第334号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-3

残暑お見舞い申し上げます。立秋を過ぎて台風シーズンになりましたが、皆様の大学ではご無事でしょうか。この時期はオープンキャンパスで高校生も保護者も全国を移動されますのでご無事を祈ります。

 

さて夏休みに入り、春学期授業の期末試験を振り返っていますが、改めて答案の書けない学生はエントリーシート(ES)も書けないだろうなあ、と思わされます。逆に言うと良い答案が書ければESも上手に書けるはずです。例えば「分析せよ、論ぜよ」という試験問題の場合、良い答案は「文頭」に、ズレた答案は「文末」に特長があります。試験でよく見る具体例を示します。(教員としても、採用担当者としても、私の採点ポイントのひとつです。)

 

▼良い例(接続詞の使い方で論理がちゃんと構成されている)

『~は△と△とで構成されており、~は××といえる。

何故なら、(というのは、)~だからである。

例を挙げると、(例えば)~ということがある。

もう一つ例を挙げてみると、~ということもある。

以上のことから、~である。そして、今後は~。』

 

事実を元に見解を展開するのが「分析」の基本です。これは就職活動で求められる「自己分析」でも同じです。実績に基づかない論じ方は、以下の通り説得力がありません。

 

▼ズレた例(根拠のない未来志向は説得力がない)

『~と考えたい。

~のスコアを上げたい。

~と心掛けたい。

~たら良いと思っている。

~に挑戦したい。」

 

志望動機のように未来への希望を問われているのならともかく、自己分析(自己PR)を求められているのに希望的観測を書かれても困ります。試験のヤマが外れても、問われていることに対して論理的に回答している答案は救いようがありますが、この基本ができていなければ不合格です。

 

ESは奇をてらった能力を見るのではなく、会ってみるのに十分な基本があるかどうかが大事です。名作小説にする必要はありません。基本がない個性だけでは変な人になります。 答案を方程式に例えれば、「公式=基本」「変数=個性」です。数百字の小論文・試験答案・ESはこれで十分対応できると思います。基本をしっかり身につけ、あとは変数(豊かな体験値=語るべき事実)を充実させることですね。そうした実績を積み重ねるためにも夏休みはあるのでしょう。

 

第333号:調整派の経団連と行動派の同友会

経団連は来年の採用解禁日も本年度と同じ6月にする方向で調整していると報じられました。一方で、経済同友会からは「あるべき姿の(長期型)インターンシップ」の提言が報じられました。同じ経済団体でも組織の性格上、社会への発信内容やスタイルが違うところが面白いです。

 

この2団体の性格の違いは以前にも述べましたが、それぞれのタイプを対比するキーワードを思いつくままに挙げてみると・・・、現実と理想、国内と国際、タテマエとホンネ、形式と実質、慎重と迅速、組織と個人、利益重視と社会貢献・・・ etc.

 

総じて、調整派の経団連と行動派の経済同友会といえるでしょう。なんせ1400社の企業集団(経団連)と、1300人の経営者集団(同友会)です。前者が調整派になるのはメンバーが企業単位であり、経営者とはいえ自社の中で意見を調整してまとめさせていますから。後者はメンバーが個人単位で、経営者が自由好き勝手に発言できますから。調整と行動のスピードに差が出るのは当然です。

 

新卒採用の倫理については、これまでもこの2団体を中心に意見が出されてきましたが、昨年の採用活動の後ろ倒し(経済同友会的な意見)が今年の前倒し(経団連的な意見)になり、更に来年はまた前倒しにもっていきそうな動きをみて、経済同級会は愛想をつかしたような感じです。いくら議論をしたところで解決されそうもないので、採用活動解禁時期の小田原評定はやめ、その前にある正統派インターンシップについて提言を行い、根本的なところから採用活動の見直しを計らせようという感じです。

このインターンシップについてもまたこの2団体の意見や方向性は異なることになるでしょう。しかし、それはそれで良いのです。というのは、今の経済団体の使命はあるべき姿のモデルを示すことで、全体を統一することではないからです。世間一般の企業(採用担当者)も大学(学生)も、いつまでも高度経済成長期のように同じ成長モデルでみんなが成功するような幻想は捨てるべきです。そうした手法が効果的なのは、市場(人口・経済・学生数)が拡大するような市場であって、それらが成熟して縮小傾向に逆転した現在は、各者各様のスタイルを考えて実行しなければなりません。

経済同友会の提唱する長期型インターンシップの賛同企業は大手企業のたかだか数十社ですが、狙いは模範的な行動を見せることによって、全体に問題提起をすることです。マスコミはよくこの程度の企業が動いただけで、市場全体が動き始めたように報じますが、それは書きすぎです。

たとえば、最近よく使われるようなった用語に「ダイレクトリクルーティング」があります。これも同様で、全ての企業が同じことを行うのではなく、企業が得意の分野をつくって独自路線の採用手法をあみだすことです。だから、ダイレクトリクルーティングは、マスメディアで大きく取り上げられ、みんなが一緒にやるような就活Web型採用とは根本的に違います。

大学生の資質も企業の求める人材も多様化している現在、全体が同じ動きで成功するというのは現実的ではありません。大学の育てる人材も卒業後の進路も時期も、翻って自校独自の方向や手法を考えてみても良いのではないでしょうか。