第260号:教材ビデオの「ねじれ理解」

春学期(前期)の授業が終了しました。私が法政大学で手掛けている教材ビデオは、お陰様で今期も好評に終えることができました。この2年間で学内外の大学生、約5000人が受講しました。これだけの学生の受講感想を見ていると、想定外の「ねじれ理解」をしていることもあります。それは大事な指導ポイントでもあります。

 

教材ビデオは、実際の仕事の現場でおきた事例をモデルにして制作しておりますが、主人公クラスはプロの俳優の方にお願いして再現しています。ビデオを視聴した学生の感想で良く出てくるのは以下のようなものです。

 

「こんな優しい上司はいない」

「私のアルバイトの店長は指導なんかしてくれない」

「これはドラマだ(現実とは違う)」

 

こうした学生の感想を聴くと、確かにそのとおりだと思いがちですが、実はここに「ねじれ理解」が潜んでいるのです。というのは、殆どの学生は企業内での実際の上司が部下を指導する場面を見たことがありません。それなのにどうして上記のような感想が出てくるのでしょう?それは、学生の理解の根拠が、漫画やTVによるものだからです。私も多くのトレンディ・ドラマを楽しんでいますが、その中で企業の仕事を扱ったものは非現実的なことがよくわかります。なので、学生とは逆に「こんな酷い上司はいない」と思うことの方が多いです。私が恵まれた職場に居たからかもしれませんが、多くの企業の採用担当者を見ていても同様に感じます(だからドラマは面白いのですが)。

 

また、アルバイト店長という現実での学生の上司の場合、そうした上司(店長)も多くは非正規社員であり、部下の指導方法や育て方などのトレーニングも受けておりません。短期間に作業を行わせる作業効率中心の指導はしますが、それは正社員を長期に育成するようなものではありません。私も長年、社員研修や指導員をやってきましたが、新入社員にはあえて限界を超えるような仕事量を与えたり、未知の仕事をさせてみたり、わざと失敗から学ばせる経験をもたせます。

 

ところが、こうした(正社員の)上司と部下の指導関係を見たことのない学生にとっては、非現実的な上司を現実と思い、現実的な上司を非現実と思い込む「ねじれ理解」になっているのです。

 

これは民間企業で働いたことのない教職員の方には気づきにくい点かもしれません。しかし、学生が物事を判断する時に、その判断の根拠となる事実がオリジナル(一次情報)によるものなのか、誰かの価値観の入った伝聞操作(二次)情報であるのかは指導できると思います。大学で学ぶアカデミック・スキルは、そのまま社会でも就職活動でも活きるのです。国会のねじれ現象も片付いたようですので、学生の意識のねじれも解消してあげたいものです。

 

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