第13号:学生コミュニティとの協働作業

先日、ある大学の就職活動を支援する学生コミュニティの要請で、著名企業の採用担当者に5名ほど集まって戴き、大学内でパネル・ディスカッションを行いました。就職活動の支援を行っている学生コミュニティは星の数ほどありますが、今回、私たちが訪問する気になったのは、このコミュニティの考え方が個性的だったからです。

このパネル・ディスカッションでは学生からの質問を受けて、それに対して各参加企業が自由に採用方針や求める人材像を話す形式で行いました。パネラーによっては全く違うことを話すこともありましたが、そこが狙いで、聴講する学生に企業の求める人材像はワンパターンではないことに気づいて戴きたかったのです。ともすると正解を求めがちな就職活動で、企業の求めるものの多様性、そして自分自身の将来像の多様性に気づいて貰えたらと思いました。

この学生コミュニティのユニークな点は、彼らの活動方針が最大公約数を求めるのではなく、少量多品種の考え方で行動していたところです。「いろいろな就職セミナーを聞いていて、何となくわかるけど自分自身に当てはめようとすると。どうもピンと来なくて物足りないのです。」と話す彼らが考えたのは、少人数でも自分たちのニーズにピッタリとはまる企画を沢山作って活動しよう、ということでした。これはまさに、これまで企業が求めてきた(作り上げてきた)人材像から、これから求められる自立(自律)した人材像への変換と同じことではないかと思いました。

学生と企業が出会う機会はお互いにとても難しいものですが、相互のニーズが明確になっていくためには、こういった目的意識の明確な学生コミュニティとの協働作業が非常に有効だと思います。大規模なセミナーから応募者を絞り込んでいくという採用方法だけではなく、多少手間はかかりますが、内容の濃い集団と丁寧な採用活動をすることも大事にしたいと思います。「こちらが思っているほど企業のイメージは伝わっていないね。」とは参加していた超有名企業のパネラーの感想でした。

次のステップとして、彼らと協働してキャリアカウンセリングを応用したキャリア開発プログラムを実行予定です。就職活動をもう少し広い視野で見て、自分自身のキャリア開発活動の通過点として就職という時期があると思って貰えらたらと思います。できるだけ個性を生かすような就職・採用活動が作り上げられたらと思います。

第12号:面接における解答と回答

師走となり、大学内での就職ガイダンスもお忙しいことでしょうが、採用担当者も大学や業者主催のイベントに招かれ、負けずに全国を走り回っています。多くの就職ガイダンスの面接指導では、スキル系(面接や筆記試験のテクニック)と、心理系(志望動機や自己分析)をトレーニングするものでしょう。企業もこの2点を確認するわけですが、意外にも学生はこの差異に気づかないことがあります。

面接でのチェック・ポイントをスキル系と心理系に分けてみると、前者は面接室への出入りの仕方、挨拶・態度、敬語の使い方、質問の反応スピード、質問の理解力等であるのに対し、後者は応募者の性格、情熱の指向性、ものごとの視点、発想のユニークさ等です。つまり、前者はある程度の基準というべき「正解」が用意されています。それに対し、後者は応募者個人の価値観や個性を問うものであり、「正解」は存在していません。

ですから当然ながら、面接者はスキル系のポイントに対しては「社会常識」という多くの人と同じものを期待しており、心理系のポイントでは逆に他の人と何がどのように違うのか、ということを期待しています。就職ガイダンスのトレーニングの際に、あまりスキル系のことに気をとらわれすぎると、この二者が混同されてしまい、つい志望動機や自己分析について「正解」を求めようとしてしまいます。学生の方から採用担当者に多い質問に、「どのようなタイプが御社に向いているのですか?」というものがあるのですが、私たちもつい理想的な人材像を話してしまいがちです。

社会人にならないとなかなか使わない漢字のひとつに「回答」という言葉があります。小・中・高・大の長い学生生活では「解答」を求める訓練が殆どであり、ふつう、それには唯一の「正解」が用意されていました。ところが、社会においては、「正解」を問うものよりも「価値」を問うものが多く、そのこたえは、「回答」です。学生の方には就職活動を通じて、唯一の「解答」求めてきた学生時代から、無数の「回答」が求められてくる社会人の世界に気づくような精神的成長を期待したいと思います。

ちなみに、新社会人のビジネス文書において、この「回答」と「解答」書き間違えるのはベスト5に入る漢字の誤用なので、社会人もあまり大きな顔は出来ません。