これまで文科省の「就業力GP」については何度か触れて参りましたが、私事ながら、この4月より法政大学の特任教員(任期付き非常勤講師)に就任致しました。過去のコラムを書いていた時点では全く無かった急なご依頼で、私自身が一番、驚いておりますが、微力ながらも批評者ではなく実践者としてチャレンジしてみようと思います。
法政大学のプロジェクト・メンバーは、リーダーの藤村教授以下、私を含めて3名の特任教員が担当致します。特任教員はそれぞれのキャリアを活かした専門分野へのアプローチを行いますが、私の場合は言うまでもなく、まずは企業人事部との連携です。多くの企業と議論しながら「就業力」というものの外部評価基準・手法を開発したいと思っております。これまで多くの「××力」というもが提起されてきましたが、それらを聞く度に、大学教育と企業の求める人材像との距離に問題意識をもっておりました。このコラムで提唱し続けてきたことを実践する機会を戴いたわけですね。
以前ここで、就業力というものは、大学の通常授業を通じても十分、身に付けられるものだ、と書きました。例えば「事実」と「意見」を分けるという基本的なアカデミックの視点は、就職活動だけではなく就職後の仕事でも必須のものなのです。
私が新社会人として営業に出始めた頃、上司が新人営業マンにしつこく指導していたのは「いいか、営業会議では、顧客が言ったことと、自分が推測したことは、混同せずに報告しろ!」というものです。これは顧客の言っていたことだけを報告しろということではありません。それならば、営業はただのメッセンジャー・ボーイです(確かにそんな業界もありますが。)。大事なことは、顧客の言った事実をちゃんと確かめる、情報がなければもっと集める、そして推測する、ということです。ベテランになるほど勘がよく働きますが、その場合でも思い込みは危険で、この原則は大事です。
このようにアカデミック・スキルはちゃんと社会に通用するものなのですが、残念ながら当時の私は大学でそんなことを学んだ記憶がありません。試しに就職活動中の有名大学の学生にも尋ねてみましたが、「言われてみれば、ああ、確かにそうですね。大学の勉強って、そういうものなんですね!」と喜んでおりました。つまり、大学で学ぶことと、それを社会で応用するということとは別の能力なんだということです。こうしたアカデミック・スキルを再認識させる指導が就業力育成のひとつでしょう。
これは資格と就職の関係も同じだと思います。就職活動(採用選考)においては、資格そのものに価値があるのではなく、資格勉強の過程において身に付けた能力や視点が役立つのですが、そこを面接で主張する学生は意外と少なくて勿体ないです。学士力と就業力の関係も同じではないかと思います。学士として身に付けた基本的なアカデミック・スキルを社会で使いこなせる応用力、それが就業力というものではないでしょうか。
と、こんな試行錯誤を今月からはじめたところです。今後、企業だけではなく、多くの大学就職課の方々とも意見交換をしていきたいと思っております。今回採択された180校だけでなく、ご意見・ご質問等ございましたら、是非、お声掛け下さい。一緒に考えてみませんか!