第330号:本当のポテンシャル採用とは

第一希望に内定したという学生の報告がだいぶ増えてきましたので、大手企業の内定出しも進んできているようです。採用担当者の仕事もそろそろ終盤と言いたいところですが、ここ数年、辞退率が年々高くなってきているので、企業によってはこれからもう一働きというところもあるでしょう。

先日伺った一部上場企業の採用担当者の話では、今期の内定辞退率がついに50%を越えてしまったとのこと。こうなるとこれまでの厳選採用という方針の見直しを余儀なくされてきます。ITバブル崩壊以降、景気がよくなってもこの方針は変えないと言われて続けてきましたが、その後の社会変化の影響で、今後は以下のような変動が起きてきました。

1.IT(Web)採用が増加する ⇒母集団が肥大化する

2.厳選採用を多くの企業が行う   ⇒内定者は上位学生に集中する

3.大学大衆化が進む                    ⇒不採用者が増加する

4.少子化が進行する                    ⇒内定集中が加速する

5.景況感が停滞する                    ⇒採用数減少で益々内定集中

6.非正規雇用が進行する         ⇒採用担当者が減少する?

厳選採用が進んでも学生数が増え続ければ(少子化が進行しなければ)、各社がそれなりに内定者を確保できたことでしょう。しかし上昇し続けた大学進学率もこれからは停滞し、事態はますます深刻になりそうです。 こうなると採用選考基準を下げて必要数を確保してきたのが過去の循環的労働需給関係ですが、そのように進まなくなってきたのは非正規雇用の進行(雇用の海外流入)と二次産業の海外移転(雇用の海外流出)という構造的変動(景気が戻っても元に戻らない)が進んできたからです。

こうした環境になると、採用担当者が対応しなければならないのは上位層の次に来る中位層(というより「中の上位層」)採用です。言い方を変えれば、「本当のポテンシャル採用」です。企業採用担当者はよく「重視しているのは『伸び代(ポテンシャル)』です。」と言います。これは入社後に成果を出してくれる人材という期待ですが、厳選採用は既に学生時代になんらかの成果を出したり、採用選考で明確にデキル!と感じさせたりする能力が顕在化した上位層の採用です。

それに対し「本当のポテンシャル採用」とは採用選考の場では確固たる印象とはいえませんが(いわゆるボーダーライン)、その可能性を信じて内定を出すことです。そして、このボーダーラインの判断が最も難しい採用だと思います。合格層と不合格層は、誰が見でも「良いねえ」「ダメだねえ」と選考判断がぶれることは殆どありませんが、ボーダーライン層は選考担当者によって意見が分かれますので。

そうした判定は面接では判断しにくいので、インターンシップ等である程度の時間と工数をかけて選考を進めた方が良いです。それが今の3年生に対する早期のコンタクトにつながっており、当分は増えていくでしょう。学生にとっても短時間の面接より、例えワンデイでもリラックスしてポテンシャル(伸び代)を発揮しやすいと思います。大学生活が就職活動で塗りつぶされるのも困りますが、双方に良い関係の就職選考活動になっていけば良いですね。

第329号:就職活動による未履修単位証明書

想定したくはなかったですが、想定していたが事態が起きてしまいました。私の授業の履修登録はしていたものの、一度も見たことのない学生が出席してきたのです。お察しの通り、春休みからずっと就職活動を続けてきた学生で、やっと内定が取れたとのこと。本来であればこれまでの苦労をねぎらい、祝福してあげたいところですが、既に授業の半分を終えた時点からの出席では単位履修を認めるのは困難です。

 

今年は昨年以上に4年生が授業に出て来ませんでした。昨年のマスコミの弁によれば、解禁日を6月にしたのは「学生が勉強しなくなるから」だそうですが、授業出席率だけをみれば昨年の方が良かったです。少なくとも4月初旬の授業に4年生は居たので「これから就活でなかなか出られなくなるかも・・・」という相談を受けて補習課題を出す等の対応をしていましたが、履修登録をしていても姿を現さない学生はどうしようもありません。

 

私は授業シラバスにも記載していますが、授業は全出席を求めています。しかし、体調不良等の不測の事態のために2回だけは欠席を認めています。教職課程や運動部での海外遠征等による欠席にはレポートを課すというオーソドックスなものです。しかし、無断欠席には厳しい対処をしています。なぜなら、私の担当するキャリア教育の領域は、社会で通用する就業力を教えていますが、無断欠席に寛容な企業など殆どないと思いますから。

 

私も採用担当者時代には学生を平日授業のある日に呼び出すのは忍びなく思っていましたので、選考面接日が授業とぶつかった場合には別日程をたててできる限り対応していました。最終選考で役員面接などになると日程調整をするのはなかなか大変でしたが、就職活動が原因でその学生が卒業できなくなったら元も子もありませんから。

 

しかし今回の事態のように、そのまさかの事態がおきたならどうすべきか。私は内定を出した企業が責任をもってその学生を受け入れるべきだと思います。求人票や内定誓約書には応募要件に「卒業見込」という文言が必ずありますが、これは別に法律で決まったものでもなく、その企業が了承すれば採用するのに何の問題もありません。会社内の法律である就業規則に採用の条件として記載されていたとしても、知恵と度胸を働かせればいくらでも対処方法はあります。

 

もし私の授業単位が取れなくて卒業できなかったということなら、その企業の選考日時と授業日時が重なっていることを確認して、喜んで『就職活動による未履修単位証明書』なるもでも書きましょう。就職活動が原因で卒業できない学生が出たならば、責任を散るべきは大学ではなく授業期間を無視して採用選考を行う企業とそれを許してしまう社会ではないでしょうか。

 

そもそも殆どの企業が大学卒業見込みを応募要件にしているのですから、その意義と責任を改めて認識してほしいものです。