第73号:人生は実験と冒険

夏休みを迎えた大学からは学生の姿が消えましたが、最近は多くのオープンキャンパスを開催する大学が増え、高校生や親御さんの姿をみかけます。大学全入時代もすぐ目の前になり、無理をしなければ必ず大学に入れるようになりました。人間は失敗と挫折を繰り返しながらタフに成長していくものですが、大学全入時代では残念ながらその成長の機会が一つ無くなってしまうようです。

「最近の応募者はみんな綺麗な履歴書だねえ。」これはとある製造業で理工系学生の採用面接を担当している技術部長がつぶやいた言葉です。この企業は急成長したベンチャー企業ですが、かつては人材育成の余裕がなく即戦力の中途採用が中心でした。非常に苦労しながらも大きく成長し、今では新卒定期採用ができるよになりました。常に人材難に悩むベンチャー企業としては有り難いことなのですが、この技術部長の嘆きともとれるつぶやきの真意は、人生の挫折を経験したタフな学生が少なくなったということです。企業の知名度が上がり、今までは振り向いてくれなかった大学からも(履歴上・成績上)は優秀な学生がやってくるようになりましたが、浪人や留年を経験した学生の応募が減り、ストレートに大学卒業年次まで達している学生が増えてきています。この技術部長の嘆きは贅沢なことなのかもしれませんが、最近、仕事で壁にぶつかってなかなか挫折から立ち直れない新入社員が増えてきていることを危惧しているのです。

社会に出てぶつかる仕事の壁は、学生時代との問題とは違ってたった一つの正解が存在するものではありません。正解は無数にありますし、その点数も100点満点ではなく、150点ということもあれば、マイナス200点ということさえありえます。そんなときには自分でもがいて悩みぬいて行動したり、時には恥を忍んで他人に頭を下げて相談したりして何とか乗り越えていかねばなりません。そんな挫折経験から若者は自分の無力さを理解したり、コミュニケーション力を身に付けたりするのですね。

「もうちょっと回り道をしたり、挫折をしている面白い若者を集めなさいよ。会社に入ってから挫折にぶつかって立ち直らせるのは大変だし、最近は挫折から自分で這い上がれる新人が減って面倒だよ。」続けて語る技術部長の言葉は、来る大学全入時代においてますます難題になるかもしれません。願わくは、キャンパス外で飛び回る夏休み中の若者達が多くのことにチャレンジして挫折にぶつかりますように・・・・。人生は実験と冒険の連続ですから。

 

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