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第227号:KY学生のES

企業採用担当者のエントリーシート(ES)評価が忙しくなってきました。学生も大変ですが、採用担当者も大変です。中にはホテルに缶詰になって採点をしている方も居られます。ES評価に取り組む採用担当者のモチベーションは、会ってみたくなる学生のESを読むことに尽きます。しかしながら多くのESは、そうした採用担当者の気持ちを理解していないのでは、と思わされます。気持ちが読めない「KY」学生さんのESですね。

 

どんなESを書く学生なら会ってみたくなるのか?それはESの設問で定番の「学生生活で貴方が最も頑張ったことは何ですか?」という問いからも明らかです。つまり、難題を乗り越えて大きく成長した学生ですね。それも採用選考ですから、他者より抜きんでた能力や強味を期待しているわけです。ところが多くの学生がこんな書き方をしています。

 

「私は幼い頃から人見知りだったので、これではいけないと思い、あえて接客業のアルバイトに取り組みました・・・」

「私は人を引っ張っていくタイプではありませんが、周囲を俯瞰してから的確なアドバイスをするように心がけています・・・」

 

これを読んだ採用担当者は、どう思うでしょうか?会ってみたいと思うでしょうか?どうしてこのような自分の評価を下げる表現をするのか理解に苦しみます。自分の弱点が人並みなった、というものではなく、人一倍頑張って抜きんでた、という書き方をして欲しいものです。きっと書いた学生本人にとっては本当に頑張ったことなのでしょう。しかし採用選考は競争の場です。嘘はいけませんが、本当のことをまともに全部話すような人物は安心して採用できません。例えば営業の仕事では、顧客に対して自社の商品の欠点をすべて話すわけにはいかないように。(勿論、例外はありますが、それはベテランになってからの上級スキルです。)改めて学生さんに気付いて欲しいのは、就職活動というのは自分という商品の良さを一所懸命に売り込む場だということです。

 

確かに設問の「頑張ったこと」には、「弱点を書く必要はありません」とか、「強味を書いて下さい」とかは書いてありません。だからこそ、ここで読み手の気持ちを察しながら書く学生と、そうでない学生の差がつくのです。ESは面接に読んで貰うためのPRツールです。弱点は面接で突っ込まれてから話せば良いのです。勿論、ここでも本当のことを全部言うかどうかは考えるべきです。

 

もうひとつ気になる書き方があります。ESに具体的なことを書いていない学生が居るのです。本人に尋ねてみると「それは面接で会ってから詳しく話すつもりです。」とのこと。残念ながらそんな方には面接のチャンスが来るとは思えません。膨大なESを短時間で評価しなければならない採用担当者の気持ちを汲んで、出し惜しみせずに魅力的に書いて欲しいと思います。ES評価で不合格になったら元も子もありませんから。

 

第226号:大学でちゃんと学べばESは書ける

企業のエントリーシート(ES)の締切が迫ってきています。オフィス街のファーストフード店に入ると企業のロゴが入ったESを前に考え込んでいる学生が無数に居ります。中には数人で添削し合っていたり。これだけ熱心に勉強してくれたら・・・と思わされます。私の方でもESの評価をしますが、最近の学生は本当に文章を書く力が落ちたと思います。大学の授業で教えていることをしっかり理解していれば、相当に対処できるはずのですが、教員が教えていないのか、学生が学んでいないのか・・・。

 

私は、大学の授業は立派に世の中の役に立つと考えております。直接仕事に通用する知識ではありませんが、アカデミックスキルとは相当に応用範囲が広いものです。例をあげて説明しましょう。

 

・一次情報にあたる

昨年このコラムで、大学では「事実」と「意見」を峻別することが必要だと書きました。レポートも「事実に基づいて意見」を展開するものだということですが、更にその「事実」は一次情報でなければなりません。文学であれば、誰かの書いた評論(二次情報)ではなく原典を読めということです。原典の読後なら他者の評論も自分の視点で解釈できますが、そうでなければ受け売りになってしまいます。一次情報にあたるのは手間暇がかかります。外国文献ならば語学のハードルもあるでしょう。しかし、そうした地道な作業こそが大学での研究活動であり、そこから忍耐力や文章力が身に付きます。

 

