第195号:文科省の就業力育成支援事業が決まる

この春に公募された文科省の就業力育成支援事業の選定が決まり、選ばれた大学では実行に向かって動き出しました。当初予定されていた募集件数(130件)を大きく上回る180件の採択となったのは驚きましたが、多くの成果がでると良いですね。しかし、就業力(未だ文科省の定義はよくわかりませんが)というものは、大学の通常授業を通じても十分、身に付けられるものだと思います。

 

実は、私も都内の私立大学から採択されました。この就業力育成支援事業ではありませんが、この10月から半年間の就職ガイダンスです。いつものスポットでの依頼の講演やトレーニングではなく、シーズンを通じての全体カリキュラム作成は非常にやり甲斐があります。スポットの講義では不可能な、学生の個別フォローや、その大学に向けたオリジナル・プログラムを作ることができますし、本番の就職活動の状況を聴きながら、リアルタイムにプログラムを修正したり、学生のフォロー(進捗管理)も可能になります。元々、企業で新人研修プログラムをゼロから開発していたものですから、腕が鳴ります。

 

私は今回戴いた機会を、大学の授業に埋もれている「就業力」を学生に気づかせるようなものにしようと思っています。大学授業と企業の求める就業力をつなげるプログラムです。大学の授業が実は会社(仕事)でも役立つこと、企業の求める能力が実は大学でもトレーニング可能なことを、大学も企業も意外とこの点を見失っているように見えますから。

 

ところで、この案件のご依頼を頂戴したときに一番嬉しかったのは、私のもつプログラムを採択して戴いたのではなく、私個人の力量を評価してくれたこと、つまり人物が採択された点です。

 

これは企業の採用選考も同じです。採用担当者が最終的に評価するのは、大学名や専門知識や資格ではなく、その人物の将来性(ポテンシャル)です。大学名や専門知識や資格を問うのは、その下にある将来性を知るためです。応募者である学生も、自分の将来性や人物を評価してくれたと感じられたら本音で語ってくれますし、無礼な内定辞退などは(あまり)しなくなります。そして入社後は期待に応えようと、更に自分の能力を伸ばそうとするものです。そうした点を採用担当者も意外と忘れがちですが。

 

今回の就業力育成支援事業の実行にあたっては、外部の業者やキャリアカウンセラーを導入することもあるでしょう。そんな場合も、是非、提供プログラムだけではなく、それを担当する人物を良く見て選定して下さい。企業の採用担当者だって採用コンサルティングを依頼するとき、コンサルタントを直接指名することがあります。コンサルタントの実力と人間性を評価して、「この人が担当してくれるなら発注します。」と。

私もチームで仕事をする際は、メンバーの能力・人間性を厳格に見て選抜しています。人物評価は同情や内輪のお付き合いではありません。血税を投入するのですから、仕事が無くて困っているキャリアカウンセラーの雇用対策になっては本末転倒です。

 

▼参考URL:平成22年度「大学生の就業力育成支援事業」の選定状況について(文科省)

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/shugyou/1296632.htm

第194号:4年の夏から始まる採用選考

10月になり、就職活動&採用活動が動き始めました。いつの間にか、この異常スケジュールが日本の普通の感覚になってしまったのは残念ですが、やっと企業が改善に向けて動きました。総合商社の4年の夏から始める採用選考のニュースです。私は歓喜をもって受け止めましたが、さて、この動きは何処まで広がることでしょう?

 

このニュースで残念なのは2013年卒からが対象だということです。是非、2012年卒から始めてほしかったです。2013年卒からとなったのは、私の察するところ、できるだけ多くの企業を巻き込みたかったからではないかと思います。というのは、既に殆どの企業は2012年卒向けの仕込み(広報活動等)を済ませて採用活動に入っておりますから。特に大企業ほど修正がききません。実際、報道によると、消極的な業界もありますし経団連の反応もいまひとつです。

 

しかし仮に、有名総合商社だけの動きだとしても、是非、進めて欲しいものです。業界のリーディングカンパニーが動けば、他企業にも多少のインパクトはあることでしょう。また同時に、リーディング大学にも呼応して戴いて、「学生の学習環境を守るために、我が大学の就職ガイダンスは全て4年の4月から始めます。」と宣言して欲しいものです。

 

ところで、この動きの理由とされているのは、採用活動の早期化によって「学生の本分である学業が妨げられている」ということです。では企業の採用活動が遅くなることによって、肝心の学生はこれで勉強に打ち込んでくれるようになるのでしょうか?学力や人間力は向上するのでしょうか?

 

今回の採用活動の後ろ倒しには、企業が学生に対して「しっかり学べ!採用選考で自信をもって語れるような学生生活を過ごせ!」というメッセージが含まれていると思います。

 

逆に企業に問いかけてみたいのは、採用選考で「大学で教えていることをしっかり評価してくれるのですね?それを見る目があるのですね?」ということです。

 

更に大学にお願いしたいのは、「学校推薦や学生の成績評価は、本当に信じて良いのですね?」ということです。

 

私は現在、企業側の採用活動支援も、学生側の就職活動支援も、そして大学教員も生業としておりますので、未熟者ではありますが、それぞれの事情をわかっているつもりです。異常な事態が常態化してしまった就職・採用活動を、それぞれが相手に対して要求するばかりではなく、まずはそれぞれが、それぞれの本分をしっかり見直して自ら行動を起こすべきではないでしょうか。

 

企業がやっと重い腰を上げたのです。この動きが広く世の中に受け入れられるように祈っています。