第218号:「stay hungry, stay foolish」

「ハングリーであれ、馬鹿であれ」。アップル創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が大学を卒業する若者たちに託した言葉であることはご説明するまでもないでしょう。この言葉が発せられたスタンフォード大学での「伝説のスピーチ」のビデオは、私も授業で何度となく使っており、多くの学生に感動と勇気を与えてきました。いま、就職活動をする学生達にも、採用活動をする企業人事の方々にも、改めて見て戴きたいと思います。型にはまった就職活動や採用活動から抜け出すために。

 

インターネットが一般的なものとなって約10年、世界中の情報が驚異的なスピードで、圧倒的なボリュームで、革命的な低コストで入手できるようになりました。しかし、今も昔も人間の情報処理能力はそれほど変わりません。ということは、現代の高速莫大格安情報社会に、その付き合い方を注意せず入り込むと、人間は考える力を奪われ、無数の情報に振り回され、その結果、無思考に与えられた作業を繰り返すことになります。

 

翻って、この10年の就職活動・採用活動は、ひたすら情報の扱い方に学生も企業も追われ続けてきたのではないでしょうか。その結果、多くの学生が個性を失い、多くの企業が画一的な採用活動を行うようになりました。

「Web登録⇒エントリーシート(ES)⇒セミナー⇒筆記試験(Webテスト)⇒面接」

津波のように大量の学生が応募し、洪水のようなESを企業が選考しています。

そして、いつの間にか学生は企業が用意しないと就職活動ができなくなり、いつの間にか企業は個性的な選考方法を考える力を失ってきました。

 

しかし今シーズンは、そうした惰性のような就職活動・採用活動を見直す機会になるのではないかと思います。企業が12月までセミナーを開かないから就職活動ができないなんてことはありません。そもそも就職活動は、企業が用意したラインに乗ることだけではなく、社会を理解する、仕事を理解するためにはいくらでも方法はあります。バイトやインターンシップが無くたって、敬語やビジネスマナーやロジカルシンキングを身に付けることはできます。

 

個人情報保護でOB・OG訪問がやりにくいという人も居ますが、無理も限界も人間が頭の中で作り出しているものです。頭はダメな理由を考えるのではなく、できる理由を考えるために使うべきです。

それでも良いアイデアが出なかったら?そんな時の呪文が、「stay hungry, stay foolish」です。

 

この言葉は、へこたれずに無駄を考えずにやってみるということで、就職活動をする学生にも個性的な学生を採用したい企業にも良いメッセージです。前回ご紹介したネスレ日本の採用担当者の方は、「正直この新しい企画がどうなるかは未知数です。」とおっしゃっていました。でも、大事なことはチャレンジしてみることです。

「stay hungry, stay foolish」ジョブズ氏のメッセージを今こそ大事にしたいものですね。

 

第217号:ネスレ日本の「シーズンレス採用」

10月初旬、都心では内定式に向かうリクルートスーツの学生集団を多く見かけました。キャスターバッグを引っ張りながらにこやかに歓談しているので就職活動を終えた4年生達とすぐにわかります。一方で例年とは異なり、緊張した顔つきのリクルートスーツの3年生はあまり見あたりません。企業の採用活動自粛の効果が現れているのでしょう。しかし12月になれば、一気に企業も3年生も動きだすことでしょう。今は嵐の前の静けさというところです。

そんな中、この9月からネスレ日本が新たに始めた採用活動は注目に値すると思います。就職時期が早いとか遅いとか侃々諤々の議論をしている日本企業とは対照的な「シーズンレス採用」とでもいうべき興味深い試みです。この採用方針をご覧になった方からは「やっぱり青田買い(早期化)だろう」と伺ったこともありますが、早期化とシーズンレスは全く異なります。

 

ネスレ日本の新しい採用活動は「ネスレパスコース」というもので、新聞報道もされたのでご存知の方も多いと思いますが、就職活動の時期と採用選考の形式を学生が自由に選べるという点が特長です。(詳しくは下記の参考URLをご参照下さい。)

現在の日本の新卒採用は、同時期に集中して膨大に行われるので、企業にも学生にも負担が大きく、しかも同手法(エントリーシート、適性検査、面接等)で行われますので、評価出来る応募者の資質も実はかなり偏ったものになっている可能性があります。また、こうした採用選考手法は相当に学生や業者に研究されていますので、対策マニュアルが完備され、結果的にこれが学生を画一化してしまっている危惧すらあります。採用活動の大学受験化ですね。

 

さてそれはさておき、私が特に興味深いと思ったのは更に2点にあります。まずはこの採用選考で求められているものは、結局、有意義な大学生活とアカデミックスキルだということです。与えられた課題(チャレンジ経験、異文化経験等)は、どれもただ何となくアルバイトやサークル活動をしていただけでは通るものではないと感じます。つまり大学生活において、どれだけ自分の世界を広げたか、どれだけ大きな経験をしたか、そしてそれをしっかりと表現できるのか、ということが問われているようです。

 

次に、この企画が日本法人社長(CEO)の個人的な想いから発せられている点です。企業の採用活動のサイトで社長が求める人材を語っているのは珍しくありませんが、社長がここまで採用選考の手法や想いを現しているものはあまり見かけません。実は、私も当初はこの採用方針は海外本社からの指示に従って、日本法人がグローバルスタンダードに合わせているものだと思いました。しかし、直接同社の方に話を伺う機会があり、日本の採用活動が一斉に行われていること、面接という手法だけで人物がわかるのか?という社長のシンプルな疑問から日本法人で考え出された企画だと伺いました。

 

この新しい採用活動は、かなり手間暇のかかるものだと思います。しかし、良い採用活動は手間暇をかけなくてはいけないものです。それは単純で膨大な予算をかけた横並び型を無思考に行うというものではありません。この新方式が、どのように学生に受けとめられるか注視していきたいと思います。

 

▼参考URL:ネスレ日本新卒採用「ネスレパスコース」

http://www.nestle.co.jp/Recruit/newgraduates/Pages/newgraduates.aspx