・複数の情報を集める

更に、一次情報でも可能な限り多くの情報を集めることです。例えば経営学で労働者の意識調査を行うとき、アンケート調査(定量調査)やインタビュー調査(定性調査)を実施しますが、一人や二人の回答では一次情報とはいえ信憑性に欠けます。時間や費用の許す限り、数多くの情報を集めることが必要です。そして、そうして集めた複数の一次情報を、集計したり解釈することによって、分析力や判断力が身に付きます。

 

・持論を展開する

更にこうした作業後に重要なのは、分析した情報をじっくり考察して自分の意見を考え出すことです。これが忘れては、レポートの個性が出てきません。これによって創造力や提案力が身に付きます。

 

翻って学生の書くESを読んでみると、志望動機の殆どが企業のセミナーやWebに掲載されている情報だけを元に書かれています。それらが人事部の用意した二次情報であることに気付いていないのでしょう。結果、誰でも似たようなESになってしまいます。ちょっとできる学生ならば、OB訪問で一次情報を求めにいくでしょう。しかし、一人や二人の社員に会っただけでその企業全体がわかったつもりになるのは早計です。そうした分析が甘いことを理解しつつ、更に多くの情報を集めるか、異なる情報リソースを求めていく、そうした学生ならば、事実に基づいた持論を展開できるようになります。つまり就職活動を上手くできる学生とは、ちゃんと大学の授業で学ぶべきことを学び、それを応用できる学生なのですね。

 

第225号:岩波書店の紹介採用はあたりまえ

岩波書店の採用手法(とりあえず『紹介採用』と呼びます)が話題となりました。既にネット上では沈静化してきたようですが、私も意見を述べてみます。結論から言えば、これは岩波書店(従業員約200人)のような中小企業ではよくあることです。法的にも何の問題もありませんし、私が採用コンサルタントならば、推奨したいくらいの方式です。

 

・縁故(コネ)採用ではない

どこの企業でも、縁故採用というのは発生します。というのは、縁故採用というのは採用担当者が積極的に働きかけるものではなく、応募者側から売り込んでくるものです。それも採用担当者の雲の上から。なので、紹介採用は縁故採用とは異なりますし、仮に縁故採用であったとしても、民間企業である限りどんな採用方式をとろうと自由です。公務員や何処かの地方自治体の教育委員会のでもないのに、厚生労働大臣の事実関係を調べるなどとは論外です。

・優良中小企業は紹介採用で十分

岩波書店の説明の通り、採用数が数名という中小企業では、ITを使った大量母集団形成を行う今の新卒採用方式(とりあえず『リクナビモデル』と呼びます)は不合理で、数百万円もの費用などかけていられません。実際、中小の優良企業は本当の縁故採用でも(応募者側から)人気で、取引先の業者や金融関係からの紹介だけで意外と良い人材が集まります。中小企業でリクナビモデルを使うのは、ITベンチャーのように社会での評価がまだ浅かったり、急いで人材を集めなければならない場合です。

・ミスマッチ防止でほめても良い

紹介採用は、かつて普通に存在した「指定校制度」と似ています。今回の論議で、岩波書店を指示した方々が指摘しているのはリクナビモデルの非生産性で、巨大母集団の選抜に学生も採用担当者も疲弊しており、これは壮大なミスマッチ生産システムと言っても良いでしょう。厚生労働大臣が顕彰すれば、ハローワークの仕事も少しは楽になることでしょう。

・紹介採用は逆リクルーター制度

岩波書店の主張では「これは選考基準ではなく応募条件」だそうですが、いずれにしてもこれは応募者の努力で作ることができるものです。もし今回の論議を機会に同社の方々がアプローチしてくる学生に積極的に会ってくれるようになったなら、これは「逆リクルーター」または「全社員リクルーター」ということですし、新しい採用方式ですね。OB/OG訪問の開拓能力が求められるわけです。

 

ただ、今回の経緯を注意して見ていると、岩波書店もまったく新しい採用方式として積極的に行ったわけではないように感じます。もともと慣行になっていたのを書面にして関係各位に連絡したのがネット上に公開されて炎上し、そこで同社も開き直って説明したように見えます。ネット社会と対極にあって泰然としていた紙文化重鎮の岩波書店らしい盲点で、さぞや驚いたことでしょう。

以下、参考サイトURL:

▼岩波書店、採用で「著者か社員の紹介必要」(読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120202-OYT1T00976.htm

