第292号:アナウンサー内定取消と採用担当者の仕事

日本テレビのアナウンサー採用の内定取消が大きく報道されました。既にいろいろな視点が提供されていますが、私は採用担当者の仕事として甘い部分と同情する部分があります。

 

採用担当者の仕事として今回、一番気になるのは、採用選考段階でのチェックの甘さです。同社のコメントにある「アナウンサーには、極めて高度の清廉性が求められます。」というのならば、採用担当者は実務作業者として、以下の手順をしっかり踏まねばなりません。

 

1.採用募集広告の募集要項に記載すること

2.採用選考段階で(内定を出す前に)必ず質問して確認すること

3.採用内定通知の取消要項に文言として明示すること

 

現時点での報道では上記が何処まで徹底されていたか分かりませんが、「極めて高度の清廉性」を求めるならば、その認識が甘かったと言わざるを得ないと思います。しかも、同社は現役アナウンサーのゴシップ報道で少し前に非常に苦労した経験があるわけですから、採用活動が見直されていなかったのは人事部の脇が甘かったと感じますし、同社の主張する「申告の虚偽」は社会通念上、認めがたいでしょう。

 

一方、今回の事件で、私が最も同情したのは、現場採用担当者と経営者の認識と立場の違いです。報道によると、当初採用担当者は内定者の立場を守ることを伝えていたようですが、経営者側からは強硬に内定取消を命じられ、言動を急変させました。採用担当者が内定者と経営者の板挟みになって苦悩しただろうと察せられます。

採用担当者は内定者と直に話して労働法についての知識もそれなりに持っているはずで、内定取消がどれだけ今後の採用活動や社会インパクトがあることを知っているはずです。一方、経営者側では、営業活動については精通していても、企業コンプライアンス(法令遵守)については甘い方も居られます。もし以前のゴシップ事件に関わった経営者が居たのなら感情的に部下(人事部・採用担当者)に命令することは容易に想像できます。

私自身、内定取消の経験は不慮の事故による本人責任のケースしかありませんが、経営者から急な判断変更を指示されて対応に苦労したことは何度もあります。(今年は100人採れ!と言われて精力的に候補者を集めたら、やっぱり50人で良い!と言われたり・・・ etc.)

 

この問題に対処するには、アナウンサー採用は新卒採用ではなく、専門職として有期雇用契約にするか、タレント事務所を活用する派遣または業務委託にすべきだと思います。新卒採用という成果の十分に出せない新人と違って、タレント化したアナウンサーは即戦力に近いものを持っている方も居りますし、入社前に専門学校で十分なトレーニングもしているでしょう。そうした専門職を、低廉な賃金で採用しようとしたり、採用選考の完備を忘れたりしたことが、今回の事件を招いたと思います。

ともあれ、年明けの訴訟を注視していましょう。和解せず裁判で決着となると、久しぶりに大きな影響のある判例になりそうです。

 

第291号:冬休みインターンシップの選考過熱

大学祭シーズンも終盤になり、灯火親しむ勉強の秋となりましたが、一部の大学3年生は冬休みのインターンシップの選考に右往左往しています。倫理憲章を遵守する企業採用担当者がこの時期にできるのは採用活動に直結しないインターンシップ活動だけになりましたので、例年以上にインターンシップの選考に熱があがっているようです。

 

大学職員の方からは、今年は採用活動の後ろ倒しのせいで学生がのんびりしています、と伺うのですが、私の方は教え子からインターンシップ選考についての相談が飛躍的に増えています。企業のスタンスがまだら模様であるように、自由になると学生の動きにも個人差が出るのでしょう。

 

その相談内容(特に大企業の大手企業のインターンシップ選考)が、本番の採用選考とまるで同じなのです。エントリーシートでの書類選考⇒グループ・ディスカッション⇒個人面接、という初期選考の黄金トリオ(と名付けました)の組み合わせです。

 

しかしこうなると、「インターンシップは採用活動に直結させない」というのはどうしても有名無実化になります。本気でこれをやるならば、採用担当部署が学生との接触をしないとか、インターンシップ専用部署を作るとかの対策が必要ですが、流石にそこまで余裕のある企業はないでしょう。どうしてもインターンシップ選考情報、そしてインターンシップ成果の情報は人事部の中で共有され、来るべき採用選考時期の参考情報にされるでしょう。

 

倫理憲章遵守企業であっても、その情報はあまり厳密に規制しなくても良いのでは、と私は思っています。というのは、良い学生を見つけ出す企業のリサーチ活動は恒常的に行っていても、最終的な選考評価と入社意志の確認だけをしっかり守れば大きな問題はないと思うからです。インターンシップ選考を受かり、インターンシップでも良い成果を出したなら、本番の採用選考でシード選手として優先してあげても良いのでは、と思います。

 

こうしたところを許容する代わりに採用担当者に厳に守って欲しいと思うのは、あまりに本気のインターンシップ選考をしないということです。具体的には、授業のある日に選考日程がぶつかったら変更してくれる、または選考は土曜日だけにする等です。一時期、企業の「就職セミナー参加証明書」なるものが見られ、授業を欠席した学生が持参してきました。これでは大学生活を尊重するという採用活動後ろ倒しの意味がありません。逆に、大学から授業出席証明書を出したら、企業が日程を変更してくれるというのが筋ではないでしょうか。(私もすっかり大学教育側になってしまったようですね。)

 

企業には企業側の都合(予算、受け入れ態勢、他者との競合等々)があるのは、私も身をもって理解しておりますが、採用担当者ももう少し余裕をもって仕事をして欲しいなと思います。こうした手法しかできないのでは、企業の採用活動は進化しませんから。