第347号:キャリア教育と大学メディア化

3月も残り少なくなり、大学内就職セミナーもひと休みで、卒業式と入学式のシーズンですね。私事ながら私も年初に修士論文を提出し、先日修了が認められて大学卒業式に学生として出席できることになりました。研究テーマは、大学と企業のミスマッチの検証とその対策です。大学の教育改革と企業の採用改革を同時に行う提言ですが、これは大学を「メディア化」することです。

 

大学メディア論は、東京大学の社会学者である吉見教授が提言するものです。私はこの論を読んだ時、これを大学キャリア教育として応用してみようと思いつき、キャリア教育の定義を「大学と社会をつなげるもの」と決めました。それは社会の出来事を大学の各学問の知見を使って解きほぐし、広く社会に伝える役割です。その代表的な手段がビデオ教材を使った授業で、この5年間で10本の業界・企業を扱ってきました。

 

ビデオ教材そのものは就職セミナーでも使えるものですが、授業として使う場合は産業理解だけではなく、ビデオ教材を正課授業との関わりを考えさせてディスカッションをしたり、レポートを書かせたりする点です。そうした過程を経て、学生として必須の「メモを取る」「不明な点を考え討議する」「思いついたことをプレゼンテーションやレポートにまとめる」「締め切りまでに完成させる」ということを指導してきました。

 

こうした効果は、大学内就職セミナーを見ていてハッキリわかりました。上記授業を受講していた学生は、採用担当者の話しが終わって質疑応答の時間になると、真っ先に手を上げて深い質問を投げかけていました。一方で講義型の受け身の授業ばかり受けてきたと思われる学生は、セミナー中もメモをとらず聴きっぱなしで、質疑応答でも無言であったりレベルの低い質問(採用選考や待遇面に関するもの等)しか思いつきません。

 

そして今年度は更に進め、チーム分けした学生達にビデオ教材のテーマ設定から企業選択・訪問・撮影交渉まで体験させてみたところ、見事に国際航空物流企業(ANA Cargo社)の了解を取り付けて最新作を仕上げることができました。最初は上手くいくか心配しましたが杞憂でした。大任を与えられた学生には自主性がうまれ、判断力も責任力もつきました。来年度は規模を広げて多くの学生にインターンシップとして経験させ、その成果物を他大学とも提供できれば大学メディア化は更に広がると思います。

 

これまで学生に会社案内やWebを作らせる企業インターンシップは定番プログラムとしてありましたが、企画から更にメディア化、授業化まで行うものはなかったのではないかと思います。もしこうした学生発の成果物が蓄積され、大学というメディアで授業や就職セミナーで共有できれば、春の大学内説明会の風景も変わってくるかもしれませんね。

 

▼参考URL:『大学とは何か 』吉見 俊哉 2011年(岩波新書)

https://www.amazon.co.jp/dp/400431318X/

▼参考URL:法政大学産学連携ビデオ教材新作発表会(3月29日)

http://www.hosei.ac.jp/NEWS/event/170309.html

第346号:採用担当者に勧めたいアクティブラーニング

3月に入り、各大学での企業説明会が一斉に始まりました。大教室を満員にする人気企業もあれば、小さなブースなのに誰も寄りつかない企業もあったり、採用担当者も悲喜こもごもです。私も学生気分に戻っていくつかの企業説明を聴講してみましたが、採用担当者のプレゼンテーションスキルにはかなりの差があることがわかります。学生とコンタクトする時間は短いからしっかり心を掴むプレゼンをしなければなりませんが、採用担当者は他社のプレゼンを聴く機会はなかなかないので、自分のプレゼン能力に気づけない方も多いようです。

 

大学内企業説明会はいろいろなパターンがありますが、30分程度の短いプレゼンテーションを数回繰り返すパターンが多いです。採用担当者にとっては、学生に深く理解して貰うよりも後日自社内セミナーや選考会に引き込むための学生の情報を得る方が目的のようですから。こうした企業の採用担当者のプレゼンで上手くないと思うのは以下のようなパターンです。

 

・一方的に話し続けている。(スキル不足)

大学の講義と同じで、一方的に話しを聴き続けるというのは非常に辛いことです。深い質疑応答までいかなくても良いので、会話の途中で相づちを求める簡単な問いかけをしたり、クイズのような簡単な質問を投げたりしてコミュニケーションを図る方が、学生とのコミュニケーションもとれて企業の印象が良くなります。大学授業で言えば、いま盛んに言われているアクティブラーニング型の進行ですね。

 

・自社に対する熱意を出せていない。(情熱不足)

就職して営業希望だったけれど何故か採用担当者に配属されてしまった新人型社会人に多いパターンです。自分自身がまだ十分に会社のことを理解していないのと、「自分はこんな仕事をするはずじゃなかった。」というわだかまりをもっていることが多いです。また、生真面目な若手社員は「この会社よりもっと良い会社があるはずだ。」という気持ちも抱えていたりします。そうした採用担当者は「良かったら聞いて下さい。」と言います。あまり熱意を前面に出されても引いてしまいますが、自社に対する誇りや自信を感じない採用担当者が出てくると学生は敏感に感じ取ります。

 

・自社の情報だけしか話せない。(情報不足)

質疑応答で学生から「御社の強みは?」「業界の方向性は?」などと自社の説明以上の幅広い質問を問われると、うまく答えられない採用担当者がいます。これは経験によるものなので、先輩社員がフォローすべき点なのですが。とりあえず母校に派遣されたリクルーター等は、焦ってしまいます。

 

採用プレゼンで怖いのは、学生は目の前の採用担当者がその企業のレベルと思い込みがちなことです。企業には多くの社員がいて、能力の高い人もそうでない人も居ますが、この時期のように多くの大学に社員を一斉に派遣しなければならない場合、必ずしもプレゼンの上手くない人もいるわけです。

逆に、学生の方が「採用担当者だけの話しを鵜呑みにしてはダメだな」「直接OB訪問して確かめてこよう」とか判断力を高めてカバーしてくれることを望みたいですが、あまりに多くの情報を目に前にするとどうしても第一印象だけで判断しがちですね。お互いが不幸なスレ違いにならないように祈りたいです。