▼謹告、小社の「定期採用」報道について(岩波書店)

http://www.iwanami.co.jp/company/index_s.html

 

第224号:法政大学での就業力GPシンポジウム

文科省事業である「就業力GP」については、このメルマガをご覧の皆さまにも関係している方が居られると思いますが、これが事業仕分けにより中断するという連絡が新年早々に飛び込んできました。既に来季授業の手配に入っている時期に大変なことですね。私が研究室を戴いている法政大学もその中の1校ですが、来る2月23日(木)に公開シンポジウムを開催し、我々の活動報告を行います。学内・学外の多くの意見交換できればと思います。

 

このシンポジウムは、今回の文科省の連絡に際して企画したものではなく、当初からこの1年間の活動報告として計画されていたものです。大学の授業は必ず就業力(仕事に就く力、仕事をやりきる力)につなげられるという信念でいろいろな試行錯誤をして参りました。主に以下のようなものですが、今回のシンポジウムではこれらの開発・試行状況を各担当教員がご紹介いたします。

 

1.大学の学びを就職・仕事につなげられる授業の開発

2.就業力が評価出来る手法(アセスメント)の開発

3.他大学でも利用展開できるビデオ教材の開発

 

まだまだ試行錯誤の段階のものも多いですが、今年の目標はこれらの成果を法政大学だけではなく、広く他大学の教職員や企業人事の方々にも評価して戴き、そのご意見を伺いながらより世の中で通用するものにしていきたいということです。そして、その成果を社会に返していきたいと思います。

そんな中で今回の事業中断の告知は、いきなり梯子を外されたような気分でした。しかし私は、これは本当に大学が主体性を発揮できるかどうかの試練であり機会だと考えています。学内連携のみならず、学外連携、産学連携、そうした理想を実現できるかのチャレンジです。

 

入学時期の変更等の改革も良いでしょう。しかし、本当に成すべきことは授業改革であり、その魅力から学生を惹き付け、育て、企業に自信をもって推薦できる人材にする。そして企業からも選ばれる。そんな初夢を今年は実現に向けて踏み出したいと思います。就業力の育成は授業を通じた就職支援、法政大学の覚悟を聴いて戴ければ幸いです。

 

以下、参考サイトURL:

▼法政大学就業力GPシンポジウム案内(どなたでも参加できます。)

http://3step.hosei.ac.jp/data/2011/12/5cbf529c8ae5ffe35e79e8ef7496e242.pdf

▼法政大学就業力GPニューズレター(第10号)

http://3step.hosei.ac.jp/data/2012/01/65e7f00ec55f6a9bb15b42dfa67e450f.pdf

▼法政大学就業力GP広報サイト

http://3step.hosei.ac.jp/

 

第223号:就活4年生にマッチする新卒人材紹介

成人式の連休が終わり、いよいよ世間も本格的な仕事始めとなりました。3年生に向けた企業セミナーが積極的に開催されていますが、その陰で就活4年生(2012年卒)は苦労しています。年末に私の方にも何人かの相談があり、ここはと思う企業の採用担当者に相談をしてみましたが、なかなか対応して戴けません。就職課の皆さんはそういうわけにはいかないでしょうが、企業では2世代同時対応というのは、相当に難しいことです。そんな中でいま一番、頼りになるのは新卒人材紹介だと思います。

 

就職活動を継続中の4年生の背景は様々です。昨春からの度重なる失敗、資格試験不合格、大学院進学不合格等々、年々その理由も多様化しているようです。しかし、採用担当者はキャリアカウンセラーではありませんので、学生の事情を聴いてそれぞれに個別対応するということは普通はありえません。というよりも採用選考プロセス上、非常に困難なのです。特に大手企業の場合、新卒採用プロセスは説明会の会場、面接官の手配、最終決定する役員のスケジュールの調整等、準備するものが多いので小回りが利きません。(役員や上司を説得するのも大変なのです。)

 

年末に馴染みの数社の採用担当者の方に「補欠採用とかで空きはないですか?」と頼んでみましたが、回答は「ご事情はわかりますが4年生は完全に締め切ってしまったので、2013年卒者としてしか受け付けられません。」とのこと。つまり「留年して下さい」ということですね。これが留学生ならば、出遅れたことが就業力の向上に資すると想像できるので、まだ何とか余地はありそうでしたが。

