第340号:わかっているようでわからないコミュニケーション力

経団連が定期的に行っている会員企業人事採用担当者へのアンケートが公表されましたが「選考時に重視する要素」では、13年連続でコミュニケーション力がトップでした。何処が調べても不動の1位で居続けるのはジョコビッチもびっくりです。しかし、その意味・意義についての解釈には十分とはいえないところがあります。

 

このアンケート結果を論じるにはいくつかの視点があります。ここでは以下の3つの視点を挙げてみたいと思います。

1.コミュニケーション力という言葉がちゃんと理解されているか?

2.学生のコミュニケーション力の有無は問題なのかどうか

3.企業の期待するコミュニケーション力は大学で習得できるのか?

 

まず、「コミュニケーション力」という言葉は業界や企業や人によって捉え方に幅がありますので、意外と誤解を生みやすい言葉です。更に、社会(企業)と学生(大学)でも意味が微妙に異なります。例えば学生に「コミュニケーション力とはどういうものですか?」と質問すると殆どの学生が「相手の話をちゃんと聴いて理解して適切に対応すること」と答えます。これは全くその通りですが、企業からすればそれは当たり前のことで、その先まで求めています。というのは、学生の世界ではコミュニケーションそのもの(プロセス)が大事ですが、企業では過程よりも結果を求めます。つまり求めているもののレベルが違います。

 

次に、コミュニケーション力が低いのは問題かどうかです。最近、ユニークな採用活動で脚光を浴びている新潟のお菓子メーカーの三幸製菓では「コミュニケーション力は、会社に入ってから誰でもそれなりに伸びるので問題ない」と考えています。面接をしない「卒論採用」で有名なチームラボ社では、「当社は技術的な仕事が中心なので、対人スキルが弱い人でもネットで意思疎通が早く出来れば問題ない」と言っています。ちょっと特殊なケースかもしれませんが、これもコミュニケーション力の捉え方の違いを現し、更にその対処法まで考えています。

 

最後に、「コミュニケーション力」の正体が明らかになったとして、それは大学で指導・育成できるのか?という問題です。大学教員は「コミュニケーション」の分析を行い、理論を講義したり論文に著すことはできるでしょう。しかし、そうした教員自身が「企業の求めるコミュニケーション力」を教えられるでしょうか?研究者であり、かつ教育者になりえているでしょうか?それは相当に難しいことで、故に勉強せずアルバイトばかりしている学生が、あっさり内定を取ってしまったりします。

 

こうしたアンケートが出てくると識者やマスコミはすぐに「若者のコミュニケーション力の低下」を指摘しがちですが、「最近の若者は・・・」の前にちょっと注意して考えてみたいものです。

 

参考URL:2016年度新卒採用に関するアンケート調査結果

http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/108.html

第339号:米国大統領選から学ぶこと

世界中が衝撃につつまれた米国大統領選挙の結末でした。英国のEU離脱と同様に、大勢の推測とは反対の結果が出たことに驚きです。かつて民主党が政権をとった時と似ているという人もおりますが、なかなか見られないことだと思いますので、採用の仕事の示唆として考えてみましょう。

 

マスコミでは既に今後はどうなるのかという予測や対策に論点が移ってきましたが、なぜ予測が外れたかに着目したいと思います。私見では以下の点があげられます。

 

1.マスコミはヒラリー支持派が多かった

⇒米国の新聞は日本よりずっと政治家の支持姿勢が明確で、殆どがヒラリー支持に回った。

現政権(民主党)との関係からマスコミ側の期待度も現状より高くなった。

 

2.トランプ氏は政治家としては未知数だった

⇒フィリッピンのドゥテルテ大統領と違い、政治家としては初心者でマスコミからは想定外。

強烈な発言も伴い、エリートからはまさか通るとは思われなかった。

 

3.ネット(デジタル)データではすべては読めない

⇒ネットで動く(反応する)人は把握しやすいので、全体的な動きと見誤りがち。

ネット分析や広報が進んでも、投票行動は直接歩いて投票所に行かねばならない。

ジャーナリストの木村太郎氏が的中させたのは、自ら現地取材を行っていたから。

 

4.隠れトランプ派が多かった

     ⇒マスコミ報道の逆効果で、トランプ支持とは言いにくい風潮になっていた。

     選挙結果判明後、私の周りにも「実は俺はトランプ支持だった」という人が出ました。

つまり動態が把握しづらいサイレント・マジョリティが意外と動いた。

そして、不満をもっている人ほど連れだって積極的に行動に出るのはEU離脱と同じ。

 

こうした背景を鑑みると、日本の就職市場がネット経由からダイレクトリクルーティングにシフトしてきている状況と似ていませんか?見える市場から見えない市場への変化です。メディア経由の間接情報から、企業人(採用担当者やリクルーター)経由の直接情報で訴求していくようになってきました。今は企業の採用活動や学生の就職活動がなかなか見えなくなってきています。

また候補を企業に例えるなら、ヒラリー氏はメガバンクでトランプ氏はITメガベンチャーあたりでしょうか。求めるタイプ(支持するタイプ)が違うので、訴求ポイントも違ってきますが、新卒一括採用という現体制を、通年採用、キャリア採用に切り替えていく動きにだんだんと変わっていくでしょう。

 

こうなると採用担当者に求められる資質も(集団形成については)人事労務分野からマーケティング分野に変わります。雇用の流動化が激しい米国では昔から内部労働市場を対象にする仕事と外部労働市場を仕事にするのは似て非なるものです。日本の採用担当者も変革を求められてくるのでしょう。