第147号:社会人キャリア力育成検定のシンポジウム

去る10月17日に日本インターンシップ推進協会(JIPC)主催の「キャリア教育とインターンシップ」というシンポジウムにパネラーとして参加してきました。これは同推進協会が12月に実施する「社会人キャリア力育成検定」の実施に先立つ企画です。当日の聴講者は大学関係の方が中心で、残念ながら企業採用担当者の方は少なかったようです。

 

「人間力」「就職基礎力」「学士力」等々、こういった社会に通用する共通な能力を明らかにしようという取り組みは盛んですが、肝心の企業があまり乗り気でない理由は単純です。採用選考における金銭面と時間面のコストダウンに効果があるか不明だからでしょう。民間企業が開発した適性検査(筆記試験)が普及しているのも、過去のデータの蓄積と能力試験で応募学生のレベルが統一基準で評価できるからです。つまり、採用面接の時間コストを金銭コストで替えているわけですね。

 

今回の「社会人キャリア力育成検定」は、ご存知の方もおられるかと思いますが、経済産業省が推進する「社会人基礎力」に「社会常識力(日本語力、社会マナー、時事問題、計算力)」を加えたもので、時事問題や計算力等の客観基準による評価が加わっています。前者の「社会人基礎力」は筆記試験ではなかなか測定が難しいと思いますが、後者の「社会常識力」は採用選考基準に準用できるかもしれません。シンポジウムでも会場からのご意見では、キャリア教育の前にまずは基礎学力を重視すべきだ、というご指摘がありましたが、まさにその通りだと思います。これは大学全入時代になったからこそ、重要になってきた新たな課題です。

 

経済状況が混沌してきたいま、企業の採用活動もまた大きな変化の時期になりました。企業の採用担当者の現場まで具体的な方針が落ちてくるのは、年明けではないかと思います。米国のクリスマス商戦の影響と国内の年末の消費動向によって、多くの企業の3月決算の見通しが出てきます。その結果来期の予算が決まり、企業の人員計画(新卒採用数)が決まります。今週の日経新聞にも出ましたが、現時点では多くの企業が採用数削減・少数精鋭採用に動きだすことでしょう。

 

さて、こういった状況で強いのはやはり基礎的な能力をしっかり持っている学生です。どんなに不況であっても、社会人たる基礎知識やマナー、大学生としての基礎学力や行動力をもった学生は就職に強いですね。しかし、これらは一朝一夕に身につくものではありません。世の中に溢れてくる不安なニュースなどに惑わされずに、こんな時こそ晴耕雨読。企業も大学も学生も本当に社会で役立つ実力とは何かを深く考えて、質の高い就職・採用活動を行う時期でしょう。不況の時こそ底力が必要だ、そう思わされたシンポジウムでした。

 

第146号:金融破綻について思う

米国の金融破綻による経済混乱が収まりません。リーマン・ショックは単なる予兆で実態が明らかになるのはまだこれからです。私はよく大企業リストラを豪華客船の遭難に例えますが、もっとも心配なのは乗員のパニックです。必要以上に慌てふためくと思わぬ二次災害を引き起こします。こんな時は慌てずに落ち着いて対処することが、被害を最小限に食い止めることになります。

 

つい先日、外資系金融企業から内定取り消しをされた学生からの相談を受けました。企業の言い分では「内定」は約束していないということでしたが、これは採用担当者が狡猾なのか無知なのでしょう。他にも「内定取り消しにはなっていませんが、このままで大丈夫でしょうか?」という相談も数件ありました。有名大学を出て外資系金融を目指す位なんだから、自分のキャリアのリスク・ヘッジや覚悟はしておいた方が良さそうなものですが、そこは就業経験の無い日本の新卒大学生ですから致し方ありません。頭は強くても心はそれほど強くないのでしょう。実際、今回の金融破綻は戦後最大の危機といいますから、私だって不安です。

 

しかしながら、日本の状況をよく見てみると、欧米とは異なって幸か不幸かバブル崩壊から立ち直ってきたところでしたから、米国のサブプライム・ローン等の影響は少なく金融も実体経済も(元気とまでは言えませんが)そう痛んではいません。つまり、日本は世界でも安定している方です。しかも、不況の時には現金を持っているのが一番安心なのと同じで、日本は世界に冠たる大貯蓄国です。

 

それに金融破綻がこの時期に起きたのは就職内定者にとっては幸いです。この10月1日は、相も変わらず内定式に繰り出す4年生が大勢、ターミナル駅を占領し、企業では書面での内定通知と引き替えに誓約書の提出という儀式が終わり、労働者の地位は一段と高くなりましたから。これがもし春先に起きていたら、内定そのものを得られなかったかもしれません。

 

正直なところ、この状況では日本にどのような影響があるかはまだわかりません。就職課の皆さんのところにも欧米の銀行に押しかける預金者のように、不安を抱えた学生がやってくるかもしれませんが、こんな時こそ、落ち着かせてあげて下さい。おそらく先日の企業の内定式でも、しっかりした企業の採用担当者は「心配ありません。」と内定者を安心させていることでしょう。

今の若者は、生まれたときから好景気というものを見たことがありませんが、今の世の中が相当に豊かなことも、本当に苦しい社会もまた知りません。経済がこけても人類の歴史が終わるわけではありませんし、人類は過去何度もそれを乗り越えてきました。

 

最後に、就職セミナーやキャリアの講義でも良く引用される言葉をご紹介したいと思います。

 

「悲観は気分、楽観は意志」 アラン『幸福論』

 

就職活動ではまさにこれが求められると思います。勿論、企業の採用活動も。