第332号:2社内定したらどちらでも良い

「内定を戴いた会社のどちらが良いでしょう?」学生相談も最終段階のものが増えてきました。先日やってきた学生は、人もうらやむ有名企業2社に内定を貰い、ハムレットのように悩んでいました。就職担当者や採用担当者やなら、それなりの見解(ものの見方)を示してあげることも大事ですね。

この学生が迷っていたのは、1社は日本型雇用の大企業、1社は成長著しいハイテク企業と、魅力が真逆で事業内容や社風や人事制度などもまったく異なります。身もふたもない結論を言えば、以下の3点の理由から、どちらを選んでも大丈夫です。

1.学生はどちらを選んだかより、自分で決めたことに納得するから

カウンセリングやコーチングを学んだ方は「答えは貴方の中にある」と言いますが、米国のように大学生がそれなりに企業の事情を知っている社会なら学生も自分の知見から判断できるでしょう。しかし、日本の新卒採用のように、学生が社会の労働実態を殆ど知らない社会では、正しい判断ができるかどうかより、自分で判断したという納得感があるということでしょう。仮に社会に精通した社会人が、事業内容の優劣や生涯賃金の違いを教えてあげても、どちらが幸せな人生になるかなんて、その人生を歩んだ本人にしかわかりませんね。

2.採用担当者は、できない人、向いていない人には内定は出さないから

採用選考においては、よほど没個性な肉体労働でない限り、採用選考時に配属先のイメージがわかないと内定を出せません。どんな企業でもおおよその配属プラン(人員計画)をもって面接に臨みます。だから、内定を貰った時点で、その会社に向いているという他者判断はなされているのです。少なくとも、能力的についてこられないと思う学生に内定は出しません。なので、内定した会社についていけるか心配だという学生もいますが、その心配もまずありません。

3.隣の芝生は常に青いから

二つの会社のどちらに合っているかどうかは、二つの会社を体験してみないとわかりません。しかし、現実的に、人間は同時に二つの企業で働くことはできません。仮に、ある会社が自分に合わないと思って転職したら良い会社に巡り会ったということがあったとしても、それは最初の企業での経験があったら次の企業への対応力がついたからかもしれません。つまり、もう新卒ではなく社会適応力や判断力がついたからです。就職後、心の中で自分はあの会社に行っておけばよかったなあと思ったとしても、それは検証できませんからね。

ちなみに先日、辞退者がたくさん出て困ったという企業の若手採用担当者に話を伺いました。この方の悩みは、内定者からいくつかの企業で迷っているという相談を受けた際に「絶対にうちの方が良いよ!」と言い切れなかったそうです。まだ入社2~3年目だったので、学生の気持ちの共感しすぎる優しい採用担当者なのでしょう。こんな時にこそ、ハムレットの名文句でも思い出せば良いと思います。

「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ」ではなく、

「天と地の間にはお前の哲学などには思いもよらぬ出来事があるのだ」

だからどちらを選んでも大丈夫、迷わず我が社を選びなさい、と。

第331号:圧倒的な業界研究不足には

先日とある企業の採用選考に立ち会いました。ES(自己PR)と筆記試験は合格し、面接に臨んだところ、応募企業の業務内容や業界動向についてあまりに無知で不合格となりました。今回、唖然としたのは、自己PRと業界研究の大きな落差です。これはコンピテンシー面接の弊害ともいえるのですが、業界研究の進め方にも問題がありそうです。

 

周知の通りコンピテンシー面接では応募者の体験事実を掘り下げていわゆる「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を聴きだしていきますが、今回の学生は、ここは良く話せており自己分析対策をやってきたのでしょう。しかし、その次に尋ねた志望動機では、不思議なほどに話せません。こうした学生が増えているのは、おそらく大学受験のように就活対策でやりやすいところから行ってきたからでしょう。自己分析は業界研究に比べて自分1人でできますし、どこの企業でも同じ話をしても大きな問題はありません。つまり点数の取りやすい(?)問題です。

 

それに対し、業界研究はデータを集めること自体に手間暇がかかりますし、更に分析して自分の意見(志望動機)にもっていくのも大変です。上記の学生は、自己分析を仕上げて時間がなくなってしまったのでしょう。または、企業によっては志望動機を聞かないコンピテンシー面接だけで行いますから、そうした企業が第一希望だったのかもしれません。業界研究は確かに大変面倒なものですが、要領さえ押さえられれば面白くなり、以下のようなステップで行えば大学で学ぶ分析手法とも同じです。

 

1.学生向けのデータ収集(就活本、企業セミナー等)           ⇒文献調査(一般情報)

2.社会人向けのデータ収集(ビジネス書籍、IR情報等)       ⇒定量調査(専門情報)

3.最新の現場動向収集(OB・OG訪問等)                   ⇒定性調査(先端情報)

 

大学で学ぶべきスキルにロジカルシンキングがありますが、それは事実を元に見解を述べるという点ではコンピテンシー面接や業界分析と同じです。最初に一般情報を得て問題意識を高め、専門情報を得て課題を発見し、絞り込んだ分野の先端情報を得て持論を展開するのです。

ところが多くの学生は一般情報の段階で時間切れになっているようです。加えて学生向けの就活情報が溢れて便利になったようですが、それは誰もが目にする一般情報なので志望動機にも個性がなくなります。逆に言うと、個性的な志望動機を作りたいなら他者と違うデータ(専門&先端情報)を入手すれば良いのです。これは大学のレポートや論文で求められるオリジナリティと同じです。

 

こうした情報の扱い方に悩む学生のことも考え、授業を通じて大学の学びと一緒に教えられないかと始めたのがビデオ教材を用いた授業です。このコラムでもご紹介して参りましたが、今年も研究会を始めます。ご関心のある方は、どうぞ一緒に勉強しませんか?

 

▼ご参考:7月15日(金)14:30~16:30、17:00~19:00

ビデオ教材研究会(2016年度 第1回)法政大学市ヶ谷キャンパス

https://docs.google.com/forms/d/1GwmEu7HGAfFzT1rsB8BVESjccNRuNEmyY4-MgkOFDf8/viewform?c=0&w=1&usp=mail_form_link