第212号:キヤノンの大学別新卒説明会

ネット上でキヤノンの大学別新卒説明会が「学歴差別」だと話題になりました。日本人(というよりもマスメディア?)はこの言葉が本当に好きなんですね。これはおそらく採用担当者の単純なうっかりミスでしょう。企業の広報活動も担う採用担当者としては不注意だったと思います。

 

そもそも企業の採用活動は自由であって、縁故採用だけでやろうが、指定校制度をやろうが、先着順位採用をやろうが、世間に迷惑をかけない限り、何の問題もありません。日本中のすべての企業が同じ基準や方法で採用活動をする方が不気味です。しかし、世の中にはいろんな理解をする人がおられますから、いたずらに誤解を招いて自ら風評被害やクレーマーを呼び込むようなことは避けたいものです。ネット時代の今は一気に情報が拡散しますし、有名大企業の採用担当者は世間への影響も大きいので特に注意が必要です。

 

公開されてしまった画面を見ると、受付学校順が偏差値順になってしまっていて本音(?)が丸見えです。これは完全な配慮不足で通常の採用担当者の感覚ならば、ここはふつうアイウエオ順にするか、せめて「並び順は応募者の多い学校順です」と説明を付記するところです。公開している企業の採用実績校の並び順と同じように。(採用担当者は採用実績校を何処まで出すか結構、悩みます。スペースの都合で全学校を掲載するのは困難なときは、採用実績数が少なくてもターゲットにしたい学校を優先してあげるものです。)

 

私は今回、キヤノンの方のコメントの(「学歴なんてどうでもいい」)方も少々気になりました。こういった場合、ノーコメントというのも多いのですが、それを回答した同社には敬意を表します。しかし、大学教員のはしくれとしては「学歴は重視していますが、学校名はどうでも良いと思います。」と言って欲しかったです。勿論、ここで私が言う「学歴」とは、ちゃんと勉強した学習歴のことです。今はちょうど期末試験の時期なので、学生のレポートを採点していると、ちゃんと学習している学生はよくわかります。それが仕事力に直結しているとは限りませんが、少なくとも企業のエントリーシートの選考基準とは相当に近いと感じています。

 

今回の件で、仮に「学歴差別」が声高に指摘されたとしても、企業採用担当者は泰然としていれば良いと思います。これも期末試験の時によくあることなのですが、いろいろクレームを付けてくる学生には本当に勉強をしている学生は少ないです。以前も学歴フィルターのテーマで書きましたが、本当にできる学生は、環境に文句をつけている暇があったら環境を乗り越えようとします。これは仕事力とも似ていて、できる社員は難問に対していつも対策を考えますし、できない社員はいつも言い訳を考えます。

 

▼参考URL(J-CASTニュース)

「露骨な学歴差別なのか キヤノンの大学別新卒説明会」

http://www.j-cast.com/2011/07/20101639.html

 

 

第211号:東大の秋入学を考える

日経新聞トップ記事になるとは驚きましたが、東大が秋入学への全面的移行を本気で検討するそうですね。安倍元総理の置き土産だとの噂もありますが、採用担当者の視点で考えてみましょう。

 

採用担当者にとって、まず気になるのは入学時期の変更よりも卒業時期の変更です。卒業時期が半年延びることにより、またまた採用活動(就職活動)が延びるのか、それともこれを機会に採用選考時期が総合商社の主張の通り後ろ倒しになるのかということです。

結論から言えば、秋入学への移行が東大だけならば、採用担当者にとってあまり影響はないでしょう。なぜなら東大生というのは採用市場では特殊なマーケットで、全体からみれば少数であり、東大生の採用数にこだわるのは伝統的な大企業に集中していますから。他の大学が、東大に倣って一気に変更しない限り、たいしたことはありません。企業で言えば、パナソニックやソニーが既にグローバル採用に移行しているのと同じで、そうしたグローバル人材を本当に必要としており、本当に使いこなせる日本企業はそうは多くはありません。

 

次に、東大の狙いである海外の優秀な留学生が本当に日本にやってくるならば、それは採用担当者にとって有り難いことです。というのは、わざわざ海外のジョブフェアに出張しなくても、国内で日本語のできる優秀な留学生とコンタクトする機会が増えますから(数少ない海外出張を楽しみにしている採用担当者は別ですね)。

一般に海外からの留学生は、卒業後に母国にはすぐに帰らずに留学先で母国より待遇の良い就職先を求め、そしてキャリアを積んだ何年後かに帰国することが多いです。採用担当者にとっては、採用後にいかに定着させるかという努力が求められるようになりますが、日本国内に住んだ留学生は日本(企業)の良さがわかりやすいと思います。

 

さて、今回の改革に際し「秋入学は世界標準だから」という論もあります。日本の大学の入学時期が欧米各国とズレているから留学生が日本に来づらいという論ですが、ここで指摘したいことがあります。(本当は学問水準に魅力が無いのかもしれませんが、それは東大とはいえあまり明らかにしたくないことでしょう。現実的には日本語の授業が殆どなので来づらいことの方が大きな気がします)。

それは世界から優秀な人材を集める海外有名大学の殆どは「私学」であるということです。世界中から優秀な人材を集めて大学の研究成果をあげ、大学への寄付金・支援金を集めるというのが経営戦略です。しかし、東大をはじめとする莫大な税金を投入する日本の「国立」大学は、私益ではなく国益をしっかり意識して欲しいということです。つまり東大は設立基盤が世界標準型ではないということですね。だから海外の留学生への投資が簡単に海外流失しないように十分に考えて欲しいものです(ODAのように「世界益」という思想ならそれはそれで良いですが)。

 

最後に、入試時期の変更をせずに入学までの半年間をギャップイヤーとするならば、日本人東大入学者は全員、海外留学を必須にさせたらどうかと思います。税金で海外留学に行けば、多少は使命感や愛国心も感じてくれるでしょうし、国内で5月病にもならないでしょう。こうした機会が日本と世界の未来を背負う若者の成長機会になるのなら、堂々と税金を投入すべきだと思います。