第276号:採用担当者の機能と面接トレーニング

4月の選考解禁直前となり、採用担当者の方も選考準備に追われています。企業の方から面接のトレーニングの依頼を受けるのもこの時期です。採用担当者は人を見るプロですが、初めて面接を担当する時には誰でも緊張するものです。

 

学生と違って、面接を担当する採用担当者は「初めてなので緊張していますが、一所懸命に頑張りますので宜しくお願い致します。」と言うわけにもいきません。模擬面接を行ったり、本番の面接を見学したりして、経験値を上げていきます。そうした面接者の役割は、大きく以下の3点が挙げられます。

 

1.広報機能 ⇒ 応募学生に安心感を与え、話しやすくする

2.判定機能 ⇒ 面接から応募者の能力を測り、適性を見極める

3.説得機能 ⇒ 判定後、有望と思われる学生に自社をPRする

 

面接を行う採用担当者は、どんな応募者がやってこようとも、丁寧公平に対処しなければなりません。学生は面接者の印象を、その企業のイメージとしてそのまま捉える傾向にありますから。判定不合格と感じても、ここで不遜な対応をとったりすると、クレーマーになってしまうこともあります。

また、面接の質問によって、学生のクチコミが広がるようなことを意識することもあります。例えば、常に語学力を問う質問をすると、学生間には「あの企業は英語ができないとダメだよ」という認知が広がり、英語の強い学生が集まり、弱い学生が避ける、ということになります。

 

次に、前回お伝えした「会話力」から応募者の仕事能力を測り、どの部署で働けるか、将来どんな人材になりそうかを想像し、合否を判定します。つまり合否判定とは、採用担当者が応募者のキャリアプランをイメージできるかどうかです。学生が自分のやりたい仕事を熱心に説明しても、言葉通りに受け取るのではなく、採用担当者は何処に配属できてどんな成果を出しそうかを考えています。

 

そして、配属イメージが浮かび有望だと感じたら、「こんな仕事に関心ありますか?」とか「貴方はこんな仕事に向いてそうですね」と打診します。学生が素直にその仕事に好奇心を示せば良いのですが、そうでない場合は、その仕事の魅力を説明して説得します。この点、営業出身の採用担当者は上手です。(この手法は、集団面接ではやりにくいですが。)

 

こうしたプロセスを採用担当者も模擬面接で練習し、判定結果のバラツキを確認します。どんなにトレーニングを行っても、人の判定機能は厳密には一致しませんので、面接者の基準を完全に統一しようとするのではなく、面接者各自の判定のクセや考え方を話し合って理解するのです。その価値基準の交換によって、面接者達は質問内容や判定能力を向上させることができます。(質問内容を工夫して、面接者のバラツキをなくすコンピテンシー面接手法もありますが。)

 

別の言い方をすると、採用担当者は「求める人材像(選考基準)」にマッチした若者を求めるというよりは、「求める人材像」になりそうな若者を模索するのです。つまり、採用担当者の面接トレーニングとは、想像力のトレーニングと言えるかもしれませんね。

第275号:大学講義で鍛えられる会話力

採用面接でよくあることですが、丸暗記したことをそのまま話すのは御法度ですね。面接に慣れていない学生が練習のために行うなら問題はありませんが、早く「記憶再生モード」から「会話モード」に入って欲しいものです。採用担当者が丸暗記を嫌うのは、応募者の能力が測定できないからです。(逆に言えば、丸暗記の記憶再生を行う応募者はNGと判定できますが。)

 

「会話」からはいろいろな能力がわかります。知識や関心の広さ、機転や頭の回転の速さ、相手への気遣い等々。脳科学者の茂木健一郎氏によると、会話で使われている脳は、聞いている時と話している時では以下の通りに異なるそうです。

 

・聞いている時 ⇒ ウェルニッケ野の感覚性運動野(感覚系学習回路)

・話している時 ⇒ ブローカ野の運動生言語野(運動系学習回路)

 

この2つ回路は脳の中ではつながっていないため、相互に繰り返して使うことで「会話」ができているそうです。これでおわかりのとおり、採用担当者が丸暗記を嫌うのは、どちらか一方だけしか使えない人を避けたいからです。仕事というのは常にいろいろな業務がやってきて、優先順位を考えながら進める必要があります。「1つの事に夢中になると周りが見えない人」は困るのです。

 

翻ってみると、大学生は授業でこうした脳の使い方を鍛えられているでしょうか?教員が同じトーンで淡々と話していると、感覚系の学習回路しか鍛えられませんし、それ以前に活動停止してしまうかもしれません。脳は飽きっぽくて常に新鮮な刺激を求めているそうですから。

 

実は私の授業ではこうしたの脳の使い方を鍛えています。200人を相手にしている講義型の授業でも、数分に一回、問いかけを入れて受講生の運動系の学習回路を動かします。学生が応えられなくても問題ありません。大事なことは、ほんの一瞬でも脳の回路を切り替えさせることです。面白いもので、最初は何も答えられない受講生達が、何回かの授業を繰り返して行くうちに、だんだんと回答ができるようになってきます。

 

大学でキャリア教育を行うようになって数年が経ちましたが、私は採用&能力開発担当者時代に求めていたことを授業で学生に求めていることに気づきました。良い授業というものを考える時、自分自身の教員としての話し方を向上させるだけではなく、受講生の聴き方と話し方、つまり授業の受け方や会話力を鍛えるという視点がとても大事だと思っています。それは採用選考でも就職後でも活かせる脳の使い方を鍛えることですから。

 

以下、参考サイトURL:

▼「脳を活かす伝え方、聞き方」茂木健一郎(PHP新書)

http://www.amazon.co.jp//dp/456981669X/

▼参考URL:法政大学産学連携3D教育プロジェクトシンポジウム案内(私の授業についても話します。)

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2014/02/18/id3200