心理なのでしょう。それは日本人独特の美しい感覚だと思います。「恥」は日本の文化であり、その根底には「向上心」がありますから。

しかし、今の若者の就職活動の「恥の壁」は、そういった向上心というより、「失敗したくない」「失敗が怖い」「失敗してはいけない」という気持ちの方が大きいような気がします。その気持ちも分かりますが、時期が秋ならともかく、今は実践を繰り返しながら学習していく時期なので、この「恥の壁」を如何に乗り越えるかが大事だと思います。

今の時代は少子化のせいか、なかなか失敗ができない(浪人したくても現役で大学に入れちゃう)時代ですから、チャレンジ精神が育ちにくいです。是非、頑張って積極的に失敗し、そこから学んで欲しいと思います。その方が学習効果も高く、しかも速いですから。

失敗を一度もしない人よりも、失敗をしても立ち直れる人の方が強いと思いますし、企業も求めていると思います。「あなたが経験した最大の挫折や試練はなんですか?それをどうやって乗り越えましたか?」多くの企業が面接で問いかけていますよね。

 

 

第85号:求める人材像と採用選考基準は違う

企業セミナーで学生から良く出る質問に「求める人材像」というのがあります。企業の方から積極的に伝えていることもありますが、これと採用面接で使われる「選考基準」は似て非なるものだと思います。

意外に思われるかもしれませんが、「求める人材像」はその企業での最大公約数的なものであって漠然となるのは当たり前です。だからどこの企業の「求める人材像」も「前例に挑戦する人」とか「問題解決力のある人」とかの似たようなものになるのも当然でしょう。

一方、「選考基準」の方は応募者の公平性のために社外秘になっているのが普通です。これは「求める人材像」を部署別に広く展開して求める人材像の要件を想定し、その人材であることを判断するための質問に落とし込みます。そして、更にその質問に対して理想的な答えを想定します(実はここまでやる企業はわりと少ない)。

しかし、その想定された答えを答えなくても不採用になることはありません。企業の求めているのは唯一無二の「解答」ではなく多種多様の「回答」だからです。実際、面接では想定外の回答をされることの方がはるかに多く、良くも悪くも「理想とする人材像」とはズレているのでそこをどう判断するかが採用担当者の最大の悩みであり、腕の見せ所でもあります。

経済産業省で「社会人基礎力に関する研究会」がこのテーマを調査しており2月の中間報告で、「企業の採用選考基準が明確でない」という点が指摘されました。就職のミスマッチがおきているのは企業が伝えている「求める人材像」と「採用選考基準」にズレがあるからという論拠ですが、私はこの視点には必ずしも同意できません。それは採用活動(就職活動)を大学受験や資格試験と同一視するものであり、面接において「回答」を求めるのではなく「解答」を求めさせるものになるからです。それは初期選考の段階では有効でしょう。しかし、最終的に企業の仲間として受け入れるにはアナログ的な「解答」だけでは割り切れない応募者と企業の価値観のマッチングがものをいいます。

ということで、企業セミナーで「御社の求める人材像とは何ですか?」という質問は上記の通りあまり意味がありません。それどころか、「ああ、この学生さんは解答を求めようとしているね。きっと面接ではそれに合わせた志望動機や行動実績を用意してくるだろうなあ。」という印象を採用担当者に与えます。

学生が面接を受ける際、企業の求める人材像や選考基準にあまり気を取られる必要はないと思います。それよりも、やはりその企業を研究してみたうえで自分のどの部分をその企業に売り込んだらよいだろう?と考えてみる方が良いと思います。それは「求める人材像」に合わせるという解答合わせではなく、その企業への「売り込む人材像」となり、「求める人材像」とは似て非なるものになるでしょう。