第175号:「変」から「新」になったのか?

今年の漢字は「新」になりました。確かに政権や国家元首が「変」を経て「新」になりましたが、採用担当者の動向を見ていると「新」というよりは「戻」という気がします。数年前のITバブル後の不況時と同じかそれ以上の厳選採用・コストダウン採用になってきています。

 

今春の採用活動はかつてない厳しさでしたが、昨年の今頃はまだ採用担当者に予算が残っていたので採用広報活動(母集団形成活動)は比較的積極的に行われておりました。しかし、今年は当初から予算が無いことと、絞ったとはいえ今春のも無理して採用したせいか、採用担当者の意欲があまり感じられません。私も今春がドン底で、来春は多少回復するのではないかと見ていたのですが、どうも思った以上に経済状況の回復は遅くなりそうです。経済でも二番底があるかないか危ぶまれていますが、採用市場もそんな気配です。

そんな厳しい環境の中で採用担当者の動きは変わり、大学セミナーを中心にコストのかからない広報活動を展開するようになってきています。私がお手伝いしている大学内セミナー(大学内企業合同説明会)もかなり早く定員が一杯になり、追加の参加依頼をお断りしているような状況です。逆に、外部での企業合同説明会は参加企業が減少して規模が縮小しています。企業が大学に戻ってきたのですね。

 

しかしながら、大学回帰の中での企業の新しい動きは「厳選採用」の方針のため、全ての大学に回らずターゲットとする大学のみを訪問することです。採用担当者としてはあまり明確にしたくない話題なのですが、明らかにこの動きは存在します。今春の採用でも、エントリーシートやセミナーの受付において「女子大学」「一般教養系」の学生にはDMが届かないということもありました。

この動きはけしからんと思われるかもしれませんが、もう少し時代を遡って思い出してみると、25年ほど前には「指定校制度」というものが堂々と存在していました。私自身も経験があるのですが、有名企業の説明会に(有名大学しか告知が来ないのでそれを探って)直接訪問しても、「貴方の大学は指定校ではないので受付できません。」と言われてスゴスゴ戻ったこともありました。(当時は、「そこを何とか入れて貰えませんが?」と粘ると入れてくれる企業も結構ありました。人間味がありましたね。)この不況が続くと、もしかするとそこまで採用担当者も戻るかもしれません。今期の採用担当者の最大の課題は、急増した応募者に如何に低コストで対応するか、なのですから。

 

失われた良さを取り戻すのは良いことだと思います。日本社会は全体にメタボ状態だと思いますので、今の不況もその点ではダイエット中という試練なのかもしれません。しかし、単純に昔に戻るだけでは進歩がありません。ついでに若者のハングリー精神や自立意識も戻って欲しいものです。いつの時代も若者は社会問題に対して無責任に一石を投じる権利があると思いますし、そうした中から新しい社会が形成されると信じたいものです。(最近の学生さんは反骨精神より厭世観の方が強そうで心配です。)

 

そうそう、私が知る限りの採用担当者全員が口を揃えて言っています。「採用活動開始時期を元に戻したい。」と。これは大学就職課の皆さんも同じでしょうね。誰もが戻したいと思っているのにどうにもならないのが今の大問題なのでしょう。来年こそはこの大問題に新たな動きが見られることを祈っております。どうぞ良い年をお迎え下さい。

第174号:未内定4年生の「自己都合的な諦め」

3年生の就職活動にエンジンがかかってきたなかで、4年生の未内定者の課題は悩ましいですね。私も非常勤講師を行っている学生の個別相談にのっておりますが、何人かの学生と話していて気づいた共通点がありました。とても「自己都合的な諦め」が多いのです。この点はこれから就職活動を始める3年生にも見られると思いますので、お伝えしておきたいと思います。

 

相談をしていて意外と多かったその「自己都合的な諦め」とは、企業の採用選考中で結果が出る前に自分から選考辞退をしてしまう学生です。しかもこうした学生の殆どが、全く選考を通らないレベルではなく、応募先さえ間違わなければ内定の取れそうな方々です。不思議に思って理由を尋ねてみると、以下のような答えが買ってきます。

「面接で採用担当者の方の反応(採用意欲)が感じられなかった。」

「一緒に受験した学生からその企業の良くない評判を聞いた。」

「一緒にグループ面接をした学生が有名校ばかりで自分は受からないと思った。」

 

情報に敏感になる学生の気持ちもわかりますがあまりに主観的な判断で、その情報をちゃんと判断する知識や技術が無いのだなと感じます。上記の例でも、採用担当者にはいろいろな人が居りますし、普段は元気な人でも1日30人も面接をした最後のコマでは流石に疲れも出るでしょう。(しかも1日中、似た話を聴かされているのです。)学生のクチコミ情報も良い評判より悪い評判の方がすぐに広まりますし、そもそも学生が何処まで正しく情報を理解しているのかというのもあります。同じグループの学生が有名校ばかりなら、逆に自分に自信を持っても良いはずです。(学校名で落としているなら最初からエントリーシートで不合格になっていることでしょう。)

 

こうした行動の理由を学生に一つ一つ確認しながら面談していると、その行動の下にある心理が見えてきます。その大きなものは、面倒な可能性の低いことは早めに避けたい、この先の選考で不合格の結果を貰うのが嫌、などなのでしょう。採用選考は決して人格評価ではありませんが、他者との比較評価に慣れていないオンリーワン世代の若者にとって「不合格」とは人格否定と同じに感じられるのかもしれません。しかもこの傾向は、そこそこ能力があるけれどプライドも高い学生に見られますから。

 

こうした理由からか、せっかく可能性のあるカードを自分から捨ててしまっている学生が多いように感じます。現在の経済環境の厳しさを考えたら、人気企業ランキング上位の企業ばかり応募するのも言語道断ですが、可能性のありそうな企業なら選考途中で辞退せず結果が出るまで頑張って欲しいと思います。諦めるのは結果出てからで良いのですから。