第120号:「学士力」と採用選考基準

去る9月10日に中央教育審議会の大学分科会小委員会から、採用担当者にとって嬉しいニュースが流れました。ご存知の方も居られるかと思いますが、大学卒業までに学生が最低限身につけるべき能力を「学士力」として定めて卒業認定を厳格に行うとのこと。これが本当に実現するなら画期的なことです。

 

ほぼ全入時代の現在、採用担当者にとっての大きな悩みは「採用基準に達する応募者の不足」です。散々、言われているようにこれは大学だけではなく、社会環境の変化・家庭の躾に始まる日本の大きな問題です。「学士力」の概要説明を見ると、「知識」「技能」「態度」「創造的思考力」の4分野13項目で構成されるそうですが、これはまさに企業の採用選考基準と同じです。

 

更に大学毎に成績評価の基準が設定され、卒業試験による「厳格」な認定が行われるとのことですが、もしこれが本当に出来たら、採用担当者にとっては応募者への大きな採用選考情報になります。大学の成績が採用選考に真面目に取り込まれるとは画期的なことです。

 

こういった記事が流れると、必ず「大学は就職予備校ではない。」「大学序列に繋がる!」等とおっしゃる教員がおられます。(一方で同じ先生が「企業は雇用責任を何と考え得ているか!」と批判されることがありますが、こんな矛盾した言い分はありません。そういう高貴な先生は俗世の就職率など気にしてはいけません。)

 

しかし、詳細はまだ知りませんが、企業採用担当者が期待する「学士力」とはセンター試験のような共通学力を求めるものではないと思います。それは入学時に確認しているはずですね。「学士力」は寧ろ、その大学が育成したい人物像に合わせて大学毎に個性化すべきものでしょう。それが大学のカラーにも繋がるものだと思います。基礎学力は入試で、卒業能力は学士力で評価です。

 

企業が学士力に協力できるとしたら、盛んになってきた寄付講座や(本当の)インターンシップで社会のニーズを伝えることでしょう。「学士力」が何処でどんな風に応用出来るか社会の窓を開けて見せることです。一部の採用担当者が誤解しているのは、「大学で学ぶのは勉強だけでは無い。」と言って大学教育を軽視することです。確かに「勉強だけ」ではないのですが、勉強が第一でないのは世界の大学教育・企業の採用選考基準から見ると不思議なところです。

 

政府が混沌としてしまっていて教育再生会議がどうなるか心配ではありますが、こういった取り組みがどう実現するか楽しみです。

 

 

第119号:大学内就職セミナー参加に苦労する無名企業

9月に入り、多くの企業では2009年卒業学生向けの具体的活動に動き始めました。前半戦(年内の活動)の活動の中心は企業広報で多くの母集団を形成することです。今は売り手市場になりましたので、企業も多くの予算をかけておりますが、なかなか苦労しているのが大学内で開催される就職セミナーへの参加です。

 

周知の通り、大学内で開催される就職セミナーを主催者別に整理してみると下記のタイプがあります。

・大学就職課(キャリアセンター)

・理工系就職担当部署

・就職には直接関係ない部署(生協、リエゾンオフィス、大学OB会等)

・公認学生団体(ゼミ、研究室等)

・未公認学生サークル(イベント、自己啓発系)

 

大学内での就職セミナーは、大学外で開催される就職業者の合同説明会と違って来場される学生の資質が一定であること、特定の研究分野に絞られていること、また費用も低価格・無料であること等が好まれ、企業の採用担当者は熱心に参加努力をしています。

しかし売り手市場になったいま、ここでも大学の二極化が進んでいるようです。いわゆる有名大学では無名の企業が大学内セミナーに参加を希望しても簡単には入れて貰えません。先日、とある企業(なかなか業績も良いが無名の新興中堅企業)の採用担当者が某有名大学の就職担当者に大学内就職セミナーへの参加を申し込んだ所、下記のようなご対応で残念ながらご縁はできませんでした。

 

職員「御社には当大学の卒業生(採用実績)は居りますか?」

採用担当者「いえ、まだ実績はありません。」

職員「では、これまで当大学のセミナーに参加されたことは?」

採用担当者「いえ、初めて参加させて戴きたいと・・・。」

職員「残念ですが、当大学では先の二つが参加の条件ですので・・・。」

 

売り手市場になったとは、まさにこういうことなのでしょう。これでは新興企業の出場機会は全くありませんね。かつて企業にも指定校制度というのがありましたが、大学にも見えない指定企業制度があるようです。大学側も企業側も実績のあるところとの縁を大事にすると言うのはよくわかります。

しかし、マーケットはいつか変わるものです。大学にお奨めしておきたいのは、余裕のある今のうちに良い新興企業をしっかり見極めてチャネルも作っておくことです。大企業は放っておいても学生がコンタクトします。特に今の学生は視野が広いように見えて、知名度で企業の選択をしがちですから。日本を支える無名企業にも是非、愛の手を。