第167号:政府の「若年雇用対策プロジェクトチーム」

就職支援関係者には周知の通り、若年者の雇用対策を検討する政府のプロジェクトチームが麻生総理の肝煎りで7月末に緊急に立ち上げられ、その骨子案(若年層に対する重点雇用対策)が8月13日に発表になりました。企業の採用活動が2011年卒業者向けに移行しつつあるなかで、どこまで実行性があるかはわかりませんが、この対策のスピード感は好ましいです。採用担当者の視点からこれらの対策について見てみましょう

 

■若年者雇用対策の骨子

・専門相談員による継続的な就職支援

・省庁横断による就職支援専門組織「新卒者緊急支援チーム」の設置

・官民連携の就職支援組織「若者雇用推進会議(仮称)」の設置

・医療、介護、保育など成長分野への若年雇用促進

・企業側に通年採用と就職採用活動の早期化見直しを呼びかけ

 

これらの対策を俯瞰してすぐに気づくのは、新卒採用とフリーター&ニートの対策の両方が盛り込まれている点です。まさか2010年卒業生が内定できずフリーター&ニートになった場合まで想定しているわけではないでしょうが、この二つの分野は相当に対策が異なると思われますので、しっかり区別することが大事ではないかと思います。特に今、“緊急”対策と謳うならば、新卒採用にもっと集中すべきだと思います。例えば、フリーター&ニートの方々には本人に対するカウンセリングが重要ですが、新卒採用の場合は学生よりも企業採用担当者へのアプローチ(求人開拓)をより重視すべきだと思いますし、フリーター&ニートになった場合のデメリットの知識を正しく教えるような指導の方が効果的だと思います。

また2010年卒業生にとって、将来の成長分野における(未来の)雇用創出では間に合いません。勿論、それは進めるべきことですが、今必要なのは既にそこにある雇用とのマッチング支援です。具体的には、2010年新卒を対象に採用選考活動を行う企業に対して補助金を支給することです。例えば、全国の中小企業を対象に、首都圏での就職セミナー会場を斡旋したり、その広告宣伝費・交通費(採用担当者の都心への出張)を支給したり、少しでも採用担当者のコストを軽減させることです。大学側もこうしたセミナーに会場を提供する等、協力できることはあるでしょう。

 

この骨子案は、かなり具体的なところまでよく考えられていると思いますが、就職支援側の視点だけではなく、採用担当者側からの視点ももう少し加えて欲しいと思いました。今月末にはこの骨子案が取組開始になるそうですが、期待をもって見ていきたいと思います。

 

▼参考URL:

「若年雇用対策プロジェクトチーム」について(内閣府)

http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0730jakunenkoyou.html

「若年層に対する重点雇用対策(骨子案)」(内閣府)2009年8月13日

http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0302shiryou2.pdf

 

第166号:大学生研究フォーラム2009から

去る7月25~26日に、京都大学高等教育研究開発推進センターと電通育英会の共催で『大学生研究フォーラム2009』というセミナーが開催されました。私も大学で非常勤講師をする身であり、また企業採用の視点でも興味があって参加して参りました。

 

フォーラムの参加者は、キャリア教育やFDに関わる大学教員、教育センターやキャリアセンターの大学職員、そしてこの分野の研究者と企業の人材開発系の方々、在野の実務家(NPOが多い)が主でした。

今回のテーマのひとつは、「大学生の何が育っていて、何が育っていないのか?」というもので、大学のキャリア教育で学生は何を学び、そしてそれが社会に役立つのか?ということが、研究者の報告とともに各大学の事例やパネルディスカッションで討議されました。

 

議論は「学力志向」と「対人志向」についてが中心で、労働政策研究・研修機構の研究員の方の報告では、この二つの志向性の高い学生は、就職活動において第一希望の企業に決定する可能性が高いということでした。聴いていて、なるほどと思う点もあり、当たり前だなと思う点もありましたが、こうした研究は大学生の学びがどのように社会で活きるか、就職活動につながるのか、ということにもつながり重要なものだと思いました。採用担当者の流行言葉で言えば、「地頭」と「コミュニケーション力」ですね。

 

私が個人的に非常に感銘を受けたのは、弘前大学の先生のご報告です。ここで詳細はご紹介できませんが、要するに予習・復習をしっかりさせて(予習しないと授業に出席させない、図書館で文献を見るのを必須にする)、学問への関心と意欲を自然と高めるということです。授業重視で教育の本筋をしっかり極めていると思いました。

この授業を受けた学生自身からもここで何を学んだかという報告がありましたが、この回答を聴いていて、思わず内定を出したくなりました。知識が問題ではありません。学習の重要さと意志決定がしっかりできているのです。これこそが一番の就職活動ではないでしょうか。

 

さて、今回のフォーラムで残念に感じることがありました。それは、この会場に企業採用担当者が殆ど居ないことです。「大学生の何が育っていて、何が育っていないのか?」を考えるのなら、それを一番良く見ている採用担当者を引っ張り出してくるべきでしょう。企業側も大学の授業に対してもっと関心を持つべきだと思います。これが日本のキャリア教育の一番の問題なのかもしれませんね。

 

▼参考URL:

「大学生研究フォーラム2009」

https://www.dentsu-ikueikai.or.jp/forum/