大学は夏休みに入りましたが、教員は前期末レポート・試験採点の佳境です。私もオリンピック中継を横目に答案の山と格闘しています。しかし、こうして一所懸命に行った授業の成績採点(成績表)は、企業の採用選考において必ずしも重視されておりません。この悩ましい事実について考えてみましょう。
最近大学の成績が重視されるようになったとの論がありますが、これは進学率が上がり多様化した大学生を選抜する最初のスクリーニング(初期選考)が必要になってきたことであって、企業採用担当者が成績表をちゃんとみるようになった(採用選考の必須基準にする)とは言い難いと思います。というのは、以下の理由から採用担当者にとって成績表はそのまま信じるわけにいかないのです。
・本人の成績かどうかわからない
適性検査(初期選考・非面接選考)での最大の課題は本人認証です。Webテストでは、複数学生が同時に回答する、本人以外の(有名大学の)学生による代理受験等、CIAやゴルゴ13に負けない対策をとる学生もおります。故に多くの企業は適性検査をテストセンターで行っております。
また、授業に一切出席せず、真面目な同級生や後輩からノートのコピーをとって受験する、レポート作成を友人に依頼するというのは、私の学生時代(前世紀)からあることです。
・教員の評価基準がマチマチ
仮に全て本人がレポートを書き、テストを受験したとしても、その課題の難易度、成績評価の基準の厳しさ(甘辛)は教員によってマチマチです。なので、私自身も採用担当者時代には、応募者の大学の中で代返のできない科目、テスト評価の厳しい先生の授業を把握して、成績表の中でもその科目だけを見るようにしておりました。
・大学での学びの本質が理解されていない
教員で民間企業での勤務経験がある方は稀少です。商学部や経営学部の教員なら研究活動の中で理解していけますが、文学部などでは企業で社会人が働くシーンを見たことも無い教員も多いでしょう。そのため「私の授業は社会で役に立つものではありません」と語る教員さえおられます。
こうした背景があるので、現状の成績表はそのまま採用選考基準にするわけにはいきません。(逆に言うと、そうした点も見抜けるのが上級の採用担当者です。)
更に、私は教員になって7年になりますが、私自身が教員側として成績評価をする際に、非常に悩んだことがあります。それは成績評価(結果)のもつ教育効果です。学生は、成績の結果によって学問への関心や意欲が変わります。特にキャリア教育は本人の人格に触れることが多く、かつ確固たる正解がある分野ではありません。そのためレポートを読んで、その内容自体は低レベルであっても、書き方に意欲や熱意を感じた場合には、その点を評価に加える場合があります。しかし、これは学生を知らない採用担当者にとっては困ったことでしょう。
海外の大学を模範に秋入学を導入するならば、海外で標準となっている成績表(GPA)評価を採用選考基準(応募要件)にする点も見習わなければと思います。