第181号:表と裏の採用活動

いよいよ採用選考の開戦前夜です。多くの学生はエントリーシートの提出が完了して面接の呼び出しを待っているところでしょう。しかし今シーズンの特長として、そうした表面上の動きの中で、倫理憲章を尊重と言いつつ秘かに選考が始めている企業が増加しているようです。なかなか悩ましい情況ですが、就職活動(採用活動)が集中化している以上、避けられないことなのかもしれません。

 

2年前の採用広報活動で流行ったものに、「選考をともなわないセミナー」というものがありました。これは今でも続けている企業は多いですが、情況が変わった今季は知名度が低くて学生集客に苦労している企業だけに戻ったようです。有名企業が「学校名不問」で誰でも自由に企業セミナーを受けられるというのは公平なやり方ですが、その後の採用選考のプロセスをしっかり考えていないと現実的ではありません。どこの企業も面接者の数が限られていますので、採用選考のキャパシティには上限があります。何らかの形で受験者数をコントロールしなければなりません。

面接者を何人手配するかという採用担当者の仕事はなかなか大変です。面接者を何人用意できるから事前選考(書類審査・エントリーシート選考・グループワーク等)で何人まで絞り込もう、と考える企業もあれば、これだけの学生が集まったからこれだけの面接者を用意しよう、と考える企業もあります。面接者の数ではなく、採用選考会場のキャパシティ(面接ブースの数)が左右する時もあります。面接者が居て応募者も居るのに面接する場所がなくて近くの喫茶店で行ったという事態もありました。

 

いずれの方法をとるにしても、4月の面接集中化の現象には対応することは大変困難で、フライングの「青田買い」を秘かに進めることによって少しでも集中化の不可を避けようとするのですね。優秀な学生を先に抑えておきたいという方が本音でしょうが、こうした採用選考工数の問題も背景にあります。

 

その結果、「選考をともなわないセミナー」に代わって急増しているのは、「プレミアム・セミナー」ですね。特定の大学に絞って、企業主催のキャンパス内で行われるものもありましたが、最近は大学がそれを規制するようになってきましたので、学生サークルを通じて行ったり、大学近くの会場に場所を移したりして行われています。学生の呼び込みが目立たぬように、リクルーターが直接電話で呼び出す等の手間暇をかけていますが、OBに会えると喜んで参加した学生がいきなり面接もどきの質問をされて、実は「選考をともなった不意打ちのプレミアム・セミナー」だったりします。

 

こうした企業の動きを見ていると、4月から一気に始まる採用選考はダミーで、裏で動いている「見えない採用活動」が本気のように見えてきます。20年以上前で就職協定があった時代にもこうした現象はありました。いわゆる「解禁日」の企業説明会に学生がやってきた時点で、既に裏で採用活動は終了しており、形だけのセミナーを開催している企業群ですね。それに参加した学生に感想からは、「淡々と企業説明をするだけで、採用担当者にやる気を感じなかった。」とよく聴きました。そりゃそうです。採用活動が終わっているんですものね。採用担当者もどちらが表か裏かわからなくなっているのかもしれません。さて、採用数がまだまだ少ない今季の開戦前夜、果たしてどんな状況になるのでしょうか?

第180号:模擬面接からみる学生の面接力レベル

中小企業の採用選考面接が増えてきたせいか、模擬面接の依頼が増えてきました。就職課のご依頼で行うものと、私の授業の受講者向けに行うものとがありますが、来訪する学生の模擬面接を見ていると面接力には何段階かのレベルがあります。大きく3段階に分けてみてみましょう。

 

1.未体験レベル

「とりあえず」模擬面接を体験してみたいという学生です。入室から面接まで一連の流れを知りたい、面接者がどんな質問をするのか知りたいというレベルです。面接における基本的な知識や体験をしたいという学生ですが、まだ模擬面接が可能な段階ではありません。

2.一方的発表(プレゼンテーション)レベル

体験談や自己PRを整理してある程度の発表ができるようになった学生です。面接者から投げられる質問を予め想定しておき、用意してきた話題を話せるようになってきます。しかし、面接者の質問に合わせて柔軟に対応できる段階ではないので、全ての質問に回答を用意しておこうとします。「(面接では)どう言えばよいですか?」と『正解』を求める傾向にありますが、やっと模擬面接を始められるレベルです。

3.双方向会話・質疑応答レベル

志望分野が絞られてきて志望動機が深まり、面接者の質問に対して自分の回答を柔軟に対応させて『会話』ができる学生です。自己PRにも個性が出てきて、本番と同じ模擬面接で評価が可能なレベルです。

 

実際の面接ではさすがにレベル1の学生はあまり見かけませんが、レベル2の学生はかなり多いです。この段階の学生には少し突っ込んでみたり、角度を変えた質問をしたりするとすぐに戸惑ってしまうので、採用担当者としての判定は楽です。

こうした学生の面接力レベルは基本的な対人スキルの発達段階と同じですから、大学でのゼミやサークル活動、アルバイトでも習得することは可能です。問題はレベル3までに至るには相当の時間がかかるということで、勿論、個人差はありますが、私がこれまで模擬面接で見てきた経験では、特別な指導をしない限り、レベル1の学生がレベル3まで至るには数ヶ月かかります。

 

模擬面接を企画される就職課の皆様にお伝えしたいことは、こうした学生の対人スキルの発達段階を見極めた上で設定された方が良いということです。私は採用担当者の経験のあるキャリアカウンセラー仲間とチームを組んで大学へ模擬面接にお伺いすることがありますが、数年前と比べてやはり学生の対人スキルが低下していると感じます。以前なら少なくともレベル2の学生が中心で、なんとか模擬面接が成立したのですが、最近ではレベル1の学生が増えてプロの採用担当者を模擬面接に駆り出してお伺いしても本番レベルの面接に至らないことが増えました。レベル1とレベル2(の初期段階)学生に対しては、個別の模擬面接ではなくセミナー形式の公開模擬面接やワークショップで基礎知識の習得をいくつか踏ませた方が効果的だと思います。

 

ちなみに、エントリーシートと同じで、採用担当者は模擬面接で学生の『評価』はできますが、『指導』までできるとは限りません。誰でも料理の判定はできますが、作り方まで指導するのは別問題ですからね。