第25号:若者育成の産学連携

先日、お世話になった大学教授のご依頼で大学を訪問し、コミュニケーション・スキル(グループ・ディスカッションとプレゼンテーション)について3回ほど連続講義を行ってきました。これは就職部主催の職業ガイダンスではなく、学部1年生に対しての正規授業の一環で、受身であった高校生時代の意識を変革して能動的なコミュニケーションを指導するためのものだそうです。企業の新人研修で使用していたカリキュラムを応用して参加型のものにしましたので、関心を持って戴けたようです。

今回の講義で最も印象的だったのは、多くの学生は相手と目を合わせて(アイ・コンタクトして)話をすることに慣れておらず、非常に苦労していた点です。そういった学生と話をすると、内面には良いものを持ちながらも、それを伝える意思の強さや意欲が伝わりにくく、印象面でマイナス評価になりがちです。特に採用担当者は面接だけではなく企業セミナー等で、当たり前のようにコミュニケーションをとっていますので、対人スキルには敏感ですから。

私は企業の能力開発担当として営業マンやエンジニア向けのコミュニケーション・スキルのトレーニングを行っておりましたが、これは誰でも基礎的な訓練をすればある程度のレベルに達するものです。本来、大学のゼミ等では丁々発止の討論で鍛えられたものですが、学生さんに尋ねてみると、最近は当番の学生だけがトツトツと話すだけで質疑応答は減り、先生が活性化に苦労されているとのことでした。こんな時、企業における人材育成プログラムは有効だと思います。そろそろ3年生の就職ガイダンスを始められる頃ではないかと思いますが、たまには採用担当者の業界説明だけではなく、能力開発担当者を招待してコミュニケーション・スキルの伝授を依頼されては如何でしょう?すっかり採用選考手法に定着した「グループ・ディスカッション」と「プレゼンテーション面接」は、今後もますます重視されてくると思いますし、これは就職後のビジネス・シーンにおいても必須のスキルです。

去る6月10日、経済産業省・文部科学省・厚生労働省による「若者自立・挑戦戦略会議」が開催され、「若者の働く意欲を喚起しつつ、全てのやる気のある若年者の職業的自立を促進する」ことを目標にした政策議論がなされました。これからの人材育成については産学官で底上げを行わなければ、ますます若者の能力開発を行う社会インフラが弱くなり、その結果、採用活動を行う私たちも有望な人材に出会う機会を失ってしまうでしょう。こういった産学連携の人材育成の機会を増やして、企業の採用担当者が有望な若者に出会える機会が増えることを祈ります。

参考URL:

▼若者自立・挑戦戦略会議の資料http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0004140/

 

第24号:学生と社会人の違い

内定者の数がまとまり、ある程度採用活動の目処が見えてくると、ようやく採用担当者も一息つくことができます。と、思えたのは、ついこの前までのこと。最近は内定期間の長期化により、内定者フォローという新たな仕事が増えてきて、採用担当者は息をつく間もありません。

かつての内定者フォローというと懇親会や詳細な企業説明を行って、入社への不安を取り除くものが中心でした。最近はそれに加えて、少しでも社会人の基礎知識やITスキルを身に付けさせようと言うものが増えています。その多くは、これまで入社後の新人研修等で行っていたものを前倒ししていると言っても良いでしょう。

「学生と社会人の違い」というテーマは企業の新入社員研修では定番のプログラムでした。身だしなみや敬語の正しい使い方、名刺の渡し方等のビジネス・マナーと、お金を払って勉強する受動的な立場からお金を貰って仕事をする能動的に立場へのプロ意識の気づきとは、行動面と意識面との改革を求めるものであり、初々しい新入社員を指導するのはとても楽しいものでした。

しかし、改めてよく考えてみると、この学生と社会人を「就職している人」「就職していない人」という概念で見るのはもう時代にそぐわないように思えます。企業はこれまで社会人に必要な知識や経験は入社してからゼロから教えるという発想で、極端に言えば学生は元気で素直な白紙の状態で入ってくることを期待しておりました。その背景には終身雇用という長期に渡って一生面倒をみるような時代背景がありました。

しかし、個人のキャリアが重視されてくる時代になり、社員の自立と自律が求められてきた現在、社会人の定義は「自分を客観的にみつめられる人」「自分の自己認識と外部評価の差が存在していることが認識できている人」というように考えた方が良いのではないかと思います。これがわかっていれば、就職面接においても、自分を一生懸命アピールしても、それが面接者に伝わる時には誤差が生じることがある、という点も認識できます。最近のメディアでは「自分戦略」という点を強調するものがあります。これは耳障りは良いのですが、他人から見た視点ということを置き去りにしがちなので要注意です。

さて、この新しい定義で見渡すと、学生の中にも立派な社会人は大勢おります。こういった学生さんが増えてくれば就職面接も、よりレベルの高いものになるでしょう。勿論、この新しい定義で会社を見渡すと、社会人とはいえない学生気分(?)の労働者も確かに多いですね・・・。