 

さて、こんな中で頼りになるのは、新卒人材紹介ですね。これまで人材紹介は新卒ではあまり発展しないと思われてきましたが、大企業でもどうしても数名の追加採用をしたいとか、中小零細企業でやっと今期の目処が見えて来期(4月)から新人を採りたいという企業にはぴったりマッチします。皮肉なものですが、超早期化で4年生がこの時期に就職できなくなってきたということと、ネット経由の大量母集団形成型の採用活動があまりにコスト(金銭、時間、人権費)がかかるようになってきたからですね。完全成功報酬型(内定が出たら紹介料を払う形態)であれば企業採用担当者も求人は出しやすいです。国もそこに補助金を出せば良いと思います。または3年生の就職支援にハローワークの職員を大学に派遣するくらいなら、相談員ではなく4年生向けの求人情報提供者(紹介者)であって欲しいものです。

 

もうひとつ新卒人材紹介の良いところは、採用選考が終わった後に、応募企業からフィードバックが貰えることです。一般の新卒採用選考においては、特別な意図がない限り、面接のフィードバックは行いません。すぐにネット上に流布して選考がフェアではなくなりますし、その回答が変に一人歩きするリスクもあるからです。しかし人材紹介業者には率直に話をすることができます。特にこの時期に内定のない4年生は、自分自身の言動に無頓着な方や自己中心的な方が多いように見受けられますので、親や就職課とは違う第三者の客観的なフィードバックが重要です。

 

最後に、採用担当者は中途採用では必ず退職・転職理由を尋ねます。その際、ネガティブな理由ではなかなかアピールになりません。4年生も同様にタテマエであろうがなんであろうが、出遅れた理由について納得できるように話して欲しいものです。できれば空元気でも一所懸命に。

第222号:採用活動に関する大学との共同研究-5

毎年大学後期は企業の人事労務管理を研究している大学のゼミ生と採用活動に関する共同研究を行っておりますが、今年は『学生・企業間におけるグローバル人材の認識差』がテーマでした。研究にご協力戴いた企業人事担当者(約10社)を招き、今週その報告会を行いました。グローバル人材というものは就職セミナーでは頻繁に目にしますが、学生と企業の認識には埋めがたい大きな溝があるようです。

 

この研究では学生(425人)と企業(76社)から集めたアンケート回答に加えて、直接訪問した企業(約10社)のインタビューをまとめています。その中でマスコミでもよく取り上げられる「グローバル人材を見据えた新卒社員に必要なもの」については、以下の点について学生と企業とで大きな違いが見られました。

・学生が重視しているが、企業はそれほどでもないもの(上位3つ)

1位:高度な語学力、2位:異文化適応力、3位:国際的視野

・企業が重視しているが、学生はそれほどでもないもの(上位3つ)

1位:情熱、2位:向上心、3位:一般教養

 

これらをみると、学生は具体的なスキルに着目しており、企業はそれよりも資質や人間性に着目しているのが明らかです。研究では更にこうした現象が現れるメカニズムについても考察し、企業の情報発信方法について課題があることを指摘いたしました。何分、大きなテーマだけに企業からの指摘も厳しく研究の不十分な点も明らかになりましたが、学生企業相互に有意義な質疑応答がなされました。

 

このゼミ学生達は全員3年生なので、12月になって始まった企業セミナーを周りながら研究報告をまとめるのに非常に難儀しておりましたが、その就職活動から面白いことを2つ発見しておりました。

・グローバル化に遅れている企業ほど、グローバル化が大事だと主張している。

⇒進んでいる企業はそれほどアピールしない。

・グローバル人材に求めるものは、どこの企業も似ている

⇒「情熱」「向上心」とは良く聴き、勢いはわかるが曖昧でよくわからない。

 

結果、企業への提言としては、現在の企業の一般的な採用方法(Webエントリー⇒大規模セミナー⇒ES⇒面接)は、時間・労力が取られるわりには学生と企業の理解を埋める機能を果たせておらず、長期インターンシップ等の新たな告知採用方法が必要である、となりました。当たり前の結論ですが、採用担当者の方々も実はそれは課題と思っていると共感されていました。今回のテーマが壮大だったので学生達は苦労しておりましたが、その研究結果またまた大きな問題が浮き彫りになったわけです。

 

しかし、この研究活動を通じて、学生達は就職活動や企業の採用活動、そして新卒就職市場についておそらく日本でトップレベルの理解に達しました。そして、大学の研究こそが一番の就職活動であるということに気付いてくれたわけです。指導には大変労力を取られましたが、こうした調査分析報告手法は、どんな学問でも指導できるはずです。苛烈な就職環境に惑わされずに対処する能力を、大学は与えていきたいものですね。末文になりますが、良いお年をお迎え下さいませ。

第221号:採用担当者セミナー三社三様

12月に入り採用広報が一斉に始まりました。採用担当者が各大学セミナーで忙しく飛び回っておりますが、いろいろな個性があって面白いです。採用担当者は会社の顔であり、良くも悪くも学生への印象を形成しますのでやり甲斐のある仕事です。先日、とある大学の合同セミナーで三社三様の個性を聴いてきましたのでご紹介しましょう。

 

理系の文系就職という主旨で行われたセミナーで、登壇された3社の採用担当者達は奇遇にも皆さん入社3年以内という若い方々でした。以下に簡単にそれぞれの個性をまとめます。

先発は有名大企業のA社です。勢いある話し方で「当社は文系も理系も関係ありません!」とビジネススケールの大きさを大声でアピールしている点は総合商社らしい豪快さです。聴講している学生は理系なので、日頃こうした勢いあるセミナーを聴く機会は少ないです。反面、個別の取り扱い製品やビジネスについての話は少なかったので、理系の強さを活かしたいと感じている学生には少々、物足りないと感じられたのではないかと思います。

 

中継ぎ中堅企業のB社は、A社とは対照的な落ち着いた話し方で、ビジネス規模よりも収益性や個別の商品について淡々と説明しておられました。理系の研究開発者向けのセミナーによくあるパターンです。学生には聴きやすい反面、ややインパクトに欠ける感じですが、ニッチな市場で技術者相手にクールな営業を希望する学生には好感をもたれると思います。丁寧な原稿を手元に用意されて読み上げるように話をされていましたが、最後に原稿ではなく個人の仕事観を話されていたのは印象的でした。

 

クローザーのC社は、学生が1時間以上も聴き続けて疲れ気味なところに気付かれ、いきなり「ストレッチしましょう!」と学生の気分転換から入られました。その後の説明で印象的だったのは、プレゼンテーションのスタイルです。A社が一方的にまくし立て、B社は受け身で淡々と説明するのに対し、C社は常に学生に軽い質問を投げてコミュニケーションをとりながら進めていきます。顧客に対し、提案型の営業をしたい学生に共感されたと思います。

 

採用担当者の盲点になりがちなのは、自分のプレゼンテーションが学生にどのように見えているのか気付きにくい点です。なかなか難しいのは、ターゲットとする学生は誰で、何をどうアピールするか、と絞り込む点です。万人に受けるプレゼンテーションというのはありませんから、そのメリハリが大事です。なので、こうした合同セミナーでは自社の特長や自分の個性に気付く良い機会です。

一般的に言って有名大企業ほどこうした点にわりと無頓着です。BtoB系の無名企業の採用担当者だった私もそうでしたが、合同セミナーでは特に知恵を絞って自社の魅力をアピールするプレゼンを考え、その駆け引き(?)に燃えました。

 

ところで、今回の3社の若い採用担当者の方々のプレゼンテーションはどれも個性があり好感がもてました。企業規模や業界特性などに関係なく、若い社員が自己流ながらも試行錯誤しながら現場で頑張っていること、それが何よりも就職活動中の学生へのアピールになるのでしょうね。採用担当者の先輩として、師走に全国を飛び回りはじめた後輩達にエールを送りたいと思います。

 

第220号:オリンピック選手から学ぶこと

私は今年から筑波大学でスポーツを専攻する学生達を対象とした講義の一コマを担当しており、9月に「アカデミック・アスリート」というテーマでスポーツを通じた大学生のキャリア形成についてお話ししました。この講義はトップアスリートとなったスポーツ選手の講話から、選手として教員として、そして社会で事業を展開するビジネスパーソンとしての智慧を学ぶとても面白い授業です。その最終回で、冬季オリンピック・フィギュアスケート部門で金メダルを取られた荒川静香さんのお話がありました。私も1聴講者となって拝聴していたのですが、そのお話もまさに金メダル級の内容で、スポーツ選手だけではなく、すべての学生の参考にもなるものでした。

 

荒川さんのお話の全てをここでは書ききれませんが、これから就職戦線に臨む学生の方々に役立つと思われることを1つお伝え致します。それは、自分の短所に目を向けるということです。最近は自分の長所を伸ばすという考え方をする人が増えているようですが、荒川さんの場合は自分の短所を徹底的に見つめ、それが長所になるほどに対策を考え抜いています。自分の短所に目をつぶるのは、自分の可能性を閉じてしまうことだと話されていました。また、荒川さんは実はプレッシャーには弱いそうです。しかし、それに負けないために、考えられる全ての事態を想定してその対策を考え続けることで無心になって努力されています。最近のオリンピック選手は「楽しむ」という言葉をよく使いますが、荒川さんはそれを「楽しめるくらいに努力した人が勝つ」と考えており、それは「楽しむ」を単なる精神論ではなく技術論に高めているということです。

 

ちなみに荒川さんは早稲田大学の受験に際し、あえてスポーツ推薦を避けています。授業もどんなに練習が忙しくても友人からノートを貰うのではなく、自ら授業に出席して勉強したそうです。更に生活費のためにコンビニやファーストフードでアルバイトまでされていました。こうしたふつうの学生として過ごすことを大事にする点は、毎日の積み重ねの習慣が大きな成果を招くことを知っているスポーツ選手らしいと思います。

最近、荒川さんは15歳の高校生向けの著書を出されましたが、この本は勇気や元気を貰いたい大学生にとっても非常に参考になります。就職戦線を前にしてプレッシャーに負けそうな学生にはきっと良いものが得られるでしょう。荒川さんの大学時代の就職活動についても触れられており、就職課の片隅におかれても良いですね。是非、一読をお薦め致します。

 

▼参考URL:筑波大学勇者の鼓動-未来を創るスポーツ王国論Ⅱ

http://www.tsukuba.ac.jp/education/g-courses/detail.php?subject_id=211

▼参考URL:筑波大学最新情報「プロフィギュアスケーターの荒川静香氏が本学で講義」

http://www.tsukuba.ac.jp/topics/20111122095725.html

▼参考URL:茨城新聞「短所に向き合い克服」荒川静香さん、筑波大で公開授業」(2011/11/15)

http://ibarakinews.jp/news/news.php?f_jun=13212774117191

▼参考URL:「乗り越える力」荒川静香著、講談社

http://www.amazon.co.jp/dp/406216910X/ref=pd_sim_b_2

 

第219号:論文を修了要件にしないのは?

この夏、中教審から「大学院では修士論文を必須の修了要件にしない」という提案が出され、文科省で要綱として策定されました。大学教員からは嘆かわしいことであるという声を多く耳にしましたが、企業採用担当者にとってはそれほど大きなインパクトには見えなかったようです。論文作成を通じて学生の学ぶものが、企業で求めるものとは異なると感じているからでしょう。このズレは、学生にとっても企業にとっても非常に不幸なことだと思うのです。

 

私自身、論文作成を経験してみて様々な能力が身に付くことがわかりました。大きな課題に取り組むための長期の計画性や忍耐力、論拠を提示しながら説明する客観性や文章力、そして口頭諮問におけるプレゼンテーション力等、様々な能力が開発されます。しかし、それ以上に驚いた発見は、学部学科や教員によって評価基準と指導方法が全く異なることです。当然ながら、育成される学生の経験値や資質も異なり、結局、就職活動において論文作成をアピールできる学生とできない学生に分かれてしまいます。

 

もしも形式重視の教員に指導されたならば、文章のお作法や手続きについてカッチリした論理性や秩序を重んじる資質が身に付くでしょうし、もしも発想重視の教員に指導されたならば、形式よりも斬新なアイデアや感性を重んじるようになるでしょう。指導方法についても、定期的に報告を求める教員と必要な時にだけ指導する教員とでは、学生の計画性や自主性についても差が出てきます。

 

一方、面白いもので、大学でしっかり勉強して論文もしっかりまとめてきた採用担当者は、面接において勉強内容について質問することが多いです。採用担当者は、面接において自分のもっている判断基準(経験値)によって判断するからです。私自身も法学部出身だったので、法学部の学生の面接は私が全員を担当して勉強している学生かどうかを見極めておりました。

 

ところが悲しいかな、(文系学生の採用選考では)このような勉強内容を中心に深く質問する採用担当者は少数派です。多くの採用担当者は、学生時代に勉強が苦手で判断基準をもちえなかったか、勉強以外の要素を重視しているからでしょう。論文作成については、早期化の影響でまだ質問できる時期ではないということもあります。採用活動を遅らせると論文作成に支障がでるという大学関係者もおられますが、私は反対で、勉強の集大成である論文作成について質問できない時期に面接を行う方が大学教育軽視だと思います。

 

多くの採用担当者は「最近の学生が面接で語る頑張ったことは、アルバイトとサークルばかりだ。」「最近の学生は勉強についてまず語らない。」などと嘆いています。しかしそれは逆で、採用担当者が聴かないから学生が語らない(勉強しない)のかもしれませんね。となると、日本の大学生に勉強して貰うには、しっかり論文を書いて貰うには、まずは企業採用担当者に大学院に入学して貰って勉強して戴くのが先決かもしれません。

やぶ蛇になってしまいましたが、採用面接で優秀な成績の学生を何気なく褒めたとき、その学生が満面の笑顔になって「初めて面接でそんなことを言われました。」と迷わず入社を決めてくれたことが忘れられません。勉強だけが大学ではありませんが、もうちょっと勉強について面接の話題にして欲しいと思うこの頃です。

第218号:「stay hungry, stay foolish」

「ハングリーであれ、馬鹿であれ」。アップル創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が大学を卒業する若者たちに託した言葉であることはご説明するまでもないでしょう。この言葉が発せられたスタンフォード大学での「伝説のスピーチ」のビデオは、私も授業で何度となく使っており、多くの学生に感動と勇気を与えてきました。いま、就職活動をする学生達にも、採用活動をする企業人事の方々にも、改めて見て戴きたいと思います。型にはまった就職活動や採用活動から抜け出すために。

 

インターネットが一般的なものとなって約10年、世界中の情報が驚異的なスピードで、圧倒的なボリュームで、革命的な低コストで入手できるようになりました。しかし、今も昔も人間の情報処理能力はそれほど変わりません。ということは、現代の高速莫大格安情報社会に、その付き合い方を注意せず入り込むと、人間は考える力を奪われ、無数の情報に振り回され、その結果、無思考に与えられた作業を繰り返すことになります。

 

翻って、この10年の就職活動・採用活動は、ひたすら情報の扱い方に学生も企業も追われ続けてきたのではないでしょうか。その結果、多くの学生が個性を失い、多くの企業が画一的な採用活動を行うようになりました。

「Web登録⇒エントリーシート(ES)⇒セミナー⇒筆記試験(Webテスト)⇒面接」

津波のように大量の学生が応募し、洪水のようなESを企業が選考しています。

そして、いつの間にか学生は企業が用意しないと就職活動ができなくなり、いつの間にか企業は個性的な選考方法を考える力を失ってきました。

 

しかし今シーズンは、そうした惰性のような就職活動・採用活動を見直す機会になるのではないかと思います。企業が12月までセミナーを開かないから就職活動ができないなんてことはありません。そもそも就職活動は、企業が用意したラインに乗ることだけではなく、社会を理解する、仕事を理解するためにはいくらでも方法はあります。バイトやインターンシップが無くたって、敬語やビジネスマナーやロジカルシンキングを身に付けることはできます。

 

個人情報保護でOB・OG訪問がやりにくいという人も居ますが、無理も限界も人間が頭の中で作り出しているものです。頭はダメな理由を考えるのではなく、できる理由を考えるために使うべきです。

それでも良いアイデアが出なかったら?そんな時の呪文が、「stay hungry, stay foolish」です。

 

この言葉は、へこたれずに無駄を考えずにやってみるということで、就職活動をする学生にも個性的な学生を採用したい企業にも良いメッセージです。前回ご紹介したネスレ日本の採用担当者の方は、「正直この新しい企画がどうなるかは未知数です。」とおっしゃっていました。でも、大事なことはチャレンジしてみることです。

「stay hungry, stay foolish」ジョブズ氏のメッセージを今こそ大事にしたいものですね。