第320号:これからの採用活動で起きること

期末試験のシーズンになりましたが、相変わらず学生は企業インターンシップに呼び出されています。以前であれば、試験期間は企業セミナーを開催してもどうせ学生が集まらないという理由で、企業にも自粛ムードがあったものですが、今期は前倒しになって採用担当者もなりふり構ってはいられないという感じです。こうした混乱状態は、今の世界情勢と重なって見える気がしませんか?

 

「米国は、世界の警察官ではない」昨年9月の米国オバマ大統領の発言です。それは世界における米国の存在感の変化であり、絶対的な強権がなくなるということです。これからは米国・ロシア・中国の3リーグ体制になるなどの憶測もありますが、それもプーチン大統領の体制、中国の経済成長率の低下など、余談を許しません。

 

私には、この米国の現状が経団連の状況と重なって見えました。これまで大きな影響力をもって倫理憲章や採用指針を打ち出してきた経団連が、もう本気でそれを遵守する気を失ったようにみえます。昨年の企業の採用活動を見ていて、もう少し経団連の影響力はあるのではないかと思っていたのですが、経団連に加盟している企業群がここまで権威を無視するとは思いませんでした。もっとも経団連幹部企業自体がフライングをしているのですから、何をか言わんや、です。

 

ではこれからどうなるのでしょう?これも世界情勢と似たような動きになってくるように見えます。いま企業採用活動のトレンドは「ダイレクト・リクルーティング」もしくは「ターゲット・リクルーティング」です。マスメディア以外のチャネルから小規模に学生を囲い込み、インターンシップ等に動員する手法です。この手法は大規模で目立つような動きではなく、小規模なゲリラ戦、いやこの表現はベトナム戦争ですから、局地的なテロ活動ということになるのでしょう。(物騒な例えで恐縮です。)

 

ダイレクト・リクルーティングは小回りがきいて狙った学生にアプローチできますし、学生側から見ても大集団で十把一絡げに扱われませんので自ずと企業への好感度も上がります。この手法は他企業との差別化のために、独特な採用手法(以前ご紹介したような「顔採用」等々)を行う傾向にあり、そのバリエーションたるや多種多様で感心します。こうした仕事は比較的規模が小さい採用コンサルティング企業などでも請け負えますので、新興ベンチャー企業が台頭してきて成果を出しています。

 

しかし、この傾向が続くとまた新たな事態が起きてくると思います。それは経済学でいう「合成の誤謬」です。これはミクロで見る(少数が行っている)と成功する事例が、マクロで行われる(多数が行うようになる)と失敗になるという事象です。例えば、授業期間中にインターンシップを行う企業が少数ならば目立ちませんし効果もあり教員も多目に見ますが、この調子で増え続ける学生は何処に行っていいのか選べなくなりますし、ゼミや授業に学生が集まらず崩壊します。

 

世界情勢や難民問題を見ていると、何らかの国際秩序がまた求められると思うのですが、果たして今後そうした権威は登場するのでしょうか。それともこれからの世界は混乱・混沌が当たり前になるのでしょうか。とても悩ましい問題ですね。

第319号:インターンシップで教えてほしいこと

年が明け、インターンシップを理由に3年生の授業欠席が増えてきています。それも一気に2人、3人と抜けるようになってきたのでワークショップ形式の授業は成立しませんし、ちゃんと出てきている学生の足を引っ張っる支障が出てきています。嘆いてももはやどうにもなりませんが、秋学期の仕上げの時期に呼び出すなら、企業の方がには学生を甘やかさずに、しっかりビジネスマインドを教えて欲しいものです。

 

企業の採用活動はれっきとした営利活動であって、若者のための慈善事業ではありません。ところが、採用担当者にはこれが意外と盲点になっているのではないかと思います。学生は社会のことを知らなくて当然と考えられ、新入社員研修では、「働くこととは何か」というプログラムまで用意されています。それは、一面では世界に誇る日本文化なのかもしれませんが、あまりに学生をお客様(子供)扱いするのは見直されるべきではないかと思います。用意されすぎた現代社会の中で、学生の成熟化は遅れ、いつまでたっても夢を追いかける芸能人研修生になっているようです。

 

では企業が学生に教えて欲しいものとは何でしょうか?時間、法律、常識を守るというのは大学で行われているインターンシップ事前研修でも教えられるでしょうが、大学ではビジネスについてのセンスはなかなか教えられないと思います。その代表的なものをあげれば、「主体性」の考え方です。求める人材像としてどこの企業でもあげるものですが、それだけに盲点になりやすいのです。

 

例えば「報連相」というのはTVCMにもなり、今や多くの学生が知っている言葉になりましたが、この報告する際に大事なことは“主体的な”報告であることです。相手に尋ねられて答えるというのは報告ではなく「回答」に過ぎません。報告とは本来、ビジネスの相手(上司・同僚)に対して言われなくても状況を伝えることです。そうすることによって組織は様々なビジネス機会をつかめたり、危機を逃れたりできるのです。

 

ところが大学のグループワークで学生が望む「自主的な研究」をさせてみると、グループの現状を自分から伝えに来る学生はまずいません。これは以前述べた卒論の研究でも同じで、学生から定期的に報告に来て始めて教員は指導できるのとも同じです。会議(グループ・ディスカッション)でも同様です。聞かれた時に答えるのではなく、言うべき事を言うべき時に自ら話すのが主体性です。

 

こうしたビジネスマインドをしっかり企業の方が教えてくれるなら、授業を欠席してインターンシップに参加する意義もあるでしょう。しかし、インターンシップに行った学生に聞いてみると、まったくこうしたことは言われなかったり、ただ社内見学して簡単な質疑応答や学生同士のグループ・ディスカッションで終わったり、というものもあります。

 

まあ、実際は企業の社会人でもこれができていない人や組織は多いものですが、せっかく授業を欠席して迎えた学生にはしっかり企業らしい教育をして欲しいものです。