第196号:就業力の評価について

前回、就業力育成支援事業について書きましたが、もう少し採用担当者の目線で私の考え方をお伝えしておきたいと思います。就業力が本当に評価されるということは、採用担当者がそれを評価するということでしょうし、それは企業経営の言葉でいえば、人材の採用コストが下げられるということです。

 

採用コストにはいろいろなものがありますが、大きくは広報費用と選考費用です。これらの金銭的・時間的コストを下げるために、広報費用についてはマスメディアを通じた大規模広報ではいたずらに応募者を増やしてしまいますので、大手企業は焦点を絞った学校・学生に対してヒトメディア(リクルーター)を投じるようになってきました。先般報道されたトヨタのリクルーター制度復活はまさにその象徴です。後者の選考費用のコストダウンも、リクルーターを送り込む大学を選別することによって、母集団形成の段階から既に達成されてきます。つまり実質的には指定校制度ですね。

 

更に選考費用を下げるためには、一次選考の代替指標を導入します。大学名(大学偏差値)は代表的なものですが、大学大衆化の現在はあまり参考にならなくなってきたので、入学後に得た指標が求められます。例えばTOEICや高度な公的資格です。これらの指標は、それだけで内定決定までには至りませんが、筆記試験やエントリーシートを免除する位の効能は認められますし、そうした指標を評価された学生は志望動機も高くなる傾向にあるので、内定辞退率が低下して採用コストを下げてくれます。

 

しかし、大学側として認めて欲しい代替指標はなんといっても成績表でしょう。わざわざ国際基準に会わせてGPAを導入したのですから留学や奨学金申請のためだけではなく、是非、企業の採用選考基準としても認めて欲しいものです。採用担当者としてもGPA3.5以上なら筆記試験は免除して採点コストを下げたいところですが、それができない理由は、成績の採点基準が科目や教員によってバラバラで成績表の信頼度がわからずに学生間比較が困難なこと、採用担当者が成績表だけでは把握できない資質を重視していることなどがあげられます。

 

理想的には2年前に中教審の方針通り、学士力認定の厳格化をするべきです。(あれは果たして進んでいるのでしょうか?)それは大学にとってかなり時間と労力がかかります。ならば、成績表を補完する情報があれば良いと思います。企業の人事評価でも、多くの企業は業績考課という結果を数値化しやすいものと、情意考課という努力面やプロセスを説明するものとがあります。つまり、成績表を補完して学生の資質を説明する資料が学校から発行されれば良いのです。早い話が推薦書ですね。それも就職課が企業に乞われて第一志望だけを保証するようなものではなく、ちゃんと学生の資質を現すものをです。

 

やや夢物語的かもしれませんが、こうした信頼できる指標を就業力と呼ぶならば、企業も採用コストダウンのために評価してくれるのではないかと思います。そのためには、この指標の開発を大学だけで行うのではなく、企業を巻き込んで一緒に行うべきでしょう。しかし、この発想はかつての指定校制度と推薦制度の復活というなんだか時代を遡るような気もします。それは大学の原点に戻るということなのかもしれませんが。

